正しい忍者修行


俺の名は黒崎隼人。そしてその本当の正体は、皆の憧れのヒーローコスモブラックだ。今日も世界のそして練馬の平和の為に、これから秘密の特訓に向かう所さ。何てったってヒーローたるもの陰で努力を怠ってはいけないのだからな。
で、今日はあの憧れの如月さんに忍者の修行を教えてもらえることになっている。そう俺の憧れの如月さん…大人っぽくって凄くカッコよくて、そして何よりも忍者。俺が今最も尊敬している人だ。その人から直々に忍者の指導をしてもらえるのだ。
俺はつい無意識にスキップしてしまう程に舞いあがっていた。

「やあ、黒崎」
如月骨董品店の扉を開けるとそこには眩しすぎる程眩しい如月さんの笑顔があった。いきなりこの笑顔攻撃に俺はすっかりへろへろだ。
何てったって如月さんはかっこいいのである。その整いすぎる程整った顔も、低めの良く通る声も、さらさらの髪もその全てが超一流なのだ。
そんな如月さんのこんな笑顔を見せられたらろお老若男女問わず、めろめろだろう。俺もすっかり腰に来てしまっている。…本当にどうしてこの人はこんなにかっこいいのか…。
不覚にも俺は如月さんが男であるにも関わらず、何をされてもいい…とすら思ってしまう…といけないっ俺は正義のヒーローコスモブラックだっ!
「君を待っていたよ、こっちへおいで」
そう言って如月さんは店をとっとと閉めてしまうと、そのまま俺を自分の住居の方へと案内した。如月さんにぴったりの落ちついた感じの室内は純和風だった。
「何か、飲み物でも?」
「あ、いいえ…いい…です…」
緊張して言葉が上手く言えない。らしくないぞ、俺っと心にカツを入れてみてもその綺麗な顔が身近にあるとやっぱり緊張してしまう。
「ふ、どうした?黒崎」
そう言って如月さんは益々俺に顔を近づけてくる。これ以上近づかれたら俺の顔は真っ赤になってしまうっ……あ、駄目だ…耳まで…真っ赤になってしまった。
「トマトみたいだな、黒崎」
くすりと笑った如月さんの顔はどうしようもない程かっこよくて、俺はそのまま倒れてしまいそうになった。そんな俺の心を知ってか知らずか如月さんは立ち上がって。
「じゃあ、忍者修行でもしようか」
と、言った。

「あ、あの如月さん…こ、これの何処が修行…なんですか?」
いきなり床に押し倒され、その綺麗な顔がドアップで迫ってくる。その迫力が凄すぎてつい、後ろにたじろいでしまった。
「忍耐の修行だよ、黒崎」
「に、忍耐の修行っ?!」
「そう忍者たるもの、何時敵に捕らえられるか分からない。だから、敵に捕らえられても秘密を漏らさないように、耐える事が今日の修行さ」
如月さんに言われると、なるほどそんな気がしてくるから不思議だ。そう思って不意に如月さんを見返したら、いきなり口付けられた。
「…んっ…んん……」
ベルベットのような感触の唇が俺のそれに重なる。そして舌で唇をなぞられて堪らずに唇を開くと、舌が忍び込んできた。
「…ふぅ…んっ…」
生き物のように絡みつく舌の感触が、自分の感覚を拡散させてゆく。如月さんのキスは…上手い。上手すぎて、全てが溶かされてしまいそうになった。
「…はぁっ…」
やっと唇が開放されたと思ったら追い討ちをかけるように、如月さんはまた極上の笑みを浮かべた。そして、口許に零れた唾液をその舌で拭った。
「キスくらいでこんなになるなんて…まだまだ修行が足りないね」
「…あっ…」
…何の修行ですかっ?!そう聞こうとしたが出た声は鼻に掛かった甘い吐息だった。自分でもこんな声が出るのかと驚くくらいの。けれども如月さんはそんな自分の気持ちを知ってか知らずか、器用に俺の上着のボタンを外してゆく。
「…やっ…」
全て服が脱がされて冷たい空気が肌に直接に当たる。その冷たさに一瞬身体が震えたが、如月さんの綺麗な指先が俺の肌に触れて、逆に身体が熱くなった。
「…やめ…如月…さん…」
「イヤなら抵抗するんだよ、黒崎。これは修行なんだから」
そう言われても身体に力が全然入らない。あまりにも如月さんの指使いは巧みで、俺の意識は身体はどんどん溶かされていってしまう…。
「…あぁ…はぁ…ん…」
胸の突起に触れられて思わず身体がぴくりと跳ねた。そんな俺の反応を楽しむように如月さんの指が執拗にそこを攻めたてる。軽く歯を立てられて、声を堪える事が出来なくなってしまった。
「…あぁ…ん…」
まるで身体が自分のものではないような錯覚に陥る。そのくらい如月さんの愛撫は的確で巧みだった。もう、どうなってもいいと思わせてしまうほどの。
「抵抗しないと、このままどうなるか分からないよ」
そう言われても…快楽の火種を付けられてしまった身体は自分の意思通りには動いてくれない。ただ如月さんの指先に反応する事しか。
「…ぁぁ…駄目…」
「言葉だけで抵抗しても意味はないよ」
「…で、でも…」
「でも?」
「……気持ちよくて…逆らえない…」
自分で言ってみてその言葉のあまりの恥かしさに一気に意識が覚醒する。そして自分でもイヤなくらいに全身が真っ赤になっているのが分かる。ああコスモブラック一生の不覚…。
「君は忍者、失格だね」
くすくすと如月さんは、笑った。その笑顔がとても綺麗でとても楽しそう、だったから。修行にならなくてもいいやって…思ってしまった。

「…ああっ!…いっ痛いっ…」
「痛いのは初めだけだから、我慢して」
そう言われても痛いものは…痛い。本気で涙が出てきた。そんな俺の様子を宥めるように如月さんは汗でべとついた髪を撫でてくれ、そして額にそっとキスをくれた。
「…はぁ…ああ…」
それでも痛みで萎えかけた俺自身に指を這わされて、何時しか痛み以外の物がじわりと背中から這い上がってきた。
「…あぁ…あ…」
「もう痛いだけじゃ、ないだろう?」
そう言われてこくりと小さく頷くと、如月さんは動き始めた。もう後はただその動きについてゆくだけで何も…考える事が出来なかった。

目が醒めて如月さんの綺麗な顔がドアップであるという事は、寝起きに悪いと言う事がよく分かった。
いきなり目覚めの一発がこの顔だと衝撃が強すぎて何が何だか分からなくなる。事実自分も半パニック状態だった。
「おはよう、黒崎。よく眠れたかい?」
おまけに寝起き特有の少し掠れた声で囁かれて、益々めろめろになってしまう。ああこれは本当に心臓によくない。
「…あ、は…はい……」
「それは良かった」
にっこりと笑われてまた顔が真っ赤になる。もうどうしてこの人はこんなに罪な方なのだろうか…。
「でも修行はイマイチだったね。また一から特訓しないと」
「…と、特訓って如月さん…そ、それは…」
「決まっているだろう、君の身体に教えてあげるんだよ」
「お、教えるってその…」
「僕が全部教えて上げるから、黒崎」
そう言って如月さんは寝起きの俺にキスをひとつ、した。これが実に効果的だった。本当に如月さんはキスが上手い。だから。だから…俺は……。

その先黒崎の忍者修行がどのような成果を上げたかは、如月のみが知ることとなる。

     


End

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