もしも、と。もしも、俺が大きかったならば。
もしもこの手がもっと大きくて、その背がもっと高かったならば。
力がもっと強くて、視線が同じ位置で並ぶ事が出来たならば。
―――きっとこの身体で…護る事が出来たのに……
神様っているのかな?
いるのならば、お願いです。
俺を大きくしてください。
お前と同じ位置に立てるように。
お前と同じ目線になれるように。
俺を。俺を、おとなにして、ください。
何時も少しだけずれている時間が、どうすれば重なり合うのだろうとそんな事をずっと。ずっと、考えていた。
「…三蔵……」
護りたかったもの。護りたかったひと。ただひとりだけ、俺が。俺が護りたかったただひとつの。
「…ごめん、三蔵……」
綺麗な寝顔に、傷がいっぱい。さらさらの金色の髪も今は何処か。何処か切なくて。そして何よりも俺を見下ろす紫色の瞳が、今は閉じられていて。
「…ごめ…ん…三…蔵……」
もしも。もしも俺がもっと大きかったなら。もしも俺がもっと強かったなら。こんな風に。こんな風にお前を傷つけてしまうことはなかったのに。俺が、もしも。
もしももっと大きかったら、変わりに傷を受けることが出来た。
もしももっと強かったら、お前をこんな目に合わせはしなかった。
「…ごめんなさい……」
好き。大好き、誰よりも、好き。
何時も好きがいっぱいでどうしていいのか分からなくて。
分からないから、何時も。いつも口にしていた。
好きだって。三蔵が、好きだって。
いっぱいいっぱい言えば、きっとそのうち。
―――言葉が気持ちに追いつくかなって思った、から。
でも全然。全然追いつかないのは。
全然辿り着けないのは、どうして、かな?
「口の傷…俺のせいだよね……」
そっと口についているばんそうこうを取って、ぺろりと舐めた。こうしたからと言ってどうなる訳ではなかったけれど。けれども口の中に広がる血の味を感じることで、少しでも。少しでもお前の痛みを感じられたらと、そんな馬鹿なことを思った。
あの時、全てを開放し。本来の自分に戻った時。
お前すらも。お前すらも分からなくなって。
俺はただ。ただ殺したいと破壊したいとその想いだけで。
その想いだけで、俺はお前を。
―――神様、俺を大人にしてください。
俺は子供だから、物事を上手く考えられなくて。
俺は子供だから、全てを上手にこなすことが出来なくて。
…俺は子供だから…お前の隣に並べなくて。
何時も、護られている。何時も、護ってもらっている。
その腕が何時も。何時も俺を抱きしめて、そして。
そして俺をそっと包みこんでいてくれるから。
俺だって、お前を護りたいのに。
俺だって、お前の力になりたいのに。
何時も。何時も何時も、俺は。
「…三蔵…大好き……」
もっと大人だったらきっと。きっともっと気持ちを上手く伝えられた。好き以外の言葉ももっとちゃんと使えたのに。いっぱいいろんな言葉で、気持ちを伝えられるのに。
でも出てくる言葉はやっぱり、好きだけで。
その言葉以外、想い付かなくて。
本当はもっと。もっといっぱい伝えたいことはあるはずなのに。
綺麗な寝顔にひとつ、キスをした。
何時もお前がキスをしてくれたから。
俺がして欲しいと想った瞬間に、いつも。
何時も先回りして、キスしてくれた。
好きだよとかそんな言葉は言ってくれなかったけれど。
でもそれだけで。それだけで、俺は充分で。そして。
―――そしてとても、しあわせだった、から……
神様、俺を大人にしてください。
貰ってばっかで、何も返せない俺に。
返せる力を、ください。
こんなにもたくさん貰ったのに。
こんなにも暖かいものを。こんなにもしあわせを。
俺は三蔵から、たくさん貰ったのに。
何も何も、返してはいないから。だから、神様。
―――どうか願いを、叶えてください……
お前が目を開いた瞬間に…どうか…何時もの瞳でいてくれますようにと……
END