繋がれた指先
―――気が付けばそこにあったのは、貴方の大きな手でした。
何時も主は私達を見ているからと。私達を見護ってくれているからと。
暖かいまなざしと、広いこころで何時も。
何時も、見えないけれどそばにいてれるのだと。
今はその言葉を…私は貴方に伝えたいと、思いました……。
「ほのか、大丈夫か?」
戦いの中で、何時も貴方は私に振り返ってくれました。どんな時でも、必ず私を探してそして見つけてくれました。
「…大丈夫です…クリスさん……」
異国の蒼い瞳が真っ直ぐに。真っ直ぐに私を見つめてくれるのが、とても嬉しくて。私にとって視線を反らさずに見てくれる貴方の瞳が、一番嬉しかったのです。
「そうか、それならよかった」
私は別に自分の道を否定する気はありません。主への想いは私にとっての永遠の想いです。けれどもこの国の人々はそんな私をまだ受け入れてくれない人達がいます。ただ切支丹という事だけで…この格好をしているだけで、私から目を反らす人がたくさんいたから。でも。
「キミに何かあったら、オレは…」
でも貴方はその蒼い瞳を真っ直ぐに私に向けてくれました。そこには国境も人種も何もなく、何もなくただ『一人』の人間として、私を見てくれたから。
「ありがとう、クリスさん」
だから私も。私も貴方を見つめたい。真っ直ぐに、その瞳を見つめたいのです。
何時も私の前にあるのは大きな手。貴方の、手。
どんな時でも、どんな瞬間でも、その手が。
その手が、私を護ってくれるから。
気が付けば、何時も。何時もその手が差し伸べられていました。
私が敵に襲われた時、その腕が私を庇ってくれました。
私が転びそうになった時、その手が私を受け止めてくれました。
何時も何時も、貴方の手が私を。私を助けてくれました。
「クリスさん」
何時か聴きたいと思っていました。何時か聴いてみたいと。
「どうした?ほのか?」
貴方の口から、聴きたいと思いました。
「…どうして私を…護ってくれるのですか?…」
それがどんな答えであろうとも。
私は主に仕える、切支丹です。
私の身もこころも全て。全て主に捧げました。
けれども。けれども私は。
私は心の何処かで、貴方を。
――――私は…貴方を……
それは許されない想いですか?許されない気持ちですか?
主に仕えし、私が。私が神様以外のひとを想う事は。それは。
それは罪なのですか?それはいけない事なのですか?
「キミがオレの妹を思わせるから」
…貴方が、好きです…クリスさん…私は、貴方が好きです……
「…妹…ですか?……」
貴方がどんな理由で私を護ってくれようとも。どんな理由でも。
「ああ、初めはそうだった。キミが、オレが失った妹の変わりだった」
貴方を好きだという想いは止められないから。止められ、ないから。
「―――でも今は違う…ほのか……」
主よ、貴方を愛する想いで…私は彼を愛しているのです。
金色の綺麗な髪が、大好きでした。普段は帽子に隠れているけれど、その髪が光に照らされる瞬間が。きらきらとして、とても。とても綺麗で。綺麗、だから。私は貴方の髪をずっと見ていたいなって思いました。
「…キミが好きだよ…ほのか…男としてオレはキミを護りたい……」
蒼い瞳が好きでした。どんな人に対しても、誰に対しても真っ直ぐに向けられる瞳。訳隔てなく、誰にでも。誰にでも視線を反らす事無く、真正面に見つめる瞳が大好きでした。
「…クリ…ス…さん……」
そして何よりも大好きなのは貴方の手る何時も私の前に差し出される、貴方の手。その手がどんなに暖かくて、どんなに優しいかを、私は誰よりも知っているから。私が一番貴方の手を、知っているから。
「キミを護りたい、ほのか」
今もこうして貴方の手が私に差し出されて。差し出されて、貴方は照れたように微笑いました。その口許が何よりも優しくて…優しかった、から。
「…私は…主が一番大切です…でも……」
そっと私の頬に伸ばされる指先。その感触で初めて、自分が泣いていることに気が付きました。初めて、泣いている事に。
「…でも…クリスさんも…大切…です……」
私の言葉に貴方は微笑って。零れ落ちる涙を、拭ってくれて。そして。そして、そっと。そっと、私を抱きしめてくれました。
――――貴方が、好きです…大好き…です……
「いいよ、オレが一番でなくても。オレはそんなキミが好きだから」
「…クリスさん……」
「主を大事にしているほのかが…キミの全部が、好きだから」
「…大好きだよ、ほのか……」
笑って、子供のような笑顔を私にくれて。そしてひとつ。ひとつ口付けをしてくれました。びっくりした私に貴方は笑いながら…云いました。
「…キスは目を閉じるものだよ…」、と。
End