刃の上で、愛し合う。


何時も張り詰めた糸の上にふたりはいた。
ぴんと張り詰めた一本の糸。
その上に、俺達はいた。

だから糸が切れた瞬間、落ちた先は刃の上。


愛しているから、どうしても手に入れたかった。
「…花形……」
好きだったから、俺だけのものにしたかった。
「…はな…がた……」
誰にも渡したくなくて、誰のものにもしたくなくて。だから。
「…好きだ…花形……」
だからこうして手に入れて、そして俺だけのものに。

手を伸ばして、お前に触れる。その柔らかい頬に、柔らかい髪に。


「…藤真……」
泣きながら好きだと言うお前の身体を、俺はそっと抱きしめた。見掛けよりもずっとずっと細い肩を。
「…藤真…ごめんな……」
お前が好きだよ。誰よりも愛している。でも一緒にはいられないんだ。ずっとこのまま一緒にいる事は出来ないんだ。
「…ごめんな…藤真……」
俺の言葉にお前はいやいやと首を振って。そして背中に抱きついてきた腕に力を込めた。
―――離したくないと、そう無言で告げているようで。
そんなお前が哀しくてそして綺麗で。綺麗だから俺は、その唇に口付けをした。

こうして口付けだけをしていられれば、何も望みはしないのに。


一緒にいる事が、俺達の望みだった。
ふたりでずっとバスケを続けて。
そして一緒に優勝をする事。
一緒に夢を追い掛けること。それが。
それが俺達にとっての全てだった。
一緒に夢を見て、一緒に生きて。
ずっと。ずっとそんな日々が続いてゆくと。
ずっと俺達は一緒にいられると。
そう信じていた。そう信じられた。
――― 一緒に夢を追い掛けてゆけると……
ずっと、ずっと、俺達は信じていた。


「お前が隣にいない夢なんて…俺はいらないっ!」


殺されてゆく。俺達の夢が、殺されてゆく。
優しく綺麗な夢が、屍になって。
屍になって降り積もる。そこには何もない。
ただ屍骸になった夢のかけらが。
夢のかけらが降り積もってゆくだけ。
そうして俺達の時間が終わる。
夢を、夢のまま見られていた優しい時間が。


『もう二度とバスケは出来ない…残念だが…』


バスケットが出来ない悔しさよりも、俺は。俺はお前を独りにしてしまうほうが怖かった。お前と夢を追い掛けると言う約束を護れない方が、ずっとずっと俺にとっては恐怖だった。
ふたりで、約束したのに。指を絡めて約束したのに。
―――ふたりで何時か、頂点に立とうと。
なのに俺は。俺はお前を独り置いて、その場に立ち止まる。夢に向かって進むお前を独り置いてこの場に取り残される。

……ごめんな、藤真……


「お前はずっと、このまま。このまま真っ直ぐに前だけを進んでくれ」
「…花形…いやだっお前がいないなら俺はっ……」
「前だけ見てくれ、藤真。それが俺の願いだ」

背中の綺麗な翼を。真っ白な翼を。
俺が手負う事は出来ないから。
その綺麗な翼でお前はずっと。
ずっと空を飛び続けてほしいから。
誰よりも前だけを見つめて。
誰よりも真っ直ぐに。
お前にはあの蒼い空を。

「前だけを、見てくれ…藤真……」


片翼では、空は飛べないよ花形。
片一方しか羽がなかったら空を飛べないよ。
だって俺のもう一つの羽はお前の背中に生えているんだから。
お前がいて初めて俺は空を飛べるのに。
お前の背中に生えているもう一方の羽が。
ねえ花形、俺はもう。

―――空を、飛べないよ……


「…花形……」
好きなんだ、お前が。誰よりもお前だけが。
「俺はバスケをするお前を見ているのが、好きなんだ。だから藤真…」
他の誰でもダメなんだ。お前でなきゃ。お前でないとダメなんだ。
「だから藤真、さようなら」
お前以外の人間なんて、ダメなんだ。

「さようなら、藤真」

キスを、した。さよならと言うお前の唇に。
その唇に俺はキスをした。
そんな事俺が認めない。俺が絶対に認めない。
俺がお前以外ダメだと言っているのに、そんな事認めはしない。


「さよならなんて、俺が認めない。俺の傍にいるのはお前だけだ」


激しい瞳。夏の日差しのような瞳。
その瞳に恋焦がれた。
その瞳に全てを奪われた。
―――全てを、奪われた……

「…夢なんて…いい…お前がいない現実の方が…俺は嫌だ…」
「…藤真……」
「イヤだ、イヤだ、お前がいないのはイヤだ」
「………」
「…イヤだ…花形……」
「…いいのか?…」

「夢をともに追えなくても、いいのか?」

俺の言葉にお前は、こくりと頷いた。そして。そしてお前はもう一度俺に噛みつくように口付けてきた。その唇を受け止めながら、腕の力を込めてお前を抱きしめる。
―――その瞬間に俺達の立っていた細い糸は、切れた。


落ちた先は刃の上。
互いの身体を傷つけるだけの無数の刃。
けれども。けれどもそれは俺達が望んだ事。
傷つけ合っても、傍にいたいと。
一緒にいたいと望んだ俺達が。
俺達が、辿りついた場所。


そして。
そして俺達は。

―――刃の上で、愛し合う。

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