紅い糸

小指の先に絡む紅い糸。
その先に繋がっていたひとは。
ひとは、私の目の前で死にました。
ぷつりと最後に音がして。
そして糸は切れました。


「…如月…さん……」
まだ暖かい貴方の身体。大好きな貴方の身体。私は貴方が何よりも好きだった。龍麻さんよりも死蝋兄さんよりも、誰よりも貴方が好きだった。
「…如月…さ…ん……」
その胸に頬を寄せれば紅い血が頬に掛かる。どろりとした紅い血。まだ、暖かい血が。
―――まだ暖かい、貴方の血。
「…好き……」
私はそっと貴方の流れる血を、舌で舐め取った。


―――どうしてだか、私にも分からなかった。
黄泉の国から蘇った私には、何時も死の匂いが絡みついていた。黒く、紅い死の匂いが。何時も何時もその匂いが消えなくて、私は心の何処かで怯えていた。
こうして光の中に戻っても。光の中に生きても、私にはもうその場所はただ眩し過ぎるだけでしかなくて。その眩しさが何時しか辛くなっていた。だから。だから私は闇の中へと逃げようとした。

『逃げるのかい?』

そんな私に貴方は一言そう言った。揺るぎ無い瞳で。真実だけを映し出す瞳で。貴方は私にそう言った。そこにあるのは絶対の強さ。どんなものにも揺さぶられることのない唯一絶対の強さ。それは。それは私がどんなに望んでも手に入れられないものだった。


不安の中で生きて来た。
不安定な足元だけが私の世界の全てだった。
何時崩れるか分からない世界の中で私は生きていた。
死んでも、死んでからも。そして…蘇っても……。
私に纏わりつくのは何時でも死の匂い。消えることのない死の匂い。
そんな私は、龍麻さんの傍にはいられなかった。
光の中で、皆に愛されて生きる人。
全ての人の希望。強い光。
こんな私にも手を差し伸べてくれた貴方。
その手を取れば多分私は幸せになれたのでしょう。
暖かい光を手に入れられたのでしょう。
けれども、私は。私は。

―――孤独からは永遠に…逃れることが出来ない……


「君の運命を絶ち切ることは出来ないよ」
貴方は真実だけを告げる。それは私にとって唯一胸に突き刺さる言葉。優しい暖かい言葉よりも、ただ一つの真実が私の胸に宿る。
「君の死の匂いを消すことは出来ない。それでも」
差し出した手を私はそっと握り返した。冷たく綺麗なその指先を。
「それでも忘れることは…出来るだろう?…」
その一言で、私は貴方の腕の中に抱かれた。


―――光なんて、いらないと思った。
その腕に抱かれながら、その指に触れられながら私は。
私は気がついた。望んでいたものを。
本当に望んでいたものに気がついた。
私が欲しかったのは『真実』。
優しい暖かさよりも、眩しい光よりもただひとつの真実。
ただひとつの本当のこと。

貴方の腕に抱かれ、私は初めて孤独ではないと気がついた。


「僕達は同じだろう?」
「…如月さん……」
「同じだろう?逃れることは出来ない運命と…そして纏わりつく死の匂い」
「…どうして…貴方はこんなにも光の中にいるのに…どうしてこんなにも私に近いの?」
「―――それはね比良坂さん…僕は…」

「僕はもうじき死ぬからだよ」


真実だけを映し出す瞳。
真実だけを見極める瞳。
その瞳は自分の死期すらも映し出す。
自分が死ぬ瞬間すらも、映し出す。

「もうすぐ僕は死ぬだろう…怖いとは思わない。けれども」
「…けれども…」
「生きていた証を…残したいんだ」


それからまた私達は狂ったように抱き合った。
獣のように互いを貪り合って。
貪り合って、そして。そして私は祈る。

―――貴方の命を宿すことが出来るようにと……

貴方が、好き。
貴方だけが、好き。
貴方だけが私を分かってくれた。
私の孤独を見付けてくれた。
身体に巣食らう死の匂いを。
貴方だけが、共有してくれた。


そして、貴方は予言通り死に至る。
真っ赤に身体を染めながら、いとも簡単に死んでいった。
そうして。そうして私達の糸は。
紅い糸はぷつりと、切れました。

けれども。
その切れた糸の先に。
その先に小さく宿る命の炎。
糸を燃え尽くし輝く炎。
それは。

―――それは私と貴方の、子供。


貴方はそうして私を孤独から救ってくれました。
貴方はそうして自分の『生』の証を残しました。
ふたりの結ばれた紅い糸を代償にして。


私達はただひとつの真実を手に入れました。


End

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