歪み
――――これを愛と呼ぶならば、何処からが境界線になるのだろう?
欲しかったものはただひとつだけ。ただひとつのものが、欲しかった。それを手に入れる為ならば、どんな事でも出来た。
「…兄上……」
涼浬は自分の声が上擦るのを抑えきれなかった。どんな時でも冷静で感情を見せるなと、そう自分に言い聞かせた相手に対して。ただ独りの兄に対して、自分は剥き出しの感情を抑え切れないでいる。
「涼浬か、盗み見は良くないよ。そう教えなかったかい?」
そんな涼浬に対して奈涸は何時もの穏やかな声でそう言った。まるで春の日差しを思わせる…そう、この兄は何時も自分にだけはその声を聴かせてくれていた。
「…兄上…私は……」
滅多に見せることのない妹の驚愕と哀しみを含ませた顔に…奈涸は微笑った。そんな顔を作り出すことも見られるのも自分だけだと言う事実に。その顔が自分だけのものだという事に。
「悪い子にはお仕置だよ…おいで……」
自分しか見られないその顔を瞳の裏に焼き付けながら、奈涸はその白い手を涼浬に差し出した。漆黒の闇にその手だけが浮かび上がり、涼浬はそれから目が離せなくなっていた。
ただ、欲しかっただけ。ただ、手に入れたかっただけ。
目の前の彼も、ただ独りの妹も。全て。全て手に入れたかった。
どちらも自分には欠けてはならないものだったから。
――――血よりも濃い想いで彼を愛し、血よりも深い想いで彼女を愛する。
こうしてこの男に組み敷かれるようになってからどれだけ経っただろう。霜葉は思い出そうとしても、それを思い出せなかった。
初めは強引だった気がする。無理やり組み敷かれ同じ男であるその腕に抱かれ、そして。そして気付いたら女のように声を上げていた。痛みと快楽が同じに襲い、そして何もかもを開放された瞬間…。あの瞬間初めて自分は知った。無魂性であり何処か感情が欠落している自分が、確かに心に何かが埋められた事を。それ以来、この腕を拒めずにいる。拒めずに気付けば…溺れていた。
「初めて逢った時から…君が好きだったよ」
耳元で囁かれる言葉が何時しか心地よいものへと変わる。甘い囁きなど戦いの中にいた自分にとっては無縁のものだったのに。それなのに今は。今はこんなにも心にそっと触れてくる。
「俺は君が欲しかった…壬生……」
身体を滑る指先の感触が、絡み合う舌が、もつれ合う身体が。その全てが心地よい。この全てが、自分を溺れさせる。
「…奈涸っ……」
脚を開かされそのまま入り口に硬いものが当たったかと思うと、身体を深く貫かれる。貫かれた瞬間の痛みと衝撃はまだ慣れる事はないが、その後に訪れる壊れるほどの快楽が、何時しか霜葉にとって何よりも欲しいものになっていた。戦い以外に生きる場所も生きている意味も見出せなかった自分が、こんな風に欲に溺れる事が。こんな風に乱され、溺れてゆくことが。
そんな事を考える時間すら与えない自分を追い詰める腕が、今はどうしようもないくらいに求めている。
腰を揺さぶられ、中に熱い液体が注がれ、そして身体が開放される。駆け抜ける熱に身体を痙攣させ、そして離れてゆく身体に腕を廻した。まだ消えないぬくもりを、感じていたくて。
「―――こんな風になるとは思わなかったよ…君が自ら俺を求めるなんて……」
「…お前のせいだ…お前が、俺に『ぬくもり』を教えた……」
独りで生きる自分には、戦いでしか生きられない自分には。畳の上では死ねない自分には、誰かを求めることは出来なかった。大切なものを持つことが出来なかった。けれどもこの男ならば…この男ならば共に戦い死ぬことが出来る。失う不安も置いてゆく苦しさも、味合わなくてもいい。同じ戦いの場にいる者ならば。
「卑怯だと思うかい?でも君が欲しかったんだ。どんな事をしても俺は君を手に入れたかった」
「…奈涸……」
「―――愛しているよ……」
怖いほどに綺麗な笑みを浮かべると、そのまま唇を塞がれた。甘く溶けてゆく口付けに、瞼を震わせるのを抑えきれなかった。
――――歪んだ純愛が、心の奥から叫んでいる。誰にも渡したくないと。
微かな音ですら奈涸は反応した。忍者である以上、どんな音でも彼は決して見逃さない。そして霜葉を腕に抱きながら顔を上げれば…そこには呆然と立ち尽くす、自分の最愛の妹がいた。
「…兄上……」
滅多に表情を崩さない妹が、明らかに困惑と哀しみに表情を歪めている。奈涸はその顔を綺麗だと思った。純粋に綺麗だと、思った。
「…涼、浬…?……」
腕の中でまどろみかけていた霜葉がその存在に気付いて顔を上げる。そこにあったのは自分を抱く男と同じ瞳をした綺麗な女だった。涼浬…奈涸のただ独りの妹。そしてただ独り、彼が愛する女だった。
…どうして?……と彼女は口の動きだけで言った。それは自分に告げているのか奈涸に告げているのか、霜葉には分からなかった。けれども分かった事がひとつだけある。彼女も彼を、愛しているのだと。兄妹ではなく、自分と同じように彼に対して想いを持っているのだと。そして。そして、彼も。
「―――おいで、涼浬……」
彼も、彼女を愛しているのだと。自分を愛する想いとまた別の場所で、愛しているのだと。
愛した女は、ただ独り。ただ独り、この自分の妹だけ。
涼浬、俺はお前だけを愛した。愛して、いる。それは。
それは決して許されない想い。許されない、愛。
結ばれることが許されない、ただひとつの想い。
そう、これは歪んだ純愛。狂った愛。お前以外の女を愛せないから、彼を愛した。
「…兄上……」
涼浬はその声に引きずられるように、奈涸の前に立った。その瞳は微かに潤んでいる。それが哀しみのためなのか、もっと別のものから来るのか…分からなかったけれど。
「―――奈涸…一体何を?……」
驚きに見開かれる霜葉の瞼にひとつ口付けると、そのまま奈涸は彼を抱きしめながらその場に起き上がった。何も身につけていない霜葉を後ろ抱きにすると、そのまま座り込み彼の首筋にひとつ口付ける。そんな様子を涼浬はただ黙って見ていた。
「涼浬は…俺のただ独りの分身。俺のただ独りの半身…誰も涼浬の変わりにはなれない…そして」
背後から手を廻し、奈涸は霜葉の胸の果実に指を這わした。先ほどの情交の火照りが抜けない身体は、すぐに奈涸の指先に反応を寄越した。ぷくりと立ち上がり痛いほどに張り詰める。それを指の腹で転がしながら、もう一方をぎゅっと摘んだ。それだけで霜葉の口からは甘い吐息が零れ落ちる。
「君の変わりも誰にもなれない。俺が唯一手に入れたいと思ったもの…誰にも渡したくないと思ったもの……」
「…あぁっ…奈涸っ……」
「君は誰にも渡さないよ。俺のものだ」
耳元に囁かれる言葉に霜葉の意識が溶かされてゆく。何時もこうだ。こうやって言葉で絡め取られ、身体で流されてゆく。そしてこの腕から何時しか逃れられない自分がいて。そして。
「―――兄上…まさか……」
目の前で兄と霜葉が睦み合う姿を見ながら、涼浬は突然気が付いた。突然、分かった。何故兄が自分達のことを隠そうとせず、まして目の前の妹にそれを見せていることが。今、分かった。
「涼浬、お前を愛している。俺のただ独りの妹。ただ独り愛した女。けれどもお前を俺は抱けない」
「…兄上…私も…兄上を…愛しています……」
涼浬は、微笑った。何よりも綺麗な顔で微笑った。そう自分はこの兄を誰よりも愛している。何時でもどんな時でも自分の近くにいたひと。自分の一番近くに存在する人間。その血が何よりも、誰よりも、自分を分かっている。そして誰よりも自分が兄を…分かっている。
まるで万華鏡のように絡み合う血が、想いが…決して肉体で結ばれることが許されないふたりを、今別の場所で結ばせようとしている。
「…愛しています、兄上……」
もう一度涼浬はそう告げると、自らの服を脱ぎ捨て…兄の腕に抱かれる霜葉の唇を塞いだ。
気付いていた。この男が一番優先するものが自らの妹だと。
何よりも大事にしているものがこの妹だと。そして。そして自分は。
自分は彼にとってのただひとつの欲望。ただひとつの独占欲。
何よりも綺麗な想いで妹を愛し、何よりも醜い独占欲で俺を愛する。
けれどもそれはどちらも。どちらもこの男にとっては欠けてはならないものだと。
自分が彼のものであることも、妹を何よりも大事に思うことも、違うようで同じ事だと。
「…んっ…ふぅっ……」
涼浬の手が霜葉の頬に掛かると、そのまま唇を激しく貪った。逃れようとする霜葉の舌を絡め取り、そのままきつく根元を吸い上げる。
「…はぁっ…止め…涼浬っ…んっ……」
「…霜葉…殿……兄上の愛した人…そして……」
ぴちゃぴちゃと濡れた音が室内に響く。涼浬は夢中になって霜葉の口中を貪った。身体を密着させ、頬に手を当て何度も何度も唇を奪う。裸の胸が霜葉の胸板に当たり、その柔らかさが下半身を刺激した。決して大きいとは言えないが、男とは明らかに違う柔らかい胸の膨らみに。
「…そして…私の……ふぅっ…ん……」
「…んんっ…はぁっ…ん……」
何時しか涼浬の舌の動きに霜葉は答えるようになっていた。それを見下ろしながら奈涸は、抱きしめている霜葉の胸の飾りを再び弄り始めた。
「…んんっ!……」
その刺激にびくんっと霜葉の身体が跳ねる。そのせいで動かしていた舌の動きが中断される。それに焦れたように涼浬は霜葉により身体を密着させ、激しく口中を貪った。
「涼浬、俺の変わりに彼を抱くがいい…彼は俺のものだから…お前のものでもあるんだよ」
「…兄上……」
「…あっ……」
唇を開放した涼浬は、自らの兄を見上げた。その瞳はひどく穏やかで、そして優しいものだった。そう何時も自分に向けられているものだと。何時も自分だけに向けられているものだと。
「…兄上の愛している人なら…私も愛してます…兄上と私は…ずっと一緒なのですから……」
そう言って涼浬は霜葉の首筋に口付けるとそのままゆっくりと舌を滑らせた。首筋から鎖骨、そして胸の果実へと。奈涸の指先が摘んでいる霜葉の胸の突起を、そのまま口に含んだ。兄の指と同じに尖った果実を舌で絡める。ぴちゃぴちゃと音を立てながら、舐めた。
「…あぁっ…止めろっ…こんなっ……」
涼浬と奈涸に同時に攻められて、霜葉は耐えきれずに首を左右に振った。けれども逃れることは出来なかった。逃れられるわけが、なかった。もう既に自分は奈涸によって心も、身体も、絡め取られているのだから。そして。そして、そんな彼と同じ瞳を持った彼女を。涼しげな色彩の中に、激しく熱い感情を持ったその瞳を…自分は決して拒む事は出来ないのだ。
「こんな?…くすくす、そうだね。もう君はこんなにしている」
「―――あっ!」
不意に奈涸の手が、霜葉自身に絡まる。それは先ほど何度も果てた筈なのに、震えながらも立ち上がっていた。熱く脈を打ちながら。
「君もこうなる事を、望んでいたんだろう?ほら」
「…あぁ…あ…奈…涸…っ……」
指先が霜葉自身をなぞる。形通りになぞって、そのまま先端の割れ目に爪を立てた。その刺激にびくんっ!と腕の中の身体が跳ねる。
「…止め…止めろ…っ…変に…なるっ…あぁぁ……」
「…霜葉殿…手を……」
「…あっ!……」
涼浬が霜葉の手を取るとそのまま自らの胸に当てた。そしてそのまま上からぎゅっと握り締める。その指先に伝わる柔らかさが、奈涸の手の中の、彼自身の形を変化させた。
「…あぁっ…霜葉殿…もっと…もっと…強く…あぁんっ…」
「…駄目だ…これ以上は…これ以上は…あぁぁ……」
首を振り湧き上がって来る刺激から逃れようとしても、胸に吸いつく指先を離すことは出来なかった。奈涸の手によって自身を追い詰められながら、自らの手は涼浬の胸の膨らみを揉む。その刺激が霜葉を違う場所へと旅立たせようとしていた。
「…ああんっ…霜葉殿…イイ…イイです…もっと強く…あぁぁ……」
「…はぁぁっ…もぉ…俺はっ…俺はっ……」
「イッてしまえ、壬生」
奈涸はそう耳元で囁くと、そのまま霜葉の先端を強く扱いた。そのまま霜葉は彼の手のひらに白い欲望を吐き出した。
「…あっ!…兄上っ!!……」
霜葉の欲望で濡れた指先が、涼浬の秘所へと忍び込んでくる。閉ざされた花びらを抉じ開け、指が奥へと入ってくる。
「…ああんっ…兄上っ…やあんっ……」
ぐちゅぐちゅと濡れた音ともに中を掻き乱され、涼浬は喘いだ。欲望を吐き出しぐったりとしている霜葉の肩に手を掛けながら、中を蠢く兄の指先に腰を淫らにくねらせて。
「…ああっ…ああんっ…兄…上っ…あああんっ!!」
自らの上で喘ぐ白い肢体に、何時しか霜葉の分身も再び立ち上がり掛けていた。身体を揺するたびに胸が当たり、霜葉の前立腺を刺激する。
「…兄上…兄上…あぁぁ……」
白い喉が喘ぎのせいで仰け反る。甘い悲鳴が口許から零れ落ちる。自分を抱いた男の指で、喘いでいる彼女。自分を抱く男の、ただ独りの妹。ただ独りの彼が愛する『女』。
「…ああ…そうか……」
乱れる彼女を見つめながら霜葉は無意識に呟いていた。この行為の真の意味に気が付いて、そして。そしてそれでも逃れられない自分に、気が付いて。
このふたりは誰にも壊すことの出来ない絆がある。それが血であり、それが心だった。互いはあまりにも互いに近すぎる。感じるものが同じで、思うものが同じ。それは誰も。誰も割り込むことの出来ない、もの。この自分ですらも、決して割り込むことの出来ないもの。けれども。
けれども、自分は、彼らとは全く違う正反対のものを持っている。
それは彼らがどんなに欲しくても手に入らないもの。互いの中からは奪うことも、得る事も出来ないもの。それを。それを自分は持っている。そしてそれを彼が欲しがった。そんな自分に彼は惹かれ、そして自分のものにした。
――――愛しているよ、壬生……
その囁きは本物で。その言葉に嘘は何一つない。
自分は愛されている。何よりもこの男に愛されている。
それはがんじがらめに縛る、激しいまでの想い。
だからこそ。だからこそ、彼の半身である妹を。
―――妹を、自分に、差し出すのだ。
「愛しているよ、壬生」
まともな愛など、正常な想いなどとうの昔に捨ててきた。妹しか愛することの出来ない自分が、愛することの出来た他人は同姓だった。戦いの中でしか生きられない…けれども穢れなきこころを持つ相手。無魂性だと言っていた。だからこんなにも彼には『俗世』がない。欲望も執着も醜い感情が何一つない。欠落しているから。感情が欠落しているから。だからこそ。だからこそ、俺は惹かれた。俺は欲しかった。俺の廻りの何処にもないこの綺麗なモノを、俺だけのものにしたかった。
「…愛している…涼浬……」
そして誰よりも自分に近い相手。自分の半身。心の闇も醜い部分も、激しいまでの執着心もお前だけが知っている。お前だけが…分かってくれる。永遠に身体を手に入れられない相手。けれども心は嫌になるくらいに結びついている相手。
「…兄上…ひとつに……」
お前の中をいたぶっていた指を引き抜くと、涼浬はうっとりとしたように微笑った。その顔を知っているのは俺と…そして今この腕の中にいる壬生だけだ。俺達だけが、共有している。俺達だけが…今同じ罪に堕落している。
「―――ああ、涼浬…ひとつになろう……」
涼浬は再び立ち上がった壬生自身を自らの花びらに当てると、そのままゆっくりと腰を下ろし始めた。俺もそれと同時に彼の秘所に自身を当てるとまだ中に残る精液を頼りに、楔を奥まで突っ込んだ。
「あああああっ!!!」
「ひあああああっ!!!」
同時に悲鳴のような声が涼浬と霜葉の口から零れて来た。処女だった涼浬の花びらからは生暖かい血がどろりと零れている。それでも彼女は苦痛に顔を歪めながらも、自らの腰を進めた。
「…ひぁぁぁっ…あああっ!!……」
霜葉の太ももに血が伝う。それがそのまま零れて、繋がっていた奈涸の脚にぽたりと落ちた。けれども奈涸はそのままに、下から霜葉を突き上げる。前からも後ろからも攻められて、霜葉の口からは激しい喘ぎだけが零れ落ちた。
「…あああっ…奈涸っ…俺はっ…あぁぁぁっ!!……」
きつく霜葉の分身を涼浬の内壁が締め付ける。男など咥えた事のない媚肉は、激しく抵抗をしながらも、それでも霜葉を受け入れた。めりめりと音を立てながらも。
「…あああっ!…痛いっ…ああああっ!……」
肉が擦れ合うのが分かる。その摩擦に涼浬は何時しか痛み以外のものを感じていた。そして。そして何よりもこの男を通じて、自分が兄と繋がっていると言う事実が彼女の動きを大胆にさせた。何時しか積極的に腰を振り、奥へ奥へと霜葉を飲み込む。その間にも後ろから奈涸に攻められて、霜葉は気が狂いそうだった。同時に性感帯を貪られ、意識が真っ白になる。けれどもその行為から開放されることは…なかった……。
繋がっているのが、分かる。自分の身体を通して、このふたりが結ばれていることが。
そして。そして自分はこのふたりに犯されながらも、それを求めていることに。求めている、事に。
同じだと、言った。奈涸は同じだと。自分の分身だと、彼女をそう言った。
そして自分は彼と彼女にこうして愛されている。それ端からは理解されないものだろう。決して理解されないものだろう。でも、自分には分かったから。それが、分かったから。
「…愛しているよ…霜葉…涼浬…俺の…」
「…あぁぁっ…兄上っ…霜葉殿っ!!……」
「…あぁ…もお…俺はっ…俺はっ!……」
歪んだ愛情。歪んだ純愛。それでも。それでも俺達にとっては。
俺達にとっては、どれもこれもが、本物だ。
「――――あああああああっ!!!!」
「ああああああっ!!!」
声が重なり合う。俺と涼浬の声が。声が、重なって、そして。
それと同時に俺は彼女の中に欲望を吐き出し、彼は俺の中に欲望を注ぎ込んだ。
「…誰にも渡さないよ…壬生…君は俺のものだ……」
「…奈…涸……」
「…霜葉殿…兄上の愛した人…私も……」
「…涼……浬……」
俺の身体をふたりは抱きしめながら、ふたりは互いの唇を貪り合った。そんなふたりの濡れた音を聴きながら、俺は目を閉じた。心地よいぬくもりに身を委ね、そして。そしてゆっくりと堕ちてゆく。この兄妹によって、俺は。俺は逃れられない場所へと堕ちてゆく。でもそれは。
――――それは俺が…何処かで望んでいた事、だった……。
End