迷路

―――そこにあったのは、愛だったのか?

私は誰のものにもなりたくなかった。
例え龍麻のものにも…なりたくなかった。
古代から流れゆく運命の糸。
菩薩眼の娘と、黄龍の器。
結ばれゆく、運命。けれども。

けれども私は、その運命に逆らった。


愛していたのかも、しれない。
今となっては分からない。
今となっては答えを出す事は出来ない。
けれども、私は。
私は貴方でなければ嫌だった。
貴方以外の人間に…抱かれたいとは…思わなかった。

それを愛と呼ぶならば。
確かに私は愛していた。


「如月くん」
冷たい瞳。決して他人と交わる事のないその瞳。貴方は絶対に他人を愛せない人。
「美里さんどうしたの?」
すぐに分かった。分かったわ。貴方と私は同じ。他人を簡単に近づけながらも、決して受け入れようとはしない人。幾らでも傍に置いておきながら、簡単に切り捨てられる人。
―――自分以外、どうでもいいひと。
「貴方に、逢いたかったの」
こうして貴方に近付いて、そしてキスをすれば。貴方は決して拒みはしない。けれども受け入れはしない。そこが、そこが私にそっくりよ。
「…龍麻は、いいのかい?」
唇を離して貴方はひとつ笑いながら言った。冷たい唇とそしてそれよりももっと冷たい瞳。言葉はあくまでも柔らかいのに、行為はどこまでも優しいのに。
「―――いいの…貴方なら…分かってくれると思ったから」
そう言って私はもう一度貴方に口付けた。そんな私を貴方は決して拒まなかった。腰に手を廻し、そっと自分へと引き寄せる。ほら、貴方は私がどんな存在か分かっていながらも、私をこうして抱いてくれる。
「君はそんなにも自分が大切なのか?」
「大切よ、それ以上に大切なものなんて何処にもないわ。自分以上に大切なものなんて…貴方だってそうでしょう?」
私の言葉に、貴方は微笑う。口許だけで微笑って、そして言った。

「僕は自分自身すらも大切じゃないんだよ」


運命なんかに流されたくはない。
私は私だけのもの。
どうして私は私ではいられないの?
どうして私は菩薩眼でなくてはならないの?
―――誰がそれを命じるの?

龍麻、貴方だって。
貴方だって黄龍の器になんて本当になりたかったの?
そんな立場になりたかったの?
本当はなりたくなんてないんでしょう?
本当は私と結ばれたくはないのでしょう?
貴方だって自分が好きな相手を選びたいでしょう?
私だって。私だって、選びたいの。

―――自分の運命を自分自身で掴みたいの。


キスを、して。
そして舌を絡めあい。
互いの服を脱がし合って。
そして、抱き合った。
貴方の冷たい指先が身体を滑る瞬間が。
その瞬間が、何よりも気持ちいい…。


「―――美里さん…僕は君の共犯者にはなれないよ」
「…あぁっ…いいの…分かってる…はぁっ…」
「だけど君の運命は…壊してあげる」
「…はぁんっ…あぁ…如月…く…ん……」
「壊してあげるよ、僕が」

狂ったように声を上げて、貴方を求めた。
繋がった部分から血が流れ出しても、私は。
私は激しく腰を振り続けた。
雌猫になって貴方を求め続ける。
私は聖女なんかじゃない。私は穢れている。
…ほらこんなにも私は、穢れている……

龍麻、貴方以外の男と私はセックスしているわ。
運命の男以外の相手と、繋がっているわ。


「…中に…出してっ……」
「いいのかい?」
「…いいのっ…穢してっ…私を穢してっ!」

身体の中に注ぎ込まれる精液の熱さを感じながら、私は。
私はやっと、安心出来るのを感じた。


君の気持ちは手に取るように分かる。
運命に逆らおうと足掻いて。そして。
そして自らを穢すことで。自らの運命から逃れようとしている。
―――可愛そうに……。
そんな手段でしか君は。君は運命から逃れられないんだね。
そんな事でしか君は、逃れる事は出来ないんだね。

可愛そうな、君。
憐れな、君。
でもそんな君を、僕は嫌いじゃない。
嫌いじゃないよ、美里さん。


一度だけだと、今だけだと思ったら。
そうしたら何故か私の頬から、快楽以外の涙が。
涙がひとつ、零れ落ちた。
それは、それは何だったのか?


「今日のことは互いに、夢とでも思おうか?それが君の為でもあり、僕の為でもあるのだろうからね」
「…貴方は本当に何処までも冷たい人ね…」
「そうだと分かっていたから、僕を相手に選んだんだろう?」
「ええ、そうよ。そんな貴方だから」

「貴方だから、抱かれたの」

唇から零れた言葉は、何処か切なさを含んでいた。
それが何だったのか、今思えば。
今思い返せば、それは。


――――それは愛だったのかも、しれない……。




End

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