恋文。

―――生きている、貴方の為に。

抱きしめて、そして包み込む愛。
全てを癒す愛。
それが私に出来るのならば。
出来るのならば貴方を、壊したりはしないのに。

―――生き続ける、貴方の為に。

貴方を護りたかった。
貴方を傷つけるもの全てから。
全てから護りたかった。
それが。それが私の、愛。

けれど私は貴方を壊してしまった。

気が付かなかった、気付けなかった。
自分の過去を。自分の記憶を。自分の想いを。
貴方は私を探し続けていてくれたのに。
私は気付かなかった。
菩薩眼の娘としての瞳も。
貴方の前では何も役にはたたなかったのね。


―――ただ独り、俺の運命の女。

愛していた、愛していた。
探し続け、求め続け。
永遠に、満たされる事のない欲望。
喉の乾きが満たされないように。
お前と言う水を求めている。

―――俺の運命の、女。

分かっている。お前は俺のものにはならない。
どんなに望もうとも、どんなに愛そうとも。
俺が血にまみれる限り。
お前は俺の手で抱くことは出来ない。
こんなにも愛しているのに。

こんなにも、愛した女はいない。


記憶を失くしたのは、貴方を護る為。
私が菩薩眼の娘として記憶を失くしたならば。
貴方は。貴方は私を護らなくてもいいでしょう?
私の為に傷つく事も、血を流すことも。
何も、何も、ないでしょう?

それでももう、貴方はいない。

愛しているの。
本当は貴方を愛していたの。
ずっと、ずっと貴方だけを。
だからもう、傷つけたくなかった。
私の為に傷ついて欲しくなかった。
復讐なんてして欲しくなかった。
何も、何もして欲しくなかった。
ただ貴方は。貴方の思うままに生きて欲しかった。

それだけが、私の望み。


お前を取り返したかった。
お前の笑顔が見たかった。
お前に自由を与えたかった。
それだけが、それだけが俺を執着させる。
それだけが俺に生きる意味を与える。
お前を奪ったもの全てに復讐する事だけが。
それだけが俺の生きる糧になる。

バカだと思うだろう?
自分でも思っている。
それでも俺はお前だけを愛していた。

愛して、いた。


私は生き続ける。この東京と言う都市で。
この新宿と言う街で、生き続ける。
それを貴方が望んだから。
どんなに卑劣になろうと、どんなに卑怯になろうとも。
どんなにひとを騙そうとも。
私は生き続ける。
それが貴方に出来る唯一の事ならば。

私はどんな事になっても生き続ける。

ああでもどうして。
どうして私は貴方を護れなかったのか?
何故敵対していたのか?

…ううん、違う…本当は気付いていたでしょう?

貴方が滅びる運命を選択した時。
私はこちら側にいるしかなかった。
だって。
だって貴方が望んだのですもの。
生きていてほしいと。
私に生きていて欲しいと。
だから私は貴方のもとへといかなかった。

それが私の貴方への愛。貴方ならば分かるでしょう?


運命に弄ばれ、そして流されて。
何処にも行けずに立ち止まり。
立ち止まる事しか出来なかった俺。
それでもお前を生かす事が。
お前が生き続ける事が。
それだけが唯一の希望ならば。

俺はその命すら道化になろう。
お前の、為に。


こんな愛、誰も理解は出来ないのでしょうね。


End

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