冷たい部屋。そこにあるものは、昇華しきれない欲望だけが存在するだけ。
持て余すこの欲望が…存在するだけ……。
―――キィと重たい扉が開く音に、それだけで俺の身体は反応した。身体の芯からじんと痺れているのが分かる。痺れて、じんじんしている。
「――イイ子にしていたかい?」
頭上から響くその声に俺は顔を上げた。綺麗な、顔。綺麗過ぎるその顔。俺の支配者。俺をここに閉じ込めこうして鎖に繋げた俺の飼い主。けれども。けれども俺はこの鎖に自ら捕らわれた。…捕らわれた……。
「…如月…俺は……」
その顔を、その声を聴くだけで、俺の分身は反応する。これから起こるであろう行為に背徳の欲望が背筋から沸き上がる。その指が俺の身体を駆け巡り、熱い塊が俺の中に入ってゆくのを…。そう思うだけで俺は。
「くすくす、僕の声を聴いただけで…こんなになるなんて…醍醐君はいやらしいね」
「…あ…それは…お前が……」
「お前?ご主人に向ってその口の聞き方はないだろう?」
綺麗な顔でお前は微笑う。本当に綺麗で綺麗過ぎて、その顔を見ただけでどんな美女でも自ら股を開くだろう。いやどんな男だって…男であるプライドも何もかもを捨てて、自ら足を開いてその塊を受け入れる事を望むだろう。
「あうっ!」
手にしたムチでお前は俺の背中を叩いた。その動作ですら一枚の絵のようだ。打たれた痛みよりもお前の華麗な動作に俺は見惚れてしまう。
「ムチの痛みですら君のココは反応するのか?」
くすりと笑ってお前の指が俺自身に絡まる。そのしなやかで長い指に包まれて俺は堪えきれずに甘い息を零した。
「くすくす、ココも立っているよ」
「…あぁ……」
指が胸の突起に辿りつく。そこは俺がお前のペットの証として付けられたピアスがあった。その輪っか状のピアスをお前はぐいっと引っ張る。
「はぅっ!」
引っ張った衝撃で乳首から血がぽたりと零れる。けれどもお前は引っ張るのを止めなかった。止めなくて、いい。お前にそうされるだけで俺は。俺は身体の奥から疼いて、そして…。
「――あっ…ああ…出るっ……」
「ダメだ、まだ出したら」
くすくすとまたお前は天使の顔で悪魔のように笑うと、俺の先端をゴムで止めた。びくびくとそこからは先走りの雫すら零れ始めているのに…。
「お仕置きだよ、僕を『お前』なんて呼んだから」
「…き、如月…許して…くれ……」
「如月じゃないだろう?醍醐君」
「…ご…ご主人…様……」
見上げた瞬間に、髪を掴まれた。そしてお前は自らのズボンの前に俺の口を向けさせる。
「まずは僕を満足させてもらおうか?」
くすりと淫蕩に笑うお前。その顔に俺は魅せられ堕ちていった。その悪魔よりも魅惑的な笑みに、何よりも雄の匂いをさせる笑みに。
「――はい、ご主人様……」
俺はファスナーを口に咥えると、そのまま降ろした。そこからまだ欲望の兆しすら見せていないのに、逞しく硬いお前のシンボルが出てきた。
―――欲しい…この塊が…俺の…俺の中で…掻き乱して欲しい……
「…あ…ぁ……」
お前のソレを見ただけで淫乱な俺自身は達しそうになっていた。けれども先端に付けられたゴムがそれを許してくれなかったが。
「見ただけで欲情したのかい?とんでもない淫乱だね、君は」
言葉だけで全身がかぁぁと赤くなる。けれども。けれども…欲しい…欲しい…その凶器で俺を、俺を壊して欲しい……。
「欲しかったら気合入れて舐めるんだよ、醍醐君」
「うぐっ!!」
髪をまた掴まれて、そのまま根元まで口の中に突っ込まれる。平常時でもお前のソレは口にいっぱいになる程で。俺は思わずむせそうになった。
「…うぐ…ふぐぅ……」
けれどもそれを堪えて俺は必死で舐めた。だって舐めないと、俺にご褒美をお前はくれないから。―――その熱い塊を……。
目尻から涙が零れてきたが必死で俺はお前の玄武を舐め続けた。次第に口の中で形を変化させてゆく事に、至上の悦びを覚えながら。
「くす、相変わらず君は下手だね。僕に仕込まれているのにこんなに下手だと、僕もがっかりだよ」
「…す、すまん…ふぅ……」
口に咥えながら言葉にしたせいでちゃんと声にはならなかった。お前のソレが大き過ぎて、言葉を紡ごうとすると、歯が当たってしまう。そんな事になったら、また俺はお仕置きをされて欲しいモノが与えられなくなってしまうから。
「…ん…んんん…はっ……」
「まあまあだね。でもまだだよ。これじゃあ合格点は上げられない」
「…はふぅ…んん…んんんん……」
「そう、もっとだ。もっとちゃんと舐めるんだ」
口の中にとろりとした液体が零れて来る。お前の精液…出してくれ、俺の中に出してくれ。全て、全て飲み込みたいから。――――出して…くれ…………
―――ドヒュッ!!
溢れると思った瞬間、口中からそれを抜かれて、俺の顔面にお前の精液がかけられた。
「…はぁ…はむ…んん…」
俺は手で掬うと夢中になってそれを舐めた。お前のモノ。お前の流した液体。熱い、モノ。
「本当に淫乱だな。まあいい…お仕置きはこれからだよ、醍醐君」
―――くすりとお前は笑うと、ぱちんとひとつ指先を鳴らした……
「ごしゅじんさま、おまたせしました」
そう言ってその音と同時に現われたのは、黒崎だった。こいつも如月に捕らえられ堕ちた一人だった。最初は確か忍者に憧れて…ってそんな理由だったと思う。けれども気付けば如月の性の奴隷になっていた。けれども黒崎は不幸ではない。自ら望んでそうなったのだから。いやここに捕らわれている人間は、理由はどうであれ全て自らが望んで捕らわれている…。
「ご苦労だったね、黒崎」
「ううん、おれ。ごしゅじんさまのやくにたてれば」
今まで何も知らず無垢に育ったお前は、如月の与えられた快楽の深さに精神を壊した。その頭脳は五歳児くらいだと言っていた。それでも。―――それでも…
「イイ子だね、黒崎」
そう言ってお前は黒崎の唇を塞いでやる。そしてそのまま衣服に手を掛け、脱がし始めた。
「…あっ…ごしゅじんさま…」
「ご褒美だ、黒崎」
「…あぁ…う、うれしい…です……」
俺の見ている前でお前は黒崎を抱く。放って置かれたままの俺の見ている前で。
「…あぁ…ん…あん…ごしゅじんさまぁ……」
「どうしたんだい?黒崎」
「…ほ…ほしいです…おれ…ごしゅじんさまの……」
「くす、しょうがないな」
「ああ―――っ!!!」
まだ準備もされていない黒崎のソコにお前の肉棒が埋められる。その容量の大きさに堪えきれず黒崎のソコからは血が流れたが、それでも構わずに黒崎は自ら腰を振った。
「ああっ…あああんっ…あたってるぅ…」
「黒崎、君は可愛いよ」
「…おおきくって…いっぱい…いっぱいおれのなかに…あああ……」
そう言いながらもお前の瞳は何も映ってはいない。そう、お前は誰も愛してはいない。ただ俺達を自らのコレクションに加えて、楽しんでいるだけ。新しい玩具を遊ぶ子供のように。そして。そして飽きたら捨てられる運命。
それでも。そうだと分かっていても、俺達は。俺達はその快楽から逃れられない。この至上の快楽から。
「…あぁ…だして…だしてください…おれのなかに…」
「――いいだろう、ほら」
「ああああっ!!!」
お前が一層腰を深くついたと同時に、黒崎は甲高い悲鳴を上げて自らの欲望を吐き出す。そしてお前も…その体内の中に熱い液体を吐き出した。
「血が出て痛いだろうけど…分かっているよね。新しいペットを連れて来るんだ」
「…はい…ごしゅじんさま…おれ…つれてきます……」
「イイ子だ。また今度たくさんご褒美を上げるからね」
「…はい…やくそくです…ごしゅじんさま…」
足元に血を伝わせながら、それでも黒崎は懸命に歩いた。快楽の残る身体は何処かふらついていたが、黒崎にとって如月の命令は絶対だったから。いやここにいる人間は全て。全て彼のいいなりなのだから。
そして。そして俺の前にまた新しい『ペット』が現われる。ペットと言う名のライバルが……。
「へっ、醍醐…お前もか…」
「…村雨……」
首輪に繋がれて現われたのは、自分がよく知っている人物だった。―――村雨祇孔。如月とは麻雀仲間だと言っていた…お前も…お前もこの快楽の罠に落ちたのか……。
「村雨、僕が欲しかったら言う事を聞くんだ…分かっているな」
「…何でも…聞くぜ…俺は堕ちたんだ…お前が俺を抱いてくれるなら…俺は何だってするぜ……」
如月を見つめる村雨の瞳は一匹の雌猫だった。男を求めて盛っている雌猫の瞳。けれども今の俺も。俺もそんな瞳をしているんだろう。
「―――だったら、醍醐君をヤるんだ」
「分かったぜ、如月。そうしたら俺の中にその熱いの…ぶち込んでくれるんだろうな…」
「君次第だよ、村雨。ただし醍醐君のゴムは外すなよ」
「へ、如月も趣味が悪いなあ…まあそこが堪んねーんだけどよ…ぞくぞくするぜ…早くお前にヤラれたい……」
「くすくす、だったら頑張るんだね」
その如月の言葉を合図に、村雨は俺の身体に圧し掛かってきた……。
「…あうっ…あ……」
散々如月に嬲られた身体は、村雨の愛撫ですら簡単に反応を寄越した。胸のピアスを引っ張られながら乳首を舌で転がされる。それだけで俺は。俺は……。
「…あぁ…あぁ……」
「以外とイイ声で鳴くんだな。それとも如月に仕込まれたせいか?」
「…はぁ…ああ…」
びくんびくんと身体が跳ねる。そして気付いた時には、その足が限界まで広げられていた。
「へっ、もうこんなにひくひくしてるぜ。しょーがねぇな、今挿れてやんからよ…如月程じゃねーが、俺のも案外イイぜ」
「…あぅ…あぁ……」
「ほらよっ!」
「あああ―――っ!!!」
挿れられた瞬間に、先端に付けられていたゴムが飛んでそのまま俺は欲望を吐き出してしまった。散々焦らされ出口を塞がれていたソレは勢いよくどくどくと溢れ出す。
「あーあ出ちまったよ…しかしすげーなぁゴム飛ばすなんてよぉ」
「醍醐君の身体はどうしようもない程に淫乱だからね」
「…ああっ…あぁぁ……」
「お前が仕込んだんだろうが…それよりも如月……」
俺を突いていた動きが止まる。村雨が下半身を上げて如月の前に最奥の部分を暴き出したからだ。
「…約束だぜ…早く…早く…その熱いの俺ん中にぶち込んでくれよ……我慢出来ねーよ……」
「――君もどうしようもない淫乱だね、村雨」
「お前そうさせたんだぜ…たまんねーよ…如月…」
「しょうがないな、ほら」
「あああっ!!!」
「――ああっ!」
村雨の中に如月が挿いった瞬間、俺の中の村雨自身が大きく膨らむ。その衝撃に俺自身は、吐き出したばかりなのにまた頭を持ち上げてきた。
「…ああ…如月っ…すげーよ…おめーの熱くて…硬くて…こんなの…こんなの俺咥えた事なかった……」
「…はぁ…あぁ…村雨…あぁもっと…動かしてくれ…あああっ……」
「村雨、醍醐君が焦れているよ。もっと動いてあげなよ、ほら」
「あああっ!!…ダメだよ…お前ん中に挿れちまったら…動けねーよ…ああ……」
「…もっと…もっと…動いてくれっ…はぁっ!…」
「しょうがないね、僕のペット達は――」
「―――どれもこれもサカリが付き過ぎて……」
後はもう、何も覚えていない。
ただひたすらに腰を振って。
そして与えられる快楽を求めた。
激しく求めた。この快楽の部屋で。
この快楽の館で。
―――この、快楽の館で……ご主人様の支配するこの館で……
「後は、ペット同士で慰めでもあうんだね」
何事もなかったかのように綺麗な顔でひとつお前は笑うと、ズボンのファスナーを閉めて一度だけ俺達に振り返った。何時も。何時もお前は服を脱いだことはない。ペットである俺達にそこまでする必要がないのだろう。
「…あぁ…如月…また…俺ん中…ぶち込んでくれよ…」
「それは君の努力次第だよ、村雨」
冷静な目。冷徹な瞳。そこに『情』なんてものは何一つない。ただそこにあるのは、闇より深い空洞だけ。誰もその奥を見ることが出来ない。誰ひとり。
「――じゃあね、可愛い僕の子猫たち…」
―――誰もその瞳の奥を…見る事は出来ない……。
―――パタン、と音がしてその扉が閉じられる。
後はその扉がまた音がするのを俺達は待つだけ。
待って待ちつづけて、そして。
そしてこの満たされる事のない永遠の欲望を。
欲望を埋め合うだけ。埋め合ってそして。
そして、お前の捨てられるまで俺達は……。
「…あぁ…村雨……」
「たりねーのか…この淫乱雌猫…」
「…ああ…もっとぉ…」
「しゃーねぇなあ」
「…あああ……」
お前によって作られた空洞をこうして身体を重ね合って埋め合う。
それ以外俺達には方法はないのだから……。
快楽の、館。
そこに捕らわれた者は。
永遠に逃れられない迷路の中に迷い込み。
そして。
そして、壊れるしかないのだから。
End