c−love−r 〜しろつめくさ〜
午後が銀に波うつ丘陵をすべれば
頬をなでる水無月の風にほほえんだふうなき見のまぼろし
いつか僕らは走るのをやめるその日が来るだろう
何時か君との約束が羽根を持って飛びあがる
そして明日へそして明日へ
明日の果てから君の所へ
そう陽射しのよに
そう唄のように
僕は、ただ君の笑顔を護りたかっただけ。
「…あの…綺麗,ですね…」
少しだけはにかみながら微笑む彼女の、笑顔。それは血に染まった僕には、眩しすぎる。綺麗で哀しくて。そして何よりも大切なもの。
「私、朝日よりも夕日の方が好きです。闇に染まる前のほんのわずかな間だけ…切ないほど儚く輝くんですよね」
彼女の柔らかい栗色の髪が、風にひとつ揺れる。そこから微かに甘い匂いが、した。
「…比良坂…」
「貴方、みたいですよね」
「えっ?」
「何時も貴方は闇の中にいる…ども、時々…」
彼女の指先が自らのそれに重なると、そっと絡めた。その手はとても、暖かかった。それだけで、自分の心の全てが満たされてゆく。
「時々貴方は、眩しいほど、輝くの。私の中で…貴方だけが…」
「…好きだよ、君が…僕は…ずっと…」
「知っています。だって、貴方は…」
彼女の大きな瞳がまっすぐに僕を見つめる。その視線は痛いほど、透明で。少しだけ、ほんの少しだけ、苦しかった。
「…ずっと、私を護ってくれたから…」
玻瑠の空の深みで雲が千切れて
原を交差する風がぎらっとひかってはほら緑を萌やす
きっと君はひとりきりで泣いたりもしたんだろう
こんな日は僕のこころも風を待って舞いあがる
そして明日へそして明日へ
明日の果てから君の処へ
そう林を越え
そう森を抜け
初めはただ、なんとなく気になっただけだった。
ただ何となく自分の視界が何時も彼女を捕らえ。そして、目が離せなくなっていた。
多分、自分は気付いたのだろう。彼女の胸の中にある哀しみを。眩しく微笑む彼女のほんの小さな心の染みに。僕は…。
何時も彼女は微笑む。何時でも、どんな時でも。その華奢な身体に降りかかる自らの運命ですらも、必死で受け止めようとする。
それは哀しいまでの、強いこころ。
自らを殺すしか能が無い男と決めつけ、何事からも諦めていた自分に彼女は微笑む。
それだけで、僕は、救われる。
「…壬生さん…」
夕日に照らされた彼女の頬は紅かった。でもそれは夕日のせいだけじゃ、ない。
「ずっと、私を見ていてください。私、それだけで、幸せです」
「うん、約束するよ」
それだけを言うと僕は彼女にそれを伝える為に、そっとキスをした。触れるだけの、優しいキス。その瞬間、彼女の瞼が少しだけ震えるのが、とても愛しかった。
…ああ、僕は。こんなにも彼女の事が好きだ。
「見つけた」
嬉しそうな彼女の声が背中越しに聞こえてくる。僕はゆっくりと振り返った。そこには、何よりも大切な彼女の笑顔。
「見て、壬生さん。四葉のクローバー」
「本当だ、良く見つけたね」
無邪気に笑う彼女の指からそのクローバーを受け取ると、僕はそれを彼女の薬指に結んだ。
「…壬生さん…」
「約束、君を独りで泣かせないって」
それは祈りにも似た、たったひとつの誓い。護りたいもの。それは君の笑顔だけ。だから。
「何時か…これが本物になると…いいですね…」
俯きながら恥ずかしげに呟く彼女に。
僕は重いのたけを込めて抱きしめる。その望みが嘘にならないようにと…。
ずっと遠くへずっと遠くへ
ずっと遠くへ君のところへ
そう陽射しのように
何度も何度も
「…何時か、本物に…しよう…」
c−love−r 〜しろつめくさ〜
SONG BY SCUDELIA ELECTRO
End