真っ白な翼と一緒に、俺の腕に天使が落ちてきた。
ひどくうるさく、そして。そしてひどく無邪気な天使が。
―――俺の腕の、中へと。
「三蔵、三蔵、俺ね」
きらきらと輝く金色の瞳。それは何時も新鮮で、そして。そして何時も新しい表情を俺に見せてくる。
「――うるさいぞ、猿」
俺が知らない顔を。俺が知らない表情を。俺が知らない世界を。俺が知らない感情を。剥き出しのまま、俺に見せてくるから。
「むー、うるさいって言うなよ。せっかく描いたのに」
何時も俺はどうしていいのか分からなくて、つい不機嫌な顔をしてしまう。
初めて見た時、すげーびっくりした。
だって、綺麗だったから。凄く凄く綺麗だったから。
今まで見たどんなものよりも。今まで見てきたどんなものよりも。
お前が綺麗で、俺びっくりした。
―――だからこの手で、触ってみたいなって思った……
「ほら、三蔵の絵、描いたんだっ!」
その綺麗だと思った気持ちを。綺麗だなって思った事を、どうしたら伝えられるかなって思ったから。だから、俺は。
「…ってそれが俺か……」
「うん、綺麗だろ?」
伝わるかな?伝わるといいな。俺がこうしてお前を何時も綺麗だなって思っているのが。伝わると、いいな。
「………」
「〜〜何で黙っているんだよ〜〜っ」
「…いや…お前の画力があまりにも凄くて」
「だろうっ、俺一生懸命描いたんだもん」
へへんって胸を張ってみたら、お前はそっと。そっと微笑って。そして。
「―――そうか」
そしてゆっくりと、俺の身体を抱きしめて、くれた。
はっきり言ってへたくそな絵、だった。これが俺かと思うとため息が出る程に。けれどもお前が。お前が一生懸命描いているモノだと分かったから。
「…俺ね、三蔵の腕の中が一番、好き……」
伝わるんだなと、思った。それが上手くなくても、へたくそでも。気持ちは、伝わって来るんだと。
「暖かくて…そんで…優しくて……」
真っ直ぐな想いは、純粋な想いはこうやって。こうやって痛い程に伝わってくるんだと。
「…すげー好き……」
腕の中のぬくもりが。微かに薫る匂いが。真っ直ぐに見上げてくる瞳が。全て、こうやって。こうやって。
「―――そうか……」
気持ちを、想いを、伝えてくれるのだと。
腕の中に落ちてきた、天使。
余りにもうるさくて、余りにも動き回っていたから。
だからこうして。こうして俺の腕の中に。
―――腕の中に、落ちて来たのだろう……
「三蔵、大好き」
真っ直ぐな目。揺るぎ無い視線。金色の瞳は何時も俺だけを見つめていてくれる。真っ直ぐに俺だけを。
「お前はそればっかだな」
「だってすげー好きだから。好き好き好きーっ!!」
そして小さな身体いっぱいに。いっぱいに想いをぶつけて来るから。真っ直ぐで剥き出しの想いを。
「分かった、分かった…キスしてやるから静かにしろ」
「うんっ!!」
にっこり笑って素直に目を閉じるお前に、ひとつキスをして。そして。そして少しだけ力を込めて、抱きしめた。愛しいと云う、ただひとつの想いを込めて。
「足りなさそうな顔、しているな」
睫毛の先に、キス。
額に、キス。頬に、キス。
顎の先にキスをして。
そしてもう一度。
もう一度、唇にキス。
「…まだ足りないか?バカザル……」
「…俺…ね…三蔵とならね…」
「あ?」
「…三蔵とならね…ずっと……」
「…ずっと…キス…してたいな……」
手で触れている頬がかああっと熱くなっているのが分かる。ガキの癖に妙に色気づくからそうなるんだと、云おうとして止めた。明らかにその原因は自分にあるのだから。
「バカザル」
「あっ」
頭をひとつたたいてもう一回キスをしてやった。その途端ぴくりと動きが止まって。止まってそして腕の中の身体が、力が、抜けてゆくのが分かる。それがひどく、俺にはおかしくて。おかしくて、そして。そして愛しくて。
「まだ、足りねーか?」
「…あ…う、うん……」
「…全然…足りない……」
――――何よりも愛しい…俺だけの…天使………
END