夢のかけら

少しだけ切れた隙間の先に、零れ落ちる優しい夢のかけら。


いっぱい、そばにいて。いっぱい、感じていたから。いっぱい、いっぱい、お前を。
「全くガキの癖に色気付きやがって」
咥えていた煙草を取り上げて、そのままキスをした。その途端に広がる煙草の味が、けれどもこれが。これがお前の匂いだって思ったから。
「…だって俺…三蔵…好き、だもん……」
むせ返るほどの煙草の味が口に広がって、やっぱりちょっと耐えられなくなって唇を離した。そうしたらお前はぽんっと俺の頭をひとつ叩いて。
「マセガキ」
ひとつ微笑って、そして。そしてそっと、抱きしめてくれた。この瞬間が、俺は一番大好き。



小さな、身体。腕の中に抱きしめればすっぽりと埋まってしまう程の。
小さな、身体。こんな子供にどうして俺は。俺はこんなにも愛しいと思うのだろうか?
どうしてこんなにも、大切だと思うのだろうか?


「煙草くさいぞ、それでもいいか?」
抱きしめたまま、シーツの上にその身体を横たえさせた。その間もずっと。ずっとお前は俺の服をぎゅっと握り締めている。それがひどく愛しかった。
「うん、いい…俺、平気」
見上げてくる金色の瞳。真っ直ぐな瞳。いつも思えばこの瞳は俺からそらされる事は決してなかった。いつも、何時も真っ直ぐに俺だけを見ていて。見つめて、いて。
「平気だから、いっぱいキス」
「ホントにマセガキだな…お前は…って俺のせいか……」
俺の言葉にお前は楽しそうに笑いやがった。あまりにも楽しそうで少しだけむかついたから、望み通りその唇を塞いでやった。


「…んっ…んんっ……」
口を開かせ舌を絡めながら、胸元に手を忍ばせる。そのまま辿り着いた胸の突起に指を這わせれば、ぴくんっとお前の睫毛が揺れた。
「…んん…ふぅっん……はぁっ……」
胸を弄ったままで唇を離せば、一筋の唾液が二人を結ぶ。そのままぷつりと切れて、お前の顎に流れたそれを、そっと舌で舐め取った。
「…あんっ…三蔵…くすぐったい……」
ぴくんぴくんと舌が顎を滑るたびに小刻みに震える身体そのまま顎から胸の果実へと舌を滑らせれば、口から零れるのは甘い吐息だけだった。
「…あぁっん…あんっ……」
「相変わらずイイ声で鳴くな、お前は」
「…って…三蔵の…せいっだぞっ…バカっ…はぁっん…」
「そうだな、俺のせいだな。だってら俺のためにもっと」
「…あぁ…はぁっ…あ……」
「イイ声で鳴けよ、小猿」
胸の突起を歯で噛んでやれば痛い程に張り詰めるのが分かる。幼いがゆえに与えられた快楽に忠実だ。すぐに吸収して、淫らな生き物へと変化してゆく。俺の腕の中で、変化してゆく。
「…あっ…三蔵…はぁっ…ぁぁ……」
俺だけが、それを知っている。俺だけしか、それを知らない。お前がどんなに淫らな生き物で、どんなに夜に濡れた瞳をするのか。俺しか、知らない。俺だけが、知っている。
「…あぁっ…もっと…俺…はぁぁっ……」
胸を押し付けてもっとと、刺激をねだる。それに答えるように俺はかりりと突起を歯で噛んだ。痛いほどの刺激がお前を満足させる。甘い声が、口から零れてくる。


―――何時もお前は俺に言う。綺麗、だって。

綺麗だからもっと。もっとそばにいて。そばにいて、見ていたいんだって。
バカみたいな戯言だと思っていた。くだらないと思っていた。
でもこうして。こうして腕の中に閉じ込めて、どうしようもない切なさと愛しさがこみ上げてくる瞬間。俺は。

俺はお前の方が綺麗だって、ふと思った。



きらきらとした金色の髪。
光の加減によって違う色に見える紫の瞳。
その全部が。全部が、俺。
俺何よりも大好き、だから。
大好きだからこうやって、ずっと。
ずっと見ていたくて。そうしてもっと。
もっと近くで見ていたくて。

――― 一番近くで、お前を見ていたくて……。


て、のばして。かみに、ふれる。
きんいろの、さらさらのかみに。
かみに、ふれる。



「ああああっ!!」


熱い塊が、俺の中に入ってくる。身体を真っ二つにされるような痛み。けれどもそれがすぐに違うものへと変化するって俺は知っているから。違うもの、へと。
「…あああっ…ああああ…さん…ぞうっ…ああんっ……」
だから髪に、触れる。金色の髪に触れる。こうしていれば、平気だから。何時もどんな時でも、この髪に触れていれば。触れて、いれば。
「―――悟空、髪引っ張るな痛いって」
「…あああ…あぁぁっ…あんっ…あんっ……」
痛い?あ、ごめんね。ごめんね、三蔵。でももうちょっとだけ。もうちょっとだけこの髪に触れていてもいい?触れて、いたいから。
「ってしょうがねーな…バカザル…こっちにしろ」
「…あっ……」
髪から手が離されて、背中へと廻される。広い、背中。大きくて広い、その背中へと。
「爪立ててもいいからこっちにしろ」
「…う…ん…三…蔵…そうする………」
お前の言葉にぎゅっと背中にしがみ付いた。髪に触れているときよりもこの方が近くにいられるんだって、そばにいられるんだって今。今気が付いた。こうやって体温を感じていられるんだって。
「動かすぞ、サル。いいか?」
俺はその言葉にこくりと頷いた。もうそれからは三蔵の動きに飲みこまれるだけで。ただ快楽を追うだけで、何もかも分からなくなっていた。



ふとした瞬間に。時間が途切れた瞬間に。
その瞳が。その瞳があれば、いい。
ふとした瞬間に見上げた先に紫のその瞳が。

―――俺を見てくれたならば……



「…あああっ…あああ…さん…ぞー…はぁぁっ!」
「いいか?サル、もっと欲しいか?」
「…ほしい…ほしいよぉ…あああんっ!!」


「…いっぱい、いっぱい…ほしいよぉ………」



目尻から零れるのは快楽の涙。意識は飛ばされ、ただ。ただ今は俺がもたらす快感に翻弄されるだけ。それでも。それすらも、愛しいと思う俺が…重症なんだろうか?


「―――って何だかんだで…惚れてるんだなお前に……」


俺の言葉はお前には届かないだろう。届かなくていい。
今更そんな事をお前に告げるつもりはないのだから。
ただお前が夢に堕ちた時に。ふとした時間の隙間に、そっと。



…そっと夢のかけらとして、お前の元へと零れてくれれば……



    END

 

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