ひだまり

君の、笑顔。君の、泣き顔。
その全部が。
その全てが、愛しいから。

愛しくて、そして愛している。

「ダーリンっ!」
幸せそうに手を振って、僕に向かって小走りに走ってくる。そんな君の仕草がどうしようもなく可愛くて、僕はつい小さく笑った。
「転ばないようにね、舞子」
言った手前から躓いた君に手を伸ばして捕まえると、少しだけはにかみながら見上げて来た。その大きな瞳に、キスしたくなる。
「ごめんねーダーリン」
申し訳なさそうに言ってくる君に、お返しとばかりに僕はそのまま抱きしめた。その途端腕の中の小さな身体がぴくりっと震える。
「…ダ、ダーリンっ?!」
「どうしたの?舞子」
「…こ、こんな道端で…舞子恥かしい…」
耳まで真っ赤になりながら、俯く君がどうしようもない程可愛くて。廻した腕を外すことが出来なかった。
「今更、だろ?」
「でもでもでも恥かしいのっ」
「何時も自分から腕を組んでくるのに?」
「…腕組むのと…抱きしめるのは…違うもん…」
俯いたまま見上げてこない。これ以上苛めたら本当に拗ねてしまうかもしれない。そう思って僕は少々残念に思いながら、腕を離した。
「離したよ、ちゃんと僕を見てくれる?」
頬にそっと手を重ねて僕へと顔を向かせる。見上げて来た顔はまだ目尻がほんのりと赤かったが、それでも君は微笑んでくれる。そう、君は瞳がかち合うと必ず笑ってくれる。
「むぅ、ダーリンのばか」
笑ってからそれが悔しいのか、頬を膨らませて拗ねた表情を見せる。柔らかい頬の感触が楽しくて、僕はつい軽く頬をつねってしまった。
「ぷにぷにだ。やわらけーな」
「もうダーリンっ!」
「ごめんね、舞子が可愛いらつい苛めちゃうんだ。もう怒らないで…行こう」
手を差し出せば君はもう一回だけ僕を睨んで、そして指を絡めてきた。暖かい、手。君の心と同じ暖かい指先。何時でもどんな時でも君は、ひだまりのような優しさと暖かさがある。僕の全てを包み込んでくれるそんな、優しさが。
「今日一日は舞子の好きな所に付き合うよ。何処に行きたい?」
「えっとねー、舞子」
「ん?」
「ダーリンと一緒なら何処でもいいよ」
「嬉しい事を言ってくれるね」
「…だって舞子…ダーリンと一緒なら…何処でも…楽しいもん」
「うん、僕も。舞子と一緒ならどんな事でも楽しいよ」
「へへへ、一緒だね」
「一緒だよ」
「ダーリンと一緒で舞子、嬉しいな」
さっきまで拗ねていたのかと思ったら、もう君は笑っていた。ころころとよく変わる表情と、素直に表す喜怒哀楽が。その全てが僕にとって目の離せないものだから。
―――君から瞳が、離せない。

重たい運命から救ってくれたのは、君の笑顔。
屈託のない、純粋な笑顔。
そして。そしてその笑顔の下にある。
君の壊れそうな優しさ。
全てのものを救おうとする、その優しさ。
目に見えないものでも、生命のないものでも。
君は、その小さな手のひらに掬おうとする。
両手いっぱいに抱え切れなくなっても。
君自身をそれによって傷つける事になっても。
それでも君は、見捨てない。
全ての人間が見捨てようとしているものでも。
君だけは。君だけは決して見捨てたりはしない。
―――僕ですら……。
黄龍の器を持つ僕ですら、目を閉じて耳を塞ごうとしたものを。
君はその手のひらに掬おうとする、から。
だから、僕は。
僕は君を護りたい。
君が傷つかないようにと。
君が疲れてしまわないようにと。
君が笑っていられるようにと。
…君を、護りたい…から……

僕を癒せるのが君だけならば。君を癒せるのは僕だけでありたい。

何をする訳ではなく、ただ手を繋いで街を歩いた。僕達が護ったこの『街』を。
人々は何も知らずに歩き続ける。僕らが傷つき血を流した事など知らずに。
でも、それでいい。それがいい。知らないので済むのなら、知らなくていいものはこの世に沢山るのだから。このまま何も知らずに穏やかに生きてゆけるのならば、それでいい。
でも、僕は。僕は決して忘れない。自らの運命と、血の絆で結ばれた仲間達を。そして。そして隣で微笑う、彼女の想いを。誰が忘れても、僕だけは忘れはしない。
「舞子」
名前を、呼ぶ。君の名前を。こうして日差しの下で、青い空の下で、君の名前を呼べる事は幸せだから。なによりもの、幸せだから。
「何、ダーリン?」
「好きだよ、舞子」
「舞子もダーリンが大好き」
「うん、分かっている。でも聴きたかった」
「舞子もダーリンの口から、聴きたかった」
瞳を合わせて、そして微笑う。こんな何気ない時間が。こんなさりげない時間が。
僕らにとって最もかけがえのないものだから。
―――それは宝物のように、大事な時間。
重たい運命に負けそうになりながら、全てを放棄したい衝動を堪えながら、やっと手に入れた平和。そして幸せ。
もう二度と誰も泣く事がありませんようにと、祈りながら。
もう誰も傷つく事がありませんと、願いながら。
手に入れた、平和。
もう誰も傷ついてほしくない。もう誰も泣いてほしくない。
それが、それが想い。
僕らの…ふたりの重なり合った、想い。

「ダーリン、今日はぽかぽかしてて暖かいね」

こんな何気ない言葉を君の口から聴きたかったから。
僕は自らの運命と戦った。
聴きたかった、から。君の口から聴きたかったから。
その唇から零れる言葉が嘆きではありませんようにと。
哀しみでも苦しみでもありませんようにと。
ただ、それだけを。
それだけの為に僕は、戦った。

君の唇から零れる言葉は、暖かい言葉であってほしかったから。

ひだまりの下で、君が微笑う。
屈託のない笑顔で。無邪気な笑顔で。
僕はその笑顔を壊さないようにと。
それだけを、祈っていた。それだけを。
君の瞳がもう二度と曇る事がないように。
この暖かい日差しの下で、全てを包み込んであげられるように。
この、ひだまりの中で。

―――君が、微笑っていられるように。

End

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