神様へるぷ♪ 


「…どうして、君たちがここにいるんだ……」
如月は普段の彼には想像できないほど、露骨に嫌な顔と大きなため息を漏らした。それを見ていた壬生は珍しいものを見たというように、思わずそんな如月を観察してしまった。
「何を言っているんだい、亀くん。俺達は親友だろう?」
「何時から僕と貴様は親友になったのだ」
本当に如月の顔は嫌そうだった。そんな彼が可笑しくて、無意識に壬生の口許から笑みが零れる。そしてその原因の二人に視線を送って、そして如月をに再び視線を戻して。
「ごめんなさい、僕が呼んだんです。二人を」
壬生にそう言われては、如月は何も言えなくなってしまう。おまけに今回は彼にしては珍しい程の無邪気な笑顔付きだ。
「君が…呼んだのなら……」
「相変わらず如月は、壬生に弱いねー。惚れた弱みと言う奴だね」
「貴様に言われたくない、蓬莱寺。貴様だって龍麻の言いなりではないかっ」
「そりゃー俺はひーちゃんにベタ惚れだからなっ」
「ふ、それならば僕だって紅葉に対する想いは誰にも負けない」
「甘いな、亀くん。俺のひーちゃんへの愛は無限大なんだぜっ」
「無限大なんて、馬鹿げた表現だ。僕はそんな簡単に口で言い表せるものではない」
「…また、やってるよ……」
それまで黙って成り行きを見ていた龍麻が、諦めたように壬生に向かってそう言った。大きなため息と、共に。
「放っておこう、龍麻。当分は終わらないよ。それよりも寒いから中に入って。何か飲み物を入れるよ」
「うんっだったら俺、ココアがいい」
「そう言うと思って買っておいたよ」
「わ〜い、壬生大好き♪」
「何だってっ?!ひーちゃんっ!」
「龍麻、紅葉は僕のものだ」
龍麻の言葉にとっさに反応した二人だが、それを余所に壬生と龍麻はとっとと室内へと入ってしまった。
二人は仕方なく不毛な争いを止めて、後を追った。

「蓬莱寺さんは、何を飲みますか?」
「俺、アルコールがいいっ」
龍麻にホットココアを渡してから、壬生は京一に尋ねた。その質問に間髪入れずに京一は答える。
「貴様、ここを何処だと思っているんだ」
「亀くんのお家♪」
悪びれずに言う京一に如月は肩をがっくりと落とした。本当に一度頭の構造を覗き込みたいと思う。
「だったら少しは遠慮する控え目な心はないのか?」
「だってー亀くんと俺は親友じゃんっ」
「亀と呼ぶなと言っただろうが」
「何でー?やっぱ親友ならばニックネームで呼び合うのが世の常識」
「そんな常識は貴様だけだ」
「あ、あのアルコールでしたらこの間のワインが…」
どうしてこの二人は何時もこうなんだ…内心で深いため息を付きながら、壬生は控えめにその会話に入ってゆく。一方龍麻と言えば大好きなココアを飲めて、幸せ一杯と言う表情だった。
「あれは君のために用意したものだ。こんな奴に飲ませる気はない」
「酷いなーっ亀くんっ俺達の友情ってそんなものだったの?」
「貴様と僕に友情など存在していない」
「俺も飲みたいっ!」
今まで全く会話に参加しなかった龍麻が絶妙のタイミングで主張してきた。その顔は罪な程無邪気だった。
「如月さん、龍麻も飲みたいって言ってますし…皆で飲みませんか?」
「…まあ、君がそう言うのなら……」
「よかったですね、龍麻。蓬莱寺さん。めったに飲めない高級ワインですよ」
にこっと壬生は笑うと仕度をする為に勝手したるキッチンへと向かった。その後を如月は付いてゆく。
「君の為にわざわざ取り寄せたのに」
二人っきりになった途端、少し拗ねながら如月は言った。壬生はワイン通ではないから詳しい事は知らないが、滅多に飲む事の出来ない相当高いもらしいと言う事だけは分かった。
「僕はその気持ちだけで、充分ですよ」
「本当に君は我が侭を言わない。少しは言ってほしいのに」
「充分僕は我が侭ですよ。だって」
微かに壬生の頬が赤く染まると、そのまま如月に口付けた。それは本当に一瞬の事だったけど。
「…だって…貴方を独占している……」
「それだけで、いいの?」
「貴方が傍にいてくれる事が僕にとっての一番の贅沢ですから」
それだけを如月に告げて、壬生は簡単なつまみを作りはじめた。一緒にいて気付いた事だが、壬生はひどくマメな所がある。そんな彼が如月にはひどく、愛しい。
「じゃあ僕はグラスを持ってゆくよ。四人分を、ね」
…だからどんな些細な事でも、叶えてあげたいから。

「ひーちゃんって酒飲めたっけ?」
「むーっ俺を子供扱いするなっ少しなら飲めるぞ」
頬を膨らませながら拗ねる龍麻に京一は無意識に口が緩むのを押さえ切れない。こんな仕種がどうしようもない程、可愛い。
「でも『少し』だろ?」
「…いいじゃん、まだ未成年なんだから…」
「まあそりゃそーだな」
ここが如月の家でなければ本当にこのまま押し倒したい程に龍麻は可愛い。もうここまで来ると犯罪だ。
「でも俺はココアを飲んでるひーちゃんは…凄く可愛いと思う……」
「…京一……」
「……ひーちゃん……」
二人の視線が絡み合う。そのまま龍麻はそっと目を閉じた……。と、その時だった。
「貴様ら人の家で何やっている」
「き、如月っ!」
「…わっ…如月…こ、これは……」
慌てる京一と真っ赤な龍麻が対照的で如月には可笑しかった。ただしそれは如月の表情には全く現れていないが。ポーカーフェースもここまでいけば立派である。
「いいじゃねーかよっお前だって何時でも何処でも壬生といちゃついてるじゃねーかよっ」
「それは僕らは愛し合っているからな。当然だ」
「だったらお前にだけは言われたくないっ!」
今になって龍麻は壬生の心境を理解した気が、した。確かにこの二人を止めるのは…かなり大変な気がする。そして自分には手出し出来そうも無い。思わず壬生に助けを求めようと視線をキッチンへと巡らせた。
「お二人ともいい加減にしてください」
龍麻の心が通じたのか、簡単な料理を用意して壬生が戻って来た。少しお腹が空いてたらしい。その美味しそうな匂いに龍麻は惹かれずにはいられなかった。
「おっ壬生、気が利くねぇ♪」
「当たり前だ、僕の恋人なのだから」
「まあ亀くんに付き合うくらいだから、よっぽど出来た恋人じゃねーとなぁ」
「ちょっと待て、蓬莱寺。それはどう言う意味だ」
「いやいやー深い意味はないんだけどね」
「それよりも京一、お腹空いたよー。冷めちゃう前に食べようよ」
ナイスタイミングだ…心の中で壬生は呟いた。何だかんだ言っても、無意識に龍麻はタイミングを掴んでいる。それともいい加減…慣れたのか?
「味は保障出来ないですけど…どうぞ」
人数分のワインをグラスに注いで、そしてそれぞれに渡す。簡単に乾杯をすると、料理とワインに手が伸びた。ワインも料理もとても美味しくて、あっとゆう間に全てが綺麗に片付いた。そして未だ飲み足りないと言い出した京一に同意した如月が更にアルコールを用意して、あまり飲めない龍麻も壬生もそれに付き合った。それが、拙かったのかも…しれない……。

…気が付いた時には、とんでも無い事になっていた。

壬生は未だ重たい瞼を懸命に開けた。それは自分の上に感じる重みが、眠りに落ちるよりも先にそれを実行させたのだ。
「…如月…さん?…」
瞼を開いたと同時に飛び込んで来た如月の寝顔に壬生の意識は一気に覚醒する。何時までたってもこの人のアップには慣れる事はない。こんな綺麗な顔が目の前にあると、やっぱり心臓がどきどきしてしまう。
「でも如月さんが寝てしまうなんて…よっぽど飲んだんですね…僕たち……」
如月の下からそっと抜け出すと、そのまま壬生は隣に移動する。ちょうどベッドの上だったのでこのまま寝てしまおうと思い、壬生は如月の腕の中へと滑り込む。ここが一番安心出来る、場所だから。
「…おやすみなさい、如月さん……」
この時壬生は酷い睡魔に襲われていて、普段の冷静な思考が働かなかった。だから。だから隣から聞こえた物音に、何の疑問も持たずにそのまま寝入ってしまったのだった…。

龍麻は内心自分が怯えているのに戸惑った。相手は誰よりも大好きな京一なのだから、怯える理由など無いのに…それなのに、恐いと思った。
「…もー逃げられないぜ、ひーちゃん……」
壁際に追いつめられて、もう龍麻には逃げ場がなかった。そんな龍麻の様子に京一は笑う。その笑顔は自分の知っている彼の笑顔とは違う…ものだった。
「京一っ?!」
いきなり手首を捕まれそのまま押し倒される。フローリングの床の冷たい感触が龍麻の恐怖心を煽った。恐いと、思った。
酔っ払って意識を飛ばした京一は、龍麻にとって全く知らない別人のようで。それが何よりも恐かった。自分の知らない京一がいると言う事が、それが恐かった。
「怯えた顔も、可愛いぜひーちゃん」
そう言うと京一は龍麻の唇を強引に奪う。龍麻は抵抗しようとしてもがくが、両手を押さえつけられ身体を覆い被されていてはそれもままならなかった。
「…んっ…んん…」
怯えるように逃げる龍麻の舌を、京一は強引に絡め取る。そのまま根本から吸い上げられて、龍麻の意識が次第に溶かされていった。未だアルコールの抜けない身体はどこか敏感になっていた。
「……ふぅ…んっ…」
何時しか口許から唾液が零れはじめる。それでも京一は龍麻の唇の味を楽しむ事止めなかった。思う存分その味を堪能する。
「…やぁっ……」
唇が離れたと同時に、龍麻の衣服が剥ぎ取られる。セーターを捲り上げて手首までもってゆくと、そのまま動きを封じるためにそこで止めた。そして剥き出しになった胸元に舌を這わす。
「…やめ…京一…あぁ…」
人差し指と中指で摘み上げながら、舌先でそこをつついた。それだけで敏感な龍麻の身体がびくびくと震える。その反応に満足すると京一は軽く歯を立てた。
「…やんっ…やだ…あ……」
「嘘ばっかりひーちゃん、ここはもうこんなになってるのに」
「…あっ!……」
京一の空いた方の手が、何時しか龍麻自身に触れる。ズボンの上からでも、それは京一の指に快楽の様子を伝えていた。
「…や…やだっ…京一……」
ジィーとジッパーの外れる音がして、龍麻のそれが京一の目の下に暴かれる。それは確かに言葉通りに形を変化させていた。
「…やめ…あっ……」
「こんなになっているのに、嫌なんてひーちゃん嘘付きだね」
「…あぁ…はっ…」
京一の大きな手のひらが龍麻自身を包み込むと、軽く握った。そして形を辿るように指を這わす。先端の割れ目に辿り着くと、そのまま軽く爪を立てた。
「…あぁっ!……」
痛い程の刺激に、龍麻の身体が反り返る。そして京一の手のひらの中のそれは、どくどくと脈を打ち始めていた。
「イキたい?ひーちゃん」
耳元に囁かれる京一の声にすら、龍麻の身体は反応した。京一の筈なのに、京一以外の人間に抱かれてる気がする。こんな風に乱暴に扱われる事を龍麻は知らなかったから。
「…あぁ…んっ…」
「イキたいのなら、俺に頼みなよ」
でも不思議と身体は何時もよりも反応をした。何時もと違う刺激が龍麻の官能に火を付ける。
「…きょお…いち……」
「イキたいって言えよ。ひーちゃん」
指先で出口を押さえながらも、先端に爪を立てる。かりりと引っかかれて、耐え切れずに龍麻のそれから先走りの雫が零れはじめた。
「…ぁぁ…もう…やだぁ…」
苦痛のためなのか快楽のためなのか分からない涙が、龍麻の目尻から零れ落ちる。もう意識が溶かされてどうにもならなくなっていた。
「ならば、言って」
最終宣告のように京一に囁かれる。耳に息を吹きかけながら。そのざわっとした感触にもう、龍麻は堪える事が出来なかった。
「…イカせて……きょう…いち…もう…」
「もう?」
「…我慢…出来ない…」
羞恥の為全身を真っ赤に染めながら呟いた龍麻に、京一は満足したように微笑んで彼を開放した。

京一が自分をなくす程飲んだのを見たのは、龍麻は初めてだった。自分といる時は絶対にこんな事はなかったのに、やはり如月や壬生がいて安心したのだろう。気付いた時には京一は何時もの優しい彼ではなかった。でも。でもと、龍麻は思う。
京一が自分を抱く時どれだけ気を使っていてくれたのかと。本当はこんな風に扱ってみたかったのかな…とそう思うと、彼を拒む事は出来なかった。それに。それに自分も何処かで…こんな風に京一に抱かれてみたいと、思っていたのかも…しれない。

「…ああっ!!…」
何時もなら与えられるはずの後ろへの愛撫もないまま、硬くなった京一自身を身体の中へと埋め込まれた。けれどもまだ開かれていない蕾は中々京一を受け入れてはくれない。
「…いたい…痛い…よぉ…京一……」
先端を埋め込んだだけで受け入れない龍麻に業を煮やしたのか、京一は前に愛撫を始める。そして身体が揺るんだ隙に一気に龍麻の中へと貫いた。
「…ああっ…やだぁ…痛い…」
「痛いだけじゃないだろう?」
言われてみれば確かにそうだった。京一の手の中の自分自身は先ほど果てたのが嘘のようにまた、快楽を主張し始めている。それに何時しか閉ざされていた蕾も京一を受け入れ始め、内壁が収縮していた。
「…はぁ…あぁ…あ…」
龍麻の喘ぎが艶を帯びてゆくのを確認すると、京一はそのまま動き始めた。それは何時もの彼のリズムとは違った、無茶苦茶な動きだった。けれどもそれが逆に龍麻に今までに無い刺激を与える。
「…あぁ…もう…駄目…あっ…」
がくがくと身体を揺さぶられ、龍麻の意識は飛びそうだった。それを必死で堪えながら、京一の与える未知の快楽のリズムを必死で追った。
「…駄目…もぉ…壊れ…る……」
「壊してやるよ、ひーちゃん」
「あああーっ!」
視界が真っ白になったと同時に、龍麻の中に京一の白い欲望が吐き出されていた。

息苦しさに目を開いたら、唇を塞がれていた。
「…目が、醒めた?わが姫君」
「…如月…さん?……」
沈んでいる意識をゆっくり浮上させて、壬生は如月の綺麗な顔を見上げた。口付けは少しアルコールの匂いがしたけど、そこにあるのは何時もの如月の笑顔だった。
「今、何時ですか?」
「三時半過ぎ、朝まではまだ時間があるよ」
「…だったら…眠りませんか?…」
壬生の提案に如月は再び口付けをして、それを否定した。何故ならその口付けは、息を奪う程の激しさだったので。
「…ふ…きさらぎ…さん…」
唇が離れると同時に如月の舌が零れる唾液を舐め取った。その極上の舌の感触に、完全に壬生の意識は覚醒して、そしてれと同時に身体の奥に火が灯される。
「このまま眠ろうと思ったが、やめた。隣が楽しんでいるのに僕らが楽しめないのはつまらない」
少しだけ拗ねるように言ってくる如月に、壬生は苦笑を浮かべた。本当に本当に時々だけど如月はこんな子供のような仕種を壬生に見せる事がある。
「…楽しんでるって…如月さん…」
「残念ながら僕の家は防音壁ではないからね、まる聞こえだよ」
「…そう、なんですか…っ?!」
そこまで言いかけて壬生は重大な事に気付く。向こうの声が聞こえると言う事はつまり…こっちの声も聞こえる訳で…。
「だ、駄目ですっ如月さんっ!」
「どうして?」
「だっだって…向こうの声が聞こえるなら…こっちの声だって…」
「聞かせてあげればいいだろう?」
耳元に囁かれて、耳たぶをついでとばかりに噛まれた。そして忍び込むように如月の舌が壬生の耳を弄ぶ。
「…駄目…です…如月さん…」
「…どうして?……」
如月の手が壬生の衣服に掛かり、そのままボタンを外した。そして曝け出された素肌の上を指で辿る。
「…だって…恥ずかしい……」
指先に馴染む滑らかな肌。その白い肌が赤く色づく瞬間が、如月には何よりも至上の時だった。自分の手によって鮮やかに色づくその瞬間が。
「そうだね。僕も君の声は誰にも聞かせたくない」
くすりと笑うと如月は壬生に口付けた。そして薄く唇を開かせるとその声を全て奪おうとでも言うように激しく舌を絡めた。
「…んっ…んん…」
その間にも如月の指は壬生の肌を滑り、身体の奥に灯った火種を煽ってゆく。それは何時しか壬生の手に負えない程に暴走し始めた。
「…ふぅ…んっ…はぁっ…」
一度唇を離して、如月は自らの指先を壬生に舐めさせる。それはぴちゃぴちゃと淫らな音を立てながら、濡れていった。
「後ろ、向いて。紅葉」
壬生は如月の言葉通り、仰向けになるとそのままシーツを口に銜えた。それを合図に濡れた指が壬生の最奥へと忍び込む。
「…んっ…くぅ……」
入れた瞬間ぴくんっと身体が強ばったが、充分に濡らしたお陰で後はスムーズだった。埋め込んだ指の本数を増やした頃には、シーツは何時しか壬生の唾液で濡れていた。
「もう、いい?」
後ろから覆い被さるように抱きしめられ、そして耳元で囁かれた問いに。壬生は小さく頷いた。

「んんっ…んっ…」
繋がった部分の熱さに、接合部分が発するいやらしい音に、壬生は意識を手放しそうになる。けれどもそれを必死で堪えているのは、声を聞かれたくないとただその一点のみだった。
「くふぅ…ふ…ぅ……」
「紅葉、こっち向いて」
「……如月…さん…」
快楽に潤んだ瞳が如月を見上げる。その瞳をしばらく堪能して、如月は再び壬生に口付けた。もうこれで全ての声を受け止められる。
「…ふぅ…んっ……」
無理な体勢からの口付けも、暴走している身体にはそれを煽るものでしかなくて。もう壬生は何も考えられなくなって。何も考えられなくて…。
「んんんっ…ん……」
ただ後はこの熱を開放してくれるこのひとに、全てをあずける事だけで…。

「…シーツべとべと……」
まだ荒い息のままで、壬生は呟いた。その白い肌はまだほんのりと上気している。
「君の中も…べとべとだよ…」
「…あっ…駄目…」
如月の指が再び壬生の体内に忍び込む。そして自らが放った精液を指で掬った。それだけで未だ快楽を引きずっている壬生の身体はぴくりと跳ねた。
「もうしないよ。シャワー浴びよう」
「…歩けない、如月さん」
悪戯をする子供みたいな目をして、壬生は両腕を広げる。そんな彼に如月はくすりと一つ微笑うと、そのまま首に手を廻させて彼を抱き上げた。
「ベッドルームにシャワーが付いてるなんて、贅沢だなって思ったけど…こんな時には便利ですね」
「確かに、あの二人に君を見られなくてすむ」
「僕だって、こんな如月さん誰にも見せたくないです」
「一緒だね」
「ええ、一緒です」
視線が絡み合った瞬間、二人で笑った。それが最高に幸せな、瞬間。

目が覚めた瞬間、飛び込んで来た光景に京一は呆然となった。
「…な、何で……」
そこにはセーターだけを腕に絡ませ、それ以外は何も身につけていない龍麻が倒れていた。更にその身体には無数の所有の跡が散らばっている…こ、これは……。
「…お、俺が…やったのか……」
はっとしてみて自分の格好を確認すると、やっぱり全裸だった。そこいら辺に自身の衣服が脱ぎ散らかされている。と、なるとやっぱり。
「…やっぱ俺が…やったんだよなぁ……」
そう呟いてみても不覚にも京一にはその記憶が抜け落ちていた。確かに身体は満たされている気がするのに、全く記憶が無かった。
とりあえずこのままではナンなので素早く服を着ると、意識のない龍麻の服も着せてやる。本当はこのままシャワーを浴びたいのだが、人様の家なのでそれは取りあえず控える事にした。
そしてそっと龍麻を抱き上げると、ソファーの上に寝かせてやる。龍麻は身じろぎもせずにソファーに身を預けた。
「気―失う程、ヤッちゃったのか?俺…」
思いだそうとしても頭が鈍く重く、記憶の破片を拾ってはくれなかった。前後の事は思い出せるのに、何故かそこだけがぽっかりと穴を開けている。
「…はぁ…俺一体ひーちゃんに何したんだ……」
何をしたなんて何を今更とも思ったが、取りあえず口にしてみる。そして同時に出たのは深い、ため息のみだった。

「あ、起きてたんですか。蓬莱寺さん」
喉が渇いたと我が侭を言う如月に仕方ないと苦笑しながら飲み物を取りに行った壬生が、同じく頭をすっきりさせようとキッチンへ向かった京一と鉢合せした。
「ああ、今さっき目が覚めた…今何時だ?」
「五時ちょっと前ですよ」
そう言った壬生の格好は素肌に大きめのシャツを羽織っただけの、ある意味挑発的な格好だった。しかしだからと言って壬生に手を出す事は自殺行為でしかないので絶対にしないが。
「…ボタンくらい、締めた方がいいぜ…」
「男同士で気にする事ないと思いますけど」
「キスマークが見えるんだよ」
その言葉に壬生にしては珍しい程動揺した。そして微かに頬を染めて、咄嗟にボタンを止める。成る程…確かにひーちゃんには叶わないが、壬生は可愛い…とちょっとだけ京一は思った。まああの亀くんがぞっこんになる位だからなぁ…と一人で納得してみたりする。
「本当に仲がいいね、お前ら」
「蓬莱寺さん達も、何時も仲良しですよ」
「まあね、ひーちゃんと俺はらぶらぶだから♪」
「ふふ、それよりも蓬莱寺さんお腹空きませんか?」
「言われてみれば…空いたかも…」
「だったら何か作りますよ。その前に如月さんにこれ持っていかなければならないので、ちょっと待っててくださいね」
そう言うと壬生は冷蔵庫からミネラルウォーターを取り出して、如月の待つ部屋へと向かって行った。その後ろ姿を見送りながら京一は呟く。
「うーん、家事全般万能な恋人かぁ…まあ料理なんて出来なくてもひーちゃんは可愛いからなっ」
結局そこに行き着く京一だった。所詮龍麻以外見えていないのだから。

「あ、如月さん」
部屋に戻ろうとした壬生だったが、リビングに入る彼の姿を見つけて呼び止めた。如月は振り返ると、柔らかく壬生に微笑んだ。
「もうすぐ朝になるからこのまま起きようかと思って」
「ならば如月さんもご飯作りますね」
「もって、誰か起きているのか?」
「俺だよーん♪亀くん」
二人の話し声を聞いた京一が後ろから現れる。その顔はにこやかでさっき考えていた事はすっかり頭の隅に置いて来たらしい。どうも壬生の『何か作りますね』が効いているみたいだ。
「朝から亀って言うな、貴様は」
対照的に如月の表情は地平線を這うが如く不機嫌になった。朝っぱらから亀と言われたのがよっぽど気に入らないらしい。
「紅葉、こんな奴にわざわざ君の手料理を食べさせる事はない」
「でも蓬莱寺さんは一応お客様ですから」
「…君は何処までも優しいな。だがしかし、客の分際で人の家でコトに励むのはどうかと思うが」
「………ちょっと待て、如月…………」
「どうした?」
今日この家に来て初めて京一が『如月』と呼んだのは壬生の気のせいだろうか?でも今まで不機嫌極まりなかった如月が反応した所を見ると、案外思い過ごしではないらしい。現に今如月を見つめる京一の目は、ひどく真剣だった。
「…そ、その…やっぱ俺……ヤッて…たのか?……」
「憶えていないとでも言うのか?あんなに声を出してて」
如月の問いに小さく、京一は頷いた。さっきまでの楽しそうな顔は何処かへ消えてしまっている。何だかちょっとだけ壬生は京一が気の毒になった。
「貴様は…呆れてものが言えんな。僕はあのお陰ですっかり目が醒めてしまったというのに…」
「で、壬生と楽しんだと言う訳か…わっ!」
「蓬莱寺さん、死にたいのなら何時でもどうぞ」
予想外の所から手が伸びてきて、京一は思わず後ずさりした。普段の言動が大人しい分、絶対如月よりも壬生のが怒らせると恐い。
「それよりも本当に憶えていないのか?蓬莱寺」
「…畜生―俺だって不覚なんだよっきっとひーちゃんめためたに可愛かったのに…俺が全然憶えていないなんてーっ!」
…そんな事で落ち込んでいたのか……先ほど京一にちょっとだけ同情した自分が壬生は情けなくなった。
「そうか…憶えていないのか…貴様とんでもない事をしたのに」
「えっ?!」
京一の顔が驚愕の表情になる。それを観察して如月は笑った。その顔は恐いほどに綺麗で。そして。そして壬生は如月がこの表情をしている時は絶対…内心で楽しんでいると言う事を承知していた。何時もなら止めに入るのだが、今回は黙殺を決めた。今回は共に楽しむ道を選んでみたりする。
「龍麻の悲鳴が聞こえたぞ」
「ひ、悲鳴っ??!!!」
…そんなもの…聞こえては、なかったけど……まあいいや。如月さん楽しそうだし。
「確か『助けて』…とか、言っていたような」
「ええっ?!!!」
「後『もう京一なんて知らない…』と泣き声交じりに」
「えええええええええええええーーーーーーーーーーーーっ!!!!!!!」
…如月さん…もうその辺で…と言いかけて壬生は止めた。あまりにも京一の反応が楽しすぎたので。
「わわわわわわわわわわっ、俺俺どーすればいいんだぁぁぁぁぁぁーっ!!!!」
「さあ、僕はただの『亀』だからね。君の相談には乗れないな」
……やっぱり如月さん…気にしてる……
「そ、そんな如月いやっ如月様俺達は親友だろーっ?!」
「亀と人間では親友にはなれんだろう」
「そんな事言わずにぃ〜壬生もー助けてくれよぉ〜」
「僕は他人の情事には口出ししない主義なんです」
「それよりも紅葉、少しお腹が空いたな。君の手料理を食べたいな」
「分かりました如月さん。今日は和食と洋食どっちがいいですか?」
「日本人なら、味噌汁かな?」
如月の言葉に壬生は頷くと呆然と立ち尽くす京一を余所に、二人は仲良くキッチンへと向かった。そこに残されたのは真っ白に燃え尽きた京一のみだった。

「如月さん、ちょっと苛めすぎたんじゃないんですか?」
「いや、あれは事実だぞ」
「えっ?!」
「確かに龍麻はそんな事を言っていたが…ただ…」
「ただ?」
「最後には『たまにはこんなのも…いいかも…』と、言っていたがな」
そう言って微笑う如月は、この上もなく綺麗で見惚れずにはいられなかった。やっぱり自分は絶対に如月には勝てないと…思った。

…そして京一がどうなったかは、神のみぞ知る。

       


End

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