指を、絡めて。


たったひとつだけ、約束した事。
指を絡めて、俺達が約束した事。

『ふたりで、一番になろう』

何時か、ふたりで。
ふたりで、一番になろう。
他の誰でもない、他の相手じゃだめなんだ。
俺とお前でなければ。
俺の隣にお前がいて。
お前の隣に俺がいて。
そして、一番になる事。

それが俺達の、ただひとつの約束だから。


―――同じ目の高さで、見つめあいたい。
「花形」
本当はこうやってお前を見上げるのではなくて。同じ高さで。同じ高さで、見つめあいたい。お前と視線を合わせていたい。
「何?藤真」
何時もこうしてお前を見上げていた。その分だけどうしても。どうしてもお前が、遠い。それは物凄く些細な事なのに、俺にとってはひどく遠く感じるものだった。
「いや、何でもない」
お前と同じ高さで物を見たい。お前と同じ位置に立ちたい。お前が見ている視界を俺も共有したい。それは、我が侭な望みなのだろうか?
「変な奴だな」
くすりとひとつ微笑って、くしゃりと俺の髪を撫でる指先が。その見掛けよりもずっと繊細な指先が…俺は何よりも大好きだ。大きくて広くて、そして何よりも優しい手。言葉にしなくてもその手が触れるだけで、お前の優しさを感じる事が出来るから。
「いいだろう、別に」
上目づかいに見上げて、少しだけ拗ねてみる。自分でも子供っぽいなぁと思う。実際俺はお前よりもずっと子供だ。我が侭で、我慢の出来ない子供。
―――ちょっとだけ、自己嫌悪に陥ってしまう……。
「まあ拗ねている、お前も可愛いけれどな」
またお前は微笑う。柔らかく、微笑う。思えば俺はお前が怒った顔など一度も見た事がない。何時も穏やかに微笑って俺を包み込んでくれている。俺がどんなに我が侭を言っても、俺がどんなにダダをこねても、お前はしょうがないなと言って全てを許してくれる。
「で、お姫様。どうしたら機嫌を直してくれるんだい?」
この視線の差が俺達の子供と大人の差だとしたら…俺は一生お前に勝てない。
「別に怒ってないよ」
「なら笑って、藤真」
大きな手がそっと俺の頬を包み込むと、優しい瞳が覗きこんで来る。眼鏡の奥にあるその瞳の優しさに気づいている奴はどれくらいいるのだろうか?
「…笑ってるぞ……」
「笑ってないよ」
―――気づかなくて、いい。俺だけが知っていればいい。お前のその優しい瞳は、俺だけが知っていればいいのだから。
「笑ってるって!」
「くすくす、お前はすぐムキになるな。そこがどうしようもない程に可愛い」
「もう、お前は―――」
俺の言葉は最期まで声にならなかった。お前の唇が、その言葉を閉じ込めてしまったから…。


一番に、なろう。
それがふたりの夢だった。
一番になる事。
ふたりで『勝利』をつかむ事。
それが。
それが何よりも大事だから。

何が欠けても駄目だった。
お前が欠けることも、俺が欠けることも。
ともに在る事が何よりも必要で。
ふたりで目指す事が何よりも大切だった。

繋がっている指先の相手が、他の人間では駄目なんだ。


「…花形……」
ずっと、一緒にいよう。
「何?藤真」
ずっと一緒にいてくれ。
「次こそ」
俺の前にいるのも、俺の後ろにいるのも。
「――ああ……」
お前でないと、駄目なんだ。
「次こそ、勝とう」

―――他の人間では、駄目なんだ……


「お前みたいな我が侭な奴は…俺くらいでないと、ついてゆけないだろう?」

その言葉に、俺は。
俺は思いっきりお前を叩いて。
そして。
そして瞳を合わせて、微笑った。
――声を上げて、笑った。


…思いっきり、声を上げて……


藤真、お前を初めて見た時。
俺は『綺麗』と言う言葉の意味を初めて理解した。
ゴールだけを見つめている真っ直ぐな視線。
強く揺るぎ無いその視線に、俺は。
俺は確かに夢を見たんだ。

その先にあるものを、ともに見たいと。

お前とでなければ、意味がない。
勝利を手にすることも、ボールを追いける事も。
お前とともに誓って、そして初めて。
初めて俺にとって、何よりも大切なものになるのだから。


「花形、ずっと一緒に」
お前が俺を追い掛ける。俺がお前を見上げる。
「ああ、藤真」
その距離が同じだったならば、俺達は。
「ずっと一緒にいよう、藤真」
俺達は、本当は同じ場所に立っているのかもしれない。


見ているものの高さは違っても。
絡み合う視線が、見つめた先が。
その先に映るものが、同じだったならば。

―――俺達の見つめているものが、同じだったならば……。


指を、絡めた。
もう一度指を絡めた。
互いが互いであるための。
互いがともにあるための。
ただひとつの約束を。

そっと俺達は指を、絡めた。

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