愛しかったのかも、しれない。
今となっては分からない。
けれども確かにその瞬間、僕は。
僕は君を好きだと、そう思った。
―――君を好きだと、そう思った……
「如月くん、舞子ね」
子供のような舌ったらずな声。甘えるように見上げて来る瞳。初めはひどく煩わしかった。
ベタベタしてくる女は僕が一番嫌いなタイプだったから。けれども。
「舞子ね、如月くんの心の声が聴こえるよ」
けれども君のその瞳が。君の瞳の先にあるものが。君の瞳の先に映したものが…それが僕にとって。僕にとって多分何処かで探していたものだったから。
―――僕が探していた、ただひとつの真実だったから……
「如月君の、心の声が…」
だから僕は君を好きだと、そう思った。
見えないものを見て、聴こえない声を聴く。
僕には決して見えないものを。
僕には決して聴こえないものを。
君は見つめ、そして語る。
その瞬間、僕は独り取り残される。
―――それが嫌で、君を抱きしめた。
「…如月、くん?……」
少しだけ驚きながらも見上げて来る瞳。曇り一つない瞳。君は誰にでも優しい。平等に優しい。僕以外にも、優しい。
「…高見沢さん……」
奪うように口付ければ、君は答えるように背中に腕を廻す。白くて細い指が僕のシャツをくしゃりと掴んだ。
「…んっ……」
舌を絡め、そして深く君の口内を貪る。甘い、口付け。柔らかい、唇。今まで数え切れないほどの女の子とキスをしてきたけど、君以上に甘いキスの味を僕は知らない。
「…んっ…んん……」
堪えきれずに僕に縋る君が愛しい。愛しくて可愛くて、僕は。僕はこのまま君をどうしても手に入れたくなった。
誰にでも優しく、誰にでも平等な君を。君を僕だけのものにしたくて。
「…高見沢さん……」
唇を離せばうっとりしとした瞳で僕を見上げて来る。僕はキスは巧いつもりだけど…君も相当に手馴れているね。今までどれだけの男を、君は相手にしてきたのだろうか?
「…如月…くん……」
微かに頬を染めながら、僕を抱き寄せる君を…僕はゆっくりと床に押し倒した。
独りで生きてゆく。
宿命から逃れられないのならば。
それならば誰も愛さずに。
誰も本気にならずに生きてゆけばと。
生きてゆくしかないと。
けれども。けれども君は。
君の瞳はそんな僕の心の先にある、ただひとつの矛盾を。
矛盾を、見透かしたんだ。
―――聴こえない僕の声を、君はその耳で聴いたんだ………
「…あんっ……」
上着の裾から手を入れて、じかに柔らかい胸を揉んだ。開いている方の手でブラのホックを外しながら。
「…やぁっ…ん……」
軽く触れただけで胸の果実はピンっと張り詰める。その色を見たくて僕は首まで一気に上着をたくし上げた。そこに見える君の乳首は綺麗なピンク色をしていた。
「舐めて、いい?」
「あんっ!」
片方を指の腹で転がしながら、もう一方を口に含んだ。軽く歯を立ててやると、腕の中の君の身体がぴくんっと跳ねる。それがひどく、愛しい。
――――ひどく君が、愛しい……。
「…如月…くぅん…あんっ…」
両の乳首を指で弄りながら、その谷間に舌を滑らせてゆく。谷間から腹、そして可愛いお臍へと。
「…はあっ……」
白い肌が僕の指と唇によって紅く染まってゆくのを見るのは…悪くない。むしろ僕の手によって色付いてゆく君は、ひどく可愛い。
「高見沢、さん」
顔を上げて名前を呼べば、快楽に潤んだ瞳が僕を見返してくる。その瞳に柔らかい笑顔を浮かべて、僕はスカートの中に手を入れた。
「あんっ…あぁ……」
パンティーの上から割れ目を指でなぞる。それだけなのに、布からは湿った気配がした。そのまま布越しに指を挿れると、益々僕の指が湿るのが分かる。
「…やぁっん如月くん…いや……」
「何がいやなの?」
「…ちゃんと…ちゃんと……触って………」
最後の言葉は消え入りそうに小さかったけれども、僕の耳にはちゃんと聴こえた。聴こえた、から。僕はそのままパンティーを剥ぎとって足を開かせる。
君は僕が動きやすいように膝を折り曲げて、股を広げた。そんな素直な所も、大好きだよ。
「ああんっ!」
君の蕾に指を挿し入れた瞬間、まるで電流が流れたように身体が跳ねた。そんな君の反応を楽しみながら、僕は深く指を突き入れた。
「…あぁ…んっ…はんっ……」
鼻に掛かる甘い声が。僕の背中に必死にしがみ付くその腕が。僕にはどうしようもない程に愛しくて。愛しくてそして愛していると、思った。
今となっては、分からない。
ただの気まぐれだったのかもしれない。
本当にそれだけだったのかもしれない。
けれども。けれども確かにこの瞬間。
この瞬間僕は、君を愛していると思ったんだ。
―――君を愛しているんだと、そう思ったんだ……
「あああっ!!」
ずぶずぶと音を立てながらも君の膣は僕を呑み込んでゆく。まるで絡み付くような君の内部は、何もしないのに僕を快楽の淵へ落としてゆく。
「…ああ…あぁ…んっ…あぁ……」
一度根元まで挿れて一端動きを止めた。それだけでも、君の絡みつく媚肉は僕を追い詰めてゆく。
「――初めてじゃないのに…随分とキツイね…」
「…だってぇ…だってぇ…如月くんの…だものぉ…如月くんのが…挿っているから…舞子…まいこぉ……」
「可愛い事を言ってくれるね、ご褒美だ」
「あああんっ!!」
ぐちゃぐちゃと音を立てながら、僕は君の内部を掻き乱した。抜き差しを繰り返し、子宮に届くまで君の中に楔を打ちつける。君の身体が、髪が揺れるのを確かめながら。
「…ああんっ…あぁ…如月くぅ…んっ…きさら…ぎ…くぅんっ!!」
「出すよ……舞子………」
「うん…出して…舞子の中に…いっぱい…出してぇっ!」
もしもこのまま君に子供が出来たら…僕は結婚してもいいなと、思った。
本当は気付いていた。
多分なんて、嘘なんだ。
今となってはなんて、嘘なんだ。
本当は。本当は、僕は。
君がどうしようもなく愛しかったんだ……
―――如月くん。
如月、くん。
舞子には見えるよ。
舞子には聴こえるよ。
如月くんのこころの声が。
聴こえるの、舞子には。
だからね、舞子。
舞子、如月くんが好き。
如月くんが、大好き。
―――だって如月くん…舞子の事…大切だって…思ってくれるから……
腕の中で眠る君の髪を撫でながら、僕は思った。
僕はきっと。
―――君がどうしようもなく、愛しかったんだと。
End