Twist Of Love

『本に埋もれて死ぬなら、ある意味本望ですね』


何時もの穏やかな笑顔で、お前がそう言ったから。少しだけむかついて、そのまま噛み付くようにキスをした。
「…捲簾?……」
少しだけ驚いたように瞳が見開いて、けれど次の瞬間やっぱりお前は何時もの笑顔に戻って俺の髪を撫でた。
「くすくす、怒ってますね」
「〜〜っ怒ってねーよ」
眼鏡の奥の静かな瞳が、見透かしたように俺を見上げて。そしてやっぱり瞳も、微笑っていたから。
「怒ってねーから、キスさせろっ」
その眼鏡も取っ払って、俺はもう一回お前にキスをした。


春の穏やかな風のようだと、お前を見ていたら思った。
ふわりと吹き抜ける優しい風。暖かい、風。
ひどくこころを穏やかにして、そして全てを包み込む風。

―――お前を見ていたら、そんな事を…思った……


「―――貴方は、僕の言葉を聴く前にキスをしますね」
「〜〜いいだろっ、お前だってして欲しそうな顔していただろうがっ!」
「…全く…勝手に決め付けないでくださいよ」
「っていいだろうがっ!あんまムカツクこと言うと、またキスするぞ」
「……いいですよ…幾らでも……」

「…貴方の機嫌が…直るならば……」


そっと手が伸びて、俺の背中に廻りそのまま抱き着いてきた。これは卑怯、だ。俺は反撃が出来なくなってしまう。そしてそのまま、俺に目を合わせて。お前から、キスをしてきた。
「…煙草の味がします……」
唇が離れて、やっぱり俺を見上げて。不思議な色彩の瞳が、柔らかい瞳が俺を見上げて。
「お前だってしているだろうが」
こんな時、眼鏡を外さなければよかったと思った。片手が塞がっていて、お前を思いっきり抱きしめられないから。その身体を、この腕に。
「くすくす、そうですね」
背中に廻っていた手が、俺の頬に触れる。男とは思えない細い指だった。戦う事を知らない指だった。お前は『頭』で戦う人間だから。
「もう機嫌、直りましたか?」
「微妙に、直った。でも」
手に持っていた眼鏡を横にあった椅子の上に置いた。最初からこうすればよかった。そうしたらお前、抱きしめられるから。
「でも、もっと機嫌良くさせてくれる?」
「…貴方は…本当に……」
大きなため息とともに、呟く言葉は。けれども俺の言葉を、否定してはいなかったから。


本に埋もれて死ぬ、なんて。そんなの許さねーよ。
お前の死に場所は。お前の死ぬ場所は。

―――俺の腕の中、だって…言いたかった……


「…あっ……」
薄い胸に唇をあて、そのまま胸の飾りを含んだ。ぷくりと立ち上がったソレを、軽く歯を立てて噛めば口から零れるのは甘い吐息だった。
「…あぁんっ……」
そのまま空いた方の手で胸の突起を摘む。指の腹で転がしたら、お前の身体がぴくんっと跳ねた。それが、何よりも俺にとっては愛しいもので。
「…天蓬…お前ってさ……」
「…何ですか…捲簾……」
「――いや、その…」
言おうとして出掛かった言葉が寸での所で止まった。今更口に出すのもひどく恥ずかしく思えて。
―――綺麗だな、なんて…今更……
「変な人、ですね。貴方は…でもそこが」
お前の手が俺の髪をそっと撫でる。抱いているのは何時も俺なのに、時々お前に抱かれているような気がするのは。こんな時にふと見せる優しい瞳のせいなのだろう。
「…そこが好き、ですよ……」
そのままお前から口付けられて、俺はぎゅっと。ぎゅっとその細い身体を、抱きしめた。


「―――あああっ!!」
細い腰を掴んでそのまま。そのままお前を一気に貫いた。何度も抱いている身体だけど、挿入する時は何時も。何時も初めてのように俺を拒む。その抵抗を押し退けて、奥へ奥へとお前の中へと入っていった。
「…くぅっ…ああ…はぁぁっ……」
「く、相変わらずきついの」
「…あああっ…あんっ……」
綺麗な眉が、苦痛に歪む。それを宥めるように汗でべとつく前髪を掻き上げて、そのまま額に口付けた。
「…捲…簾…っ……」
「やべーな、俺」
シーツを掴んでいた手をそのまま俺の背中に廻させた。そのまま深く爪を立てて欲しい。この背中はお前だけのモノ…だから。
「どーしようもねーくらいに…お前に惚れてる……」
ゲンキンだけど、抱いている時にそれを一番実感する。どんな女にもこんな風に溺れたことはなかった。どんな女にもこんな風に感じたことはなかった。どんな女にも、こんなにも。
――――こんなにも愛しさを、感じたことはなかった。
腰を引き寄せて、奥まで抉る。一番深い場所を、俺しか知らない場所へと辿り着くために。
「…捲簾…あああっ……」
爪がバリバリと音をしながら、俺の背中を抉った。それで、いい。それが、いい。俺の背中に爪を立てられるのはお前だけなんだから。
「…ああっ…あああ…はぁぁ……」
「――天蓬、俺さ…」
「あああああ―――っ!!」
「死ぬほど、お前に惚れている」



その身体に欲望を吐き出した瞬間。
どうしようもない愛しさと切なさが。
俺の中を駆け巡って、そして。
そして強く抱きしめた身体を、このまま。
このまま腕の中に閉じ込められたらと、思った。


―――ずっと、閉じ込められたならば…と……。



「…貴方が拗ねていたのは……」
「ん?」
「…僕が本に埋もれて死にたいって言ったからですか?…」
「ち、分かってんじゃんかよ」
「くすくす、分かりますよ。僕は」


「貴方のことならば、どんな事でも」


俺はバカで単純だから、お前のその一言で。
今までの微妙な不機嫌さも、全部。全部、吹っ飛んで。
何よりも満たされた気持ちに、なっちまった。


――――お前の一言が、何時も。何時も俺の機嫌を決めさせるんだぜ……




「これで完璧に直ってくださいね」


と言って、お前は俺にキスをする。
悔しいけど、全部お見通しで。全部見抜かれていて。
でもそれが。それがまた。


―――俺にとって一番心地いいと、分かっているから……




    END

 

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