お前の唇に触れる指先が、ひどく。ひどく、甘い。
「花形、キス」
ねだるように俺の背中に手を廻して、そしてお前は目を閉じた。その我が侭に俺が断れない事を、分かっていて。分かっている、から。
「―――藤真……」
名前をそっと呼んで、頬に手を当てて。そのままひとつ唇にキスをする。そっと、キスをする。触れるだけの唇なのに、ひどく芯から熱くなった。
「…花…形……」
唇が離れてお前は俺の名を呼ぶ。甘えるように、呼ぶ。触れただけのキスだったのに、お前の唇は艶やかに紅い色だった。
「…もっと、いっぱいしろよ……」
細く白い指先が俺の髪に絡まる。驚くほど白いお前の指先。とてもこの指がコートの上で自由自在にボールを扱っているとは思えない、そんな指先。
「ああ、お前が望むだけ」
その指先の感触をひどく心地よく感じながら、俺は再びお前の唇を塞ぐ。お前の言葉通り、何度も何度も。
我が侭で、気まぐれで。
そしてそれが誰よりも似合う。
お前は人を従えてこそ。
お前は上に立ってこそ。
何よりも綺麗に咲く、紅い華。
触れては離れ。そしてまた触れて。
「…もっと……」
互いの唇が濡れるまで。紅く濡れるまで。
「…もっと…いっぱい……」
濡れて、そして。そして吐息を奪うまで。
「…お前のキスが、いい……」
何時しか絡み付く両腕の力が強くなって、ぎゅっと俺の背中に抱きついていた。瞼の下から覗く瞳は、微かに潤んでいる。それが俺を誘うかのように。
「誰のキスよりも、お前がいい」
くすくすと微笑いながら言うたびに、お前の甘い吐息が耳元をくすぐる。それが無意識に俺を誘惑し、意識的に俺を溺れさせようとしている。
「俺もだ、藤真」
そして俺は、それを拒む術を。それを拒む理由も、何もなかった。
見かけよりもずっと華奢なその身体を横たえさせ、衣服を脱がした。白い肌が誘うように俺の前に曝け出される。その肌に俺は吸い付くように、指を這わした。
「…あっ……」
甘い、息。甘い、吐息。俺を狂わせ、そして誘う息。蕩けるほどに甘く、脳みそを溶かすほどに。
「…あっ…はぁっ……」
ひんやりと冷たい肌が、指先が触れるたびに熱を灯してくる。この指がその熱を煽っていると言うことが、何よりも俺を悦ばせた。この指先が、お前の身体に熱を灯していると言うことが。
「…あぁっ…花形っ…はぁっ……」
とがった胸の果実を指で摘みながら、その先端部分に舌を這わした。ちろちろとしゃぶるように舐めれば腕の中の身体がぴくんぴくんっと跳ねる。それが何よりも。何よりも愛しかった。
「…あぁんっ…はふっ……」
何度も胸を攻めたてれば耐えきれずにお前の指が、自らの口許へと運ばれる。そのまま指先を口に含んで、必死にお前は押し寄せる快楽から耐えようとする。
「…くふっ…んっ…はふっ……」
けれどもそれすらも。それすらもお前の姿をより一層淫らに見せるだけだった。口許から飲みきれない唾液がお前の指を濡らし、そのまま顎へと伝う。その濡れた筋が、ひどくお前を魅惑的に見せるから。
「藤真」
「…花…形……」
名前を呼ばれて、やっと。やっとお前は含んでいた指先を口から外した。俺はその指先を自らの指で捕らえると、そのままお前の入り口に指をなぞらせた。
「やっ!」
他人に触れられるのと自分で触れるのでは訳が違う。お前は首を左右に振って、拒否をした。けれども俺はそのままお前の手を取ると、お前の指を奥へと埋めてゆく。
「…やぁっ…んっ…ダメ…っ…はっ…」
言葉では拒否しながらも俺が添えていた手を離しても、お前の指はソコから引き抜かれることはなかった。くちゃくちゃと音を立てながら、お前は自らの指で中を掻き乱す。その間にも俺は震えながら立ち上がったお前自身を指で扱いた。
「…ふぁっ…あぁ…もぉ…あぁっ…ん……」
自らの弱い個所を同時に攻められ、耐え切れずにお前は喘ぐ。その声は俺を誘い、俺を狂わせる。熱く甘い吐息が、俺を淫らに誘惑する。
「…あんっ!」
後ろを弄っていたお前の指を強引に引き抜くと、そのまま俺はお前の細い腰を掴んだ。そして熱く硬く滾った自身をお前の入り口に当てる。その瞬間ぴくりっと身体が跳ねるのはお前の何時もの癖だった。
「―――いいか?藤真」
その問いにお前はこくりと頷いた。唇から紅い舌を、覗かせながら。
永遠に奪えるものならば。
お前の唇も、お前の身体も。
お前の心も、お前の魂も。
全部、全部、奪いたい。
けれども俺はお前からは、奪われるばかりだ。
身も心も、全て。
全てお前という存在に。
その存在に奪われている。
その身体を貫けば、淫らな内壁が俺自身をきつく締め付けた。少しの刺激も逃さないようにと、きつく俺を。
「…ああ…ああんっ…はぁ……」
その抵抗を引き裂くように、俺は奥へ、奥へと自身を進めてゆく。熱く蕩けそうなお前の中を、限界まで貫く。
「…あぁぁっ…あぁんっ……」
そして注ぎ込む。熱い想いを、激しい想いを。お前の中へと、注ぎ込む。
――――何時しかこの想いすらも…お前に奪われてゆくのかもしれない……
「…花形…もっと……」
背中に腕を廻し、腰を押し付け。
「…もっと…しよ……」
俺を飲み込み、そして。
「…もっと…いっぱい……」
そして俺の全てを食らい尽くそうとでも言うように。
唇から零れる声がは甘く、そして激しく熱い。
その唇に指で触れれば。触れれば痺れるような。
――――痺れるような痛みが、指先に広がった。