零れる、華

手のひらから、指の隙間から、零れ落ちる花びら。


一面の花びらが空から降り注ぎ、それがふわりと世界を埋めた。桜色の花びらが、全てを埋めてゆく。ひらひらとその手を、その指を、その脚を埋めてゆく。
「―――おい、天蓬」
目を閉じ花びらに同化するように。そっと意識を拡散させたら…貴方の声が遮るように降ってきた。
「何してんだよ、お前」
瞼を、開く。その瞬間睫毛から零れるのは桜色の花びら。ひどく瞳に近い距離で落ちてゆくそれは、甘い薫りとともに瞼の裏に鮮やかに焼き付いて。
「見ての通りですよ、眠っていました」
眼鏡を掛けて貴方の表情を見ようとして、けれどもその手は寸での所で止まる。貴方の顔が眼鏡を掛けずとも分かるほどの至近距離に飛び込んできたから。
「…ならいいけどよ……」
睫毛が触れ合うほどの、距離。間近にあるその瞳の強さが、ふと。ふと、嬉しくなった。そのまま手を伸ばし、その広い背中に廻して感触を確かめた。
「付いてますよ、髪に」
背中から離した手で貴方の髪に触れて、そこに付いた花びらを取った。その瞬間また風がふわりと吹いて花びらが落ちてきたから…意味はない行為になってしまったけれども。無数に降り注ぐ花びらの雨が。
「お前の方が、大量に付いてんだろうが…つーか、埋もれてるぜ」
そのつもりでしたよ、と口に出そうとして、そっと止めた。そんな事を言ったらきっと貴方は眉間にしわを寄せて、嫌な顔をするだろうから。

――――そんな貴方の顔を見るのも…イヤじゃないけれど……

でも今は。今は違う顔を見たかったから、そのまま引き寄せ唇を塞ぐ。口付けはびく甘い味がした。多分僕の唇に重なっていた花びらの、甘い薫りのせいだろう。
「…捲簾……」
唇を離してその顔を見上げれば、そっと瞳が微笑った。普段は『怖い』と言われている貴方の、そんなふとした優しい顔が何よりも好きだった。何よりも好きだから、一番見ていたいと思うもの。
「花びら、付いてんぜ」
貴方の指先がそっと唇に触れると、そのまま重なっていた花びらを取った。大きくて強い、けれども時々ひどく繊細な動きを見せる指。大事な、指。その感触をもっと感じていたくて、僕はその指を口に含んで、ひとつ舐めた。

―――それはひどく、甘い味が、した。



降り注ぐ、花びら。桜色の花びら。
穢たないものを全て。全てこの花びらが。
この花びらがそっと、隠してゆく。
ひらひら。ひらひらと、降り注ぐ花びらが。

全ての罪と穢れをそっと。そっと隠してゆく。



「許されるなら、花びらに埋もれて死にたいですね」
「―――ってお前何言ってんだよ」
「いいじゃないですか。こうやって花びらに埋もれて、そして」


「そして貴方の腕の中で、死ねたなら」


目を閉じ、貴方の胸に頬を寄せ、そして感じる鼓動。
ただひとつの命の音。それを僕の全てで感じて。
何時しかその音に溶けてしまえたならば。溶けて、しまえたならば。


それは眩暈がするほどの、幸福だから。


「あのなぁ、天蓬…俺の腕で死なれたら俺の寝心地が悪くてたまらねーだろっ」
「…全く貴方は…少しくらい感傷に浸らせてくださいよ」
「何が感傷だ。お前がバカな事言うからだろーがっ!」
「―――バカなこと、ですか?」
「ああ、バカだ。何で『死』の事なんて語ってんだよ。そんなん死んでから考えたらいいだろうが」
「死んだら、考えられませんよ」
「うるせー。俺らは今を生きてんだから、そんな余計な事考えんなよ、ばか」




花びらに埋もれてるお前を見ていたら。
花びらの中に沈んでゆくお前を見ていたら。
その中に取り込まれ、そして。
そして消えてゆくような気がして。

…お前が、消えるんじゃねーかって…思って……



「…捲簾?……」
お前の腕を掴むと、そのまま引き上げきつく抱きしめた。そうする事で感じるリアルな身体の暖かさにひとつ安心して。
「余計なこと、考えんなよ」
そのまま見上げてくる瞳を瞼の裏に焼付けて。零れ劣る花びらの残像を焼き付けて。その唇を、奪った。吐息の全てを貪るよな、激しい口付けを。




手のひらから、指先から、零れる花びら。
ひらひらと、零れてゆく花びら。けれども。
けれどもこうして抱きしめている身体は。
こうして触れ合ってる体温は。



…手のひらからも指先からも、決して消えることはないから……



    END

 

HOME  BACK

  プロフィール  PR:無料HP  合宿免許  請求書買取 口コミ 埼玉  製菓 専門学校  夏タイヤを格安ゲット  タイヤ 価格  タイヤ 小型セダン  建築監督 専門学校  テールレンズ  水晶アクセの専門ショップ  保育士 短期大学  トリプルエー投資顧問   中古タイヤ 札幌  バイアグラ 評判