快楽の館・3

 

脳味噌が麻痺する程の快楽。
絶望よりも先にある、それ以上の絶望。


俺は村雨祇孔。歌舞伎町ではちょっと名の知れた男だった。食った女の数も食われた男の数も想い出せない程にソッチの経験は豊富だ。別に自慢するほどの事じゃねえが…。
とにかく俺にとってセックスは快楽以外の何物でもなく、ただ自分が気持ちよければ何でもありだった。
そんな俺が完全に敗北した人間が、いる。今目の前のこの何よりも綺麗な男。この世のどんなモノよりも綺麗で、そしてこの世の全てに関心のない男。その何よりも綺麗な瞳はじっと見つめれば背筋が凍るほどに冷たく、そしてぞくぞくとする。俺はマゾじゃねえが、その瞳を見つめるだけでこいつになら何されてもいいと思ってしまう。
この綺麗な男に踏み潰されて、虐げられる事すら望んでしまう。その綺麗な顔で無慈悲にいやらしい言葉を投げ付けられるだけで…俺は勃っちまうほどに。
今も。今もお前のイチモツを咥えながら、俺の喉は焼けるほどに熱かった。今までこんなにデカイのを俺は咥えた事なかった。こんなに熱くて太くて硬いモノを…。これが後で俺の中に入るって想像しただけで…俺はもう欲情するのを止められねーんだ……。

「―――村雨、口が疎かになっているよ…もっと気合入れて舐めるんだ」
「…んっ…ふぅ…分かって…んよっ…ふぅ……」
乱暴に髪を掴まれながら、ソレを根元まで咥えさせられる。喉の奥まで貫かれそうなその物体が、俺の欲望に益々火を付ける。このまま喉の粘膜を破ってしまうんじゃねーかと思うほどのソレが。
「…んんん…あぅ…ん……」
「フェラチオは君が一番上手いね。醍醐君は幾ら教えてもどうにもならなかったし…黒崎は一生懸命なのはいいが…口に含むのが精一杯と言う感じだしね…後は……」
その先を聴きたかったが生憎口に含まれているものの大きさのせいで、言葉を紡ぐ事が出来なかった。歯でも立ててみようもんなら、後ろに突っ込んでくれなくなっちまう。それだけは勘弁して欲しい。ここまで火のついた身体はお前の武器でないと、処理しきれねーんだよ。お前のソレを知ってしまったらもう、他の男なんかじゃ満足出来ねーんだよ…。
「…ふぅ…んん…あっ……」
「君は顔に掛けられるのと、口に出されるの…どっちがいい?」
その質問に俺はただ首を横に振るだけだった。顔に掛けられるよりも、口に出されるよりも俺の中に…俺の中にその楔を打ち込んで欲しい。
「首を振るだけじゃ分からないよ、ちゃんと口にして言うんだ」
頭上から降って来る声はどこまでも穏やかで、そして何処までも無機質だ。お前が俺達をどう思っているのかなんて、イヤと言うほどに分かる。
―――ただの玩具。ただそれだけ。
でもそれで。それでイイんだ。快楽を求めるならば感情なんて含まない方がいい。ただ。ただ限界まで貪り合うのがいい。
「…お前の…如月の…XXXXを…俺の中にぶち込んでくれよ……」
俺はお前のソレから口を離して、自ら腰を上げて秘所を曝け出した。そこはお前の逞しいソレを求めて、ひくひくと蠢いている。欲しい、と。お前が欲しいと…。
「君は正直だね。まあいいだろう」
くすりとひとつ笑うと、俺の入り口にお前の熱い塊が充てられる。それだけで。それだけで俺の入り口はびくびくと反応を示した。そして。そしてついに俺が待ち焦がれていたものがその中に突き刺さられる。
「あああ―――っ!!」
ずぶずぶと音を立てながら、俺の媚肉を引き裂いてゆく凶器が。内臓までも届きそうなその鋭い凶器が。俺の身体を…俺を悦ばせる。
「…ああっ…ああ…イイっ…イイぜっ…如月…あああ……」
俺はマゾじゃねぇ。でも。でもお前になら。お前になら無茶苦茶にされてもいい。いや、無茶苦茶にしてくれ。その凶器で俺の身体を真っ二つに引き裂いてくれ。
「…もぉ…もぉ…俺を…壊してくれよっ…はああっ!!」
「壊してあげるよ、君も。快楽に飲まれて…ぼろぼろに壊してあげるよ・……」
壊す。壊れる。そんな言葉がお前の口から零れるだけで。零れるだけで俺はもうどうにもならない場所まで落ちてゆくのを感じる。お前はこうやって俺達を犯しながら、犯しながらけれども本当は。
―――本当は一番セックスに関心がないんだろう?
ただ俺達を快楽の淵まで堕落させて、ぼろぼろに壊すのが目的なんだろう?でもそれで、いい。それで構わない。お前の瞳に魅せられた時から、俺はお前の作り出す快楽の罠へと堕ちたんだから。
「…ああっ…如月ぃ…ああっ…もっともっと…奥まで…あああ……」
自らこの罠へと堕ちてやくと、決めたのだから。だから俺は。俺は、お前にならば壊されても、いい。
「ああああっ!!!」
内臓まで引き裂きそうなほど奥まで貫かれ、俺は堪えきれずに自らの欲望を吐き出した…。


「むらさめ」
お前が扉の奥に消えていったと同時に、黒崎がタオルを持ってやってきた。如月の作り出した快楽によって精神を破壊されたお前。子供にまで精神が退化したが、それでも男を咥え込む事を身体はちゃんと知っている。ただしその対象はあくまでも『ごしゅじんさま』である如月のみに向けられるものだが。
時々俺がちょっかいを出すと怯えて逃げる。そんな所はガキそのもので。幾ら快楽に溺れさせられた身体でも、如月以外の男に抱かれるのは苦痛でしかないらしい。まあ健気と言ったら健気なんだろうが…。
「たおる、もってきた」
「サンキュー」
それでもこうやって俺の為にタオルを持って来たりするのは、如月に命令された訳じゃないのだから…嫌われているわけではないらしい。ただ俺にヤラれるのはイヤらしいが。
「それよりもお前が舐めてくれよ。『ごしゅじんさま』の出したモノだぜ」
そう言って俺は足を広げて自らの最奥を広げた。そこからは如月の出した精液がどろりと零れ出す。
「…ごしゅじんさまの…もの…」
「そうだぜ、黒崎。お前の『ごしゅじんさま』のモノだぜ」
その言葉は黒崎には最大の効力があったらしい。俺の足元にしゃがみ込んで、その零れた精液を舌で舐め始めた。
「…ん…ん……」
ぺろぺろと舐める紅い舌がひどく煽情的だった。俺は男だったら抱かれる方が好きだが、こいつだけは抱きたいと思ってしまう。抱きたいと言うか、犯したいと言うか…。小動物を苛めて遊ぶ、そんな感覚だった。
「…ふぅ…ん……」
俺の秘所から太股に伝う幾筋もの白い線をお前は全て舌で辿って綺麗に舐めた。全て舐め取った所で顔を上げる。その顔を見ていたら…このまま犯したくなった。
「ごしゅじんさまのもの、なめた。はい」
そうして俺にタオルを持って差し出した手を、そのまま自らの方へと引き寄せてそのまま腕の中に閉じ込めてしまう。一瞬何をされたのか分からなかった黒崎だが、気がついた瞬間腕の中で暴れ出した。
「むらさめ、はなしてっ!はなしてっ!」
「イヤだ。ヤリたくなった。ヤラせて」
「いやいや、ごしゅじんさまっ!!――んっ」
首を左右に振っていやいやをするお前の唇を強引に塞いで、そのまま乱暴に服を引き裂いた。
―――なんでだろう、無償にこいつは苛めたくなるのは。
「…いやぁ…やめて…むらさめっ……」
唇を解放した時には、お前の服は俺の手によって無残に引き裂かれていた。俺はそのまま現われた胸の突起を指で摘みながら、お前の最奥へと指を突っ込んだ。前には触れずにそのまま秘所へと。
「やだっ、むらさめっ…いたいっ…いたいよぉ……」
前に触れもせずにいきなり乾いたソコに異物を侵入させられて、黒崎は堪えきれずに瞳からぽろぽろと涙を零した。
「お前泣き顔可愛いよな、だから苛めたくなんのかもな」
「…いたいよぉ…むらさめ…ぬいて…いたい……」
「痛いだけか?ほらっ」
「…ああんっ!」
指をぐいっと折り曲げながら、胸の突起を強く摘んでやる。その瞬間びくりとお前の身体が跳ねて、そして何時しか触れてもいない筈のお前自身が微かに頭をもたげ始めた。
「勃ってんじゃん。お前のココ…俺まだ触ってねーよ」
「…やぁんっ…やだぁ…むらさめ…やぁ……」
首を左右に必死に振って耐えようとするのは『ごしゅじんさま』への想いそれ以外に何もない。何時でもどんな時でもお前にとって『ごしゅじんさま』が全てなんだから。
「…あぁ…ん…だめぇ…むらさめ……」
指を引き抜いて、勃ち始めた俺自身にお前の秘所をあてがった。その硬さを感じて明らかに腕の中のお前が怯え出す。そんな事するから益々苛めたくなるんだよ。
「…いやぁ…だめ…だめ……」
「今更だろ?諦めな」
「いやあ―――っ!!」
お前の悲鳴も虚しく、俺はその中に自らの欲望を突き刺した。お前は逃れようと腰を浮かすが、それを両手で掴んでそのまま俺のほうに引き寄せた。ずぶずぶと言う音とともにお前の中に俺が埋められてゆく。
「…いやぁ…ああ…やだぁ…ごしゅじんさま……」
「口ではいやって言っているくせに、ほら。お前全部俺を呑み込んでるぜ」
「…いやいや…ああっ……」
お前の双丘を手で掴んで、秘所を広げさせた。そして更に奥へと突っ込んでやると、堪えきれずにお前の背中がしなる。
「ほら、本当はイイんだろう?」
「…ああっ…あぁ…はあ……」
思いっきり腰を突き上げてがくがくとお前を揺さぶった。お前は堪えきれずに俺の背中に腕を廻した。
―――可愛いなぁ……。
こんな瞬間に言うセリフじゃないが…。無償にそんな事を今思った。
そしてそのままお前の身体を揺さぶって、俺は欲望のままにその中に精液を吐き出した。

「…むらさめは…どうして…どうしておれをいじめるの?」
身体が離れて息が収まったと思ったら、お前はまたぽろぽろと泣き出した。その場にぺたりと座り込んで、子供のように泣きじゃくる。
「…おれのこと…おれのこと…きらい、なの?……」
細い肩が震えている。本当にお前は小動物のようだ。けれどもさっきのように苛めたいと言う感情はもう浮かんではこなかったが。
「…おれ…むらさめにきらわれたくないから…だからおれ……」
それ以上言葉が言えなくなってただ泣くお前に。そんなお前にふと、俺は気付いた。
俺がお前を抱く事はこいつにとって『苛められている』行為なのだと言う事を。そして。そしてそれでもそんな俺にこうやってタオルを持って来てくれる行為は俺に『嫌われたくない』からだと言う事で…。
「ばーか、嫌いな訳ねーだろうが」
ああ駄目だ。思考がガキ過ぎて俺には分からなかった。分からなかったが、そう思われることは悪い気はしない。いやむしろ心地いい。
「…じゃあなんで、こんなことするの?なんでおれ、いじめるの?」
「苛めてねーよ。可愛いから可愛がってんだよ。こうやってお前をヤルのは、可愛いからヤリたくなんだよ」
「…おれのこと、きらいじゃない?……」
「嫌いじゃないよ。だから泣くなよ」
その言葉にお前の表情はぱっと明るくなった。本当にガキだ。ガキ過ぎるけど…可愛いよ、お前。
―――可愛い、よ…黒崎……


俺にとってここの生活は、非常に快適だった。ただお前に抱かれるのを待つだけの日々も、決してイヤではなかった。お前のソレを待ち続ける時間は俺にとって、苦痛ではなかった。
俺が欲望のままに、何も考えずに本能のままに生きられる場所。快楽だけが支配する場所。これ以上の楽園が他にあるだろうか?これ以上望むものが他にあるだろうか?
―――俺は、しあわせだと思った。

そして。そしてまた新たなお前のイケニエが現われる。『ペット』と言う名の俺達のライバルが……。

現われたのは鎖に繋がれた大きな狼だった。―――狼?俺は。俺はソレをよく知っている…。忘れたくても忘れられない、俺の身体が……。
「…如月…その狼は……」
「虎を手懐けるのも飽きたからね。今度は狼でも手懐けてみようと思ってね」
立派な毛並みを持つ野獣。鋭い牙と爪を持つ野獣。その牙の味を、その爪の感触を…俺は…俺は、知っている……。
「…犬神……」
その名を口にした瞬間、その狼は鋭い視線で俺を射抜いた。間違えない、俺が。俺が初めて男の味を知った相手。その逞しい腕に犯されて、俺は男達の快楽へと堕落した。忘れようとも忘れられない相手。
「獣を犯すのは、流石に僕も趣味じゃないからね。でも君は、好きだろう?」
その言葉に俺は背筋がぞくぞくするのを抑えられなかった。如月の冷たい瞳が見つめている。そして。そしてそんな瞳の前で俺は……。
「くす、先生。彼は獣を咥えるのが趣味みたいですよ…さあ……」
如月の言葉に狼のままの犬神はそのまま俺の前まで歩くと、俺の身体に圧し掛かってきた。
―――そしてその牙で、その爪で、俺の身体を犯してゆく。
「…あっ…はぁっ!……」
爪が、俺の身体を傷つける。細かい傷を作って、血を流させる。それすらも。その痛みすらも、快楽。
「…あぁ…あっ……」
ざらついた舌が俺の弱い部分を舐める。人間の舌とは明らかに違う感触。その今まで味わった事がない快楽に俺は、俺は酔いしれた。
そして。そして何よりもそんな醜態をお前のその冷たい瞳の前に晒している事が、俺の欲望を更に煽る。暗い、俺の欲望が。
「ヒィ――――っ!!」
何時しか俺の秘所に、狼のソレが突っ込まれる。人間とは比べ物にならない大きさに、俺の媚肉は堪えきれずに血を流した。その身体の奥まで抉られた感触と痛みに。
「…ひぁっ…あああっ!!」
けれども構わず突き刺さるその塊に何時しか淫乱な俺の内壁は受け入れ始めていた。血を流しながらも、塊を飲み込み肉は蠢く。
そのたびに身体中をこする獣の毛の感触がまた。また俺の身体を煽って。快楽を煽って。
そして何よりも。何よりも……

――――その冷めた瞳が、この醜態を見下ろしている事が……


「人間で満足出来なくなったら…人としておしまいだね……」


冷めた、瞳。凍りついた瞳。
そこに。そこに人間らしい感情は何一つ見えない。
本当はお前の方が『ひと』ではないのかもしれない。
いや、違うな。最初から。

―――最初からお前は『人間』じゃあ…なかった……。


絶望、深い絶望。
人間としての全てを放棄して。
そしてただのケダモノになる。
快楽だけを貪るケダモノに。
でもそれは。
それは人間としての絶望と引き換えに。
ケダモノのしてのしあわせを手に入れたのだから。
絶望よりも先にある、絶望。

それは俺が、望んだ事だから……


End

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