KISS


――――初めの一歩は、甘いキスから。

木々の隙間から零れる木漏れ日が、ひどく眩しくて。花形は思わず、目を細めてしまう。
「どうした?」
そんな花形に気付いて、隣を歩く藤真が尋ねてきた。上目遣いに花形を見上げながら。
「いや、太陽が眩しくて」
20cm近く離れた身長のせいで、自然と花形は藤真を見下ろす恰好になってしまう。いい加減慣れたものの、やっぱり慢性的な首のこりはこのせいだろう。
「…ふーん、そうか……」
藤真はそれだけを言うと、考え込むように黙り込んでしまった。その横顔を何気に見つめながら、花形は藤真の歩調に合わせながらわざとゆっくりと歩いた。
―――藤真は凄く、綺麗だ。それは男に使う言葉では無いかもしれないけれども。でも他に花形は、藤真を形容する言葉を思い付く事は出来なくて。太陽に透けると金色に見える色素の薄い髪も。長い睫毛も、白い肌も。全部、綺麗だと思う。
「やっぱ、この差かな?」
「……えっ?………」
不意に呟いた藤真の言葉に、花形ははっと我に返る。藤真に見惚れていたなんて流石に言えなくて…。花形はポーカーフェースを作ると、藤真を見返した。
「いや、やっぱりこの差だなーと思って」
けれどもそんな花形に、藤真は別段気にした風も無く。思いっきし背伸びをすると、再び花形を見上げた。
「この差?」
「そう、この差」
藤真が自分たちの身長の事を言っているのに気付いて、花形は苦笑を隠しきれない。藤真は昔からひどく、自分の身長を気にしていたから。やっぱりバスケをやっている者ならば、それは当然だろうけれども。でも。
「俺は、全然眩しくなかった」
唇を尖らせて拗ねた仕種で、藤真は言った。相変わらず瞳は、花形を見上げながら。その瞳が、花形のひどくお気に入りだった。自分を上目遣いに見つめてくるその、大きな瞳が。だから。
「…何だ…それは……」
「お前が影になってて、眩しくなかった」
本音を言えば、これ以上藤真に大きくなって欲しくない。本人には、悪いが。何時も藤真には、自分を見上げいて欲しいから。
「それは良かったじゃないか。お前は眩しくなかったんだから」
「良くないっ」
軽く花形の腕をつねると、藤真は不貞腐れたようにふいっと視線を花形から外してしまう。そんな藤真の仕種に、花形はつい破顔してしまう。本人は言ったらきっと怒るだろうが、こんな藤真が花形にとっては堪らなく可愛いくて。
「どうして?」
そっぽを向いてしまった藤真の前に廻ると、花形は身体をかがめて尋ねた。ちゃんと、藤真の視線に真っ直ぐに合わせながら。
「……………」
けれども藤真は答えずに花形を睨み付ける。さっきよりも不機嫌になってしまったようで、益々むっとした表情を藤真は浮かべた。
「黙ってたら、分からない」
宥めるような優しい声で、花形は尋ねるけれど。けれども藤真の機嫌は直らなかった。花形の前をずかずかと歩くと、一度だけ振り返って。
「お前なんか、嫌いだっ」
あっかんべーをして、すたすたと歩き去ってしまった。

――――何時も、思っている。どうしたら君が、微笑ってくれるかを。

「俺って、ガキだと思うか?」
机の上にぺたりと顔を乗せながら、藤真は自分を見つめる一志に尋ねる。一志は乱れた藤真の前髪を整えてやりながら、藤真にしか見せる事の無い優しい笑みを浮かべて。
「…そうだな…やたら甘い物ばっかり好物だし……」
一志の台詞に藤真は、否定が出来ない。事実自分はとてつも無い甘党だったりするのだ。
更に好物はお子様メニューばかりだし。
「…我が儘ばかり、言うし……自分勝手だし………」
「お前、俺の事嫌いなのか?」
図星を指されて気に入らないのか、藤真はがばっと起き上がると、一志の鼻を軽く摘んで抗議の姿勢を示す。けれども一志はそんな藤真を宥めるように、頭を撫でてやると。
「いいや、好きだよ」
ひどく優しく言ってやる。けれどもそれは藤真にとって、相反する行為としか思えなくて。
「だったら何で俺の悪口ばっか、言うんだよ」
「言っていないだろう?」
「言ってるっ!」
「言っていない。本当の事を言っただけだ」
それ以上言い返せないのが悔しくて、藤真はむすっと拗ねてしまう。どうしても藤真は、一志だけには勝てなかった。どんな奴が来ても、自分は口では勝てる自信があるのに。幼なじみである一志だけには、どうしても。
「でもそこが、藤真のいい所でも有るんだから」
やっぱり長年一緒に、居るからだろうか?きっとそれで手の内をすっかり読まれてしまっているのだろう。でも勝気な藤真の性格からして、どんな理由で有ろうとも『負ける』のを許せる筈が無くて。
「何だよ、それ」
「藤真は何時も、自分に正直だって事だよ」
そして一志はそれを、知り尽くしているから。何時も必ず最後には、自分の方から引いてやる。藤真の機嫌を損なわないように、と。
「…ち、上手い奴………」
そしてそんな一志の心境を、藤真は知っているから。だから、絶対に藤真は一志には勝てないのだ。

――――何時も、思っている。どうしたら君が、哀しまないかを。


風が一つ吹いて、藤真の髪を揺らす。その髪をぼんやりと見つめながら花形は、ノートのページを一つ捲った。
「……なあ、花形………」
不意に声を掛けられて花形は視線を少し下へと降ろす。座っていても、やっぱり身長差は余り変わらない訳で。
「何だ?藤真」
「これ、分からない」
藤真は自分の前に有る問題集の問題に指を指して、伺うように花形に尋ねてきた。それはこの間授業でやった、微分の問題だった。
「―――これは、この公式を使って………」
藤真はとても成績が優秀だったが、何故か数学だけは苦手だった。数学さえなければ、トップも狙える程なのに。
「ふーん、流石だなー花形は」
花形の説明一つ一つに頷きながら、藤真はひどく関心したように言った。藤真にとって数学が出来る人間は、誰でも尊敬の対象になるらしい。
「余りお前に言われても、嬉しくない」
自分が特に勉強が出来ないと言う訳では無いが、いかんせん藤真の方が学力が上なのだ。御陰で藤真にそう言われても、素直に喜べないものがある。
「何だよ、それ。人の好意は素直に喜ぶもんだぞ」
左手に持っていたシャープペンシルで軽く花形の頭をつつくと、少しだけ拗ねた表情を見せる。その尖らせた唇が、ひどく可愛かった。
「でもお前の方が、頭いいだろうが」
「数学は、花形の方が上だ」
カーテンがぱたぱたと揺れて、風が再び室内に流れ込んでくる。そのせいで再び藤真の髪が、揺れた。
「うー風強いよーっ。窓閉めろ、花形」
「はい、はい」
軽く花形は微笑うと藤真に言われたように、窓を閉める為に立ち上がる。他に誰も居ないクラブハウスに、窓を閉める音だけが響いた。
「……部活、してーなー………」
そんな花形の一連の動作を見届けながら、藤真はぼそりと呟いた。そんな藤真の言葉に、花形は苦笑を隠しきれない。藤真は本当に、バスケが好きだ。コートの上のあの楽しそうな表情は、他のどんなものを以てしても決して叶わない。決して、叶わない。
「しょうがねーだろ?俺ら学生に試験は付きもんだ」
「分かってるよ、ただ言っただけ」
あやすように花形に言われて、少しだけ藤真は考え込んだ表情をする。そしてぼそりとそれだけを言うと、再び藤真は自らの思考に沈んでしまった。
花形はゆっくりと藤真の向かい側の椅子に座ると、何をする訳でも無く考え込んでいる藤真を静かに見つめた。そう言えば最近、藤真はよく自分の前で考え込んでいる事が多い。
何を考えているのか、なんて。花形には聞く事は出来なかったけれども。でも、多分。
「……花形………」
「何だ?藤真」
多分、彼は自分の事を詮索されるのは嫌いだろうから。だから、花形は聞かない。藤真が自分から、言ってくれるまでは。
「いや、お前は何時も俺の我が儘を聞いてくれるなーと、思って」
「我が儘は藤真の専売特許だろう?」
「……もう少し、言い方ってモンが…あるだろーが………」
「じゃあ、我が儘は藤真の特徴とか?」
「益々、悪いわっ」
遂に拗ねてしまった藤真に、花形は笑みを隠しきれなかった。彼はポーカーフェースとは無縁だ。何時も自分の思った事を思ったまんま、表情に見せてくるから。
「何、笑ってんだよっ」
「笑ってないよ」
「嘘だ、笑った。お前まで、俺をバカにするのか?」
「―――お前、まで?」
藤真の言葉にふと、花形は止まる。そして藤真の顔を覗き込むようにして、花形は尋ねた。
「そうだよ、昨日一志にも言われた。俺は我が儘で自分勝手だって」
「…長谷川が?……」
花形の問いに藤真はこくりと頷いた。でもその顔は怒っている風では無くて。いや、藤真が彼の事を怒る筈が無い。藤真にとって、彼は『大切な幼なじみ』なのだから。
そう、幼なじみ。誰よりも一番、藤真の近くに居る人間。
「でもあいつの事だから、そんな所が藤真らしいとでも言ったんだろう」
多分藤真自身よりも彼の事を理解していて、そして藤真には無くてはならない人間。藤真にとって、必要な人間。
「外れ。それはお前が自分に正直だからって、言ったんだよ」
藤真の口から彼の名前が漏れる度に、思う。藤真にって『一志』の存在は、どれだけの位置を占めているのだろうかと。そして、自分は藤真にとってどれだけの人間なのかと。
「お前もそれくらい、言えよ」
少しでも自分は、彼に必要とされているのだろうか、と。
「生憎、俺は長谷川じゃないから、そんな気の利いた事は言えない」
みっともないと、思う。こんな嫉妬は。でも、藤真が余りにも無防備に彼の名前を言うから。だから。
「言って欲しければ、長谷川に頼むんだな」
だから何時も、こんな事を考えてしまう。情け無いと、分かっていても。
「お前、怒ってる?」
不意に視線を外した花形に、藤真は不思議そうに尋ねてくる。本当に藤真は何も、分かってはいない。まあ、無理も無いかもしれないけれど。でも時々、無性に苛立つ事がある。例えば、今みたいに。
「怒っている」
「どうして?」
藤真は、心底不思議な表情で見返してくる。本当に何一つ分かってはいない。藤真は、自分以外の事に関心なんて持たないから。だから自分の気持ちなんて、分かる筈がない。
「…嘘だよ、怒っていない……」
諦めたように溜め息を一つ付いて、花形はそう答えた。比べられるのが嫌な訳じゃない。
ただ、藤真が一志と同じ事を自分に求めるのが、嫌なだけだ。
それはまるで藤真にとって、一志以外の人間は必要無いと言っているようで。彼以外の人間は要らないと言っているようで。
「嘘だ、目が未だ怒ってる」
藤真は花形の眼鏡を外すと、彼の瞳を覗き込む。大きな瞳が、小さな嘘すら見逃さないとでも言うように。
「怒っていないよ。だからそれ、返してくれ」
「嫌だよ。お前が本当の事言うまでは、返さない」
藤真は後ろに眼鏡を隠してしまうと、まるで悪戯っ子のような瞳で花形を見上げた。あどけないとすら思える藤真の表情は、こんな時にはひどく子供になる。
「怒ってないから、返してくれ」
やれやれと言うように花形は立ち上がると、藤真の後ろに廻る。けれども寸での所で藤真はかわすと、素早く立ち上がってその場から擦り抜けて。
「帰りマックで奢ってくれたら、返してやる」
「…お前なぁ……」
藤真の台詞に思わず溜め息を洩らしてしまう。何時も藤真は自分に奢らせているのに、何を今更である。そう考えてみると、随分と自分は藤真を甘やかしているような気もする。
「分かった、奢ってやる。お前の好きな物全部」
でも藤真は、物凄く物を美味しそうに食べるから。ついその嬉しそうな顔見たさに、奢ってしまうのだ。情け無いと、分かっていても。
「だから、返してくれ」
本当に困った顔を見せてくる花形に藤真は楽しそうに笑うと、ゆっくりと彼に近づいた。
そして目の前に立つと、差し出された花形の手の上に自分のそれを乗せた。そして。
「お前の手って、大きいな」
藤真は手を広げると、花形のそれに重ねた。男とは思えない程指の細い藤真のそれは、花形よりも一廻りも二廻りも小さくて。握り締めたら、折れてしまいそうな程。
「こんなにも、違う。羨ましいな」
触れ合った先から、体温が伝わる。それが不覚にも花形の鼓動を、跳ねさせる。このまま握りしめて自分に引き寄せたら、藤真はどんな顔をするだろう?
「…眼鏡、返せ……」
今更純情も何も無いくせに、何故か藤真の前だとまるで初恋のような感情を呼び起こさせる。遠い昔に置いてきた、懐かしい想いを。
「分かった」
にっこりと微笑って藤真は触れていた手を離すと、眼鏡を返す為にもう一方の手を差し出そうと前に出す。けれども、その手は寸前の所で再び後ろに隠されてしまった。
「藤真っ!」
花形の言葉に、藤真はべぇっと舌を出して拒否する。そんな藤真から眼鏡を奪い返そうと、花形は後ろに廻した藤真の手を強引に掴んだ。―――けれども。
「痛いっ、花形」
「…あ…ごめん……」
そう藤真に言われてつい、花形は手の力を緩めてしまう。そこら辺が、情け無い。でも藤真の手首はひどく、細くて。それは花形が驚く程だったから。
「やっぱ、花形だ」
「……え?………」
でもそんな花形に、藤真は予想外の反応を寄越す。ひどく嬉しそうに微笑って、花形を見上げる。そして藤真は、掴まれた腕を花形の目の前に差し出した。
「こんな所、花形らしい」
「……藤真………」
何となくタイミングが掴めなくて、花形は藤真から手を離せなかった。沈黙が二人の上を漂う。ひどく、妙な雰囲気が二人を包み込んだ。
「…花形、手……」
「―――あ、ごめん」
そんな沈黙に先に耐えられなくなったのは、意外にも藤真の方だった。少しだけ困ったような顔で、花形にそう告げる。そんな藤真の言葉に花形ははっとして、咄嗟に手を離した。
「―――花形」
藤真がくすっと一つ微笑って、手招きをした。花形はそれに従うように身をかがめて、視線を藤真と同じ位置にまで合わせた。
「お前って良く見ると、すげー綺麗な顔してるんだな」
「藤真に言われても、嬉しくない」
「何だよ、それ。さっきから、俺の好意を無にしやがって」
少しだけ拗ねた顔で、藤真は言ってくる。けれどもそんな藤真の方が、何倍も綺麗なのは廻りが百も承知だ。いいや、少なくとも花形は知らない。藤真以上に綺麗だと、思える人間を。
「しょうがねーだろ。藤真の方が綺麗なんだから」
男なんかにたやすく言う言葉では無いかもしれないが、それが藤真なら当たり前になってしまう。いや、当たり前なのだ。藤真にとって、他人に褒められる事は。
「本当に、そう思っている?」
くすくすと藤真は微笑いながら、持っていた眼鏡を花形に掛けてやる。悪戯な瞳を浮かべながら。
「思わない奴なんて、いねーよ」
やっと返された眼鏡にほっとしながら、花形はかがめていた姿勢を元に戻した。けれどもそんな花形を再び藤真は、彼の服をぎゅっと掴んで自分に引き寄せた。
「―――藤真?」
「お前もそう、思っている?」
真っ直ぐな、瞳で。まるで誘うような口調で。藤真はそう、花形に尋ねるから。だから。
「……思ってる………」
だから、止められなかった。花形はそう一言告げると、自分の衣服を掴んでいた藤真の手に自らのそれを重ねた。
「……花形?………」
藤真の大きな瞳が、驚きに見開かれる。けれども花形はそんな藤真に構わずに、そのまま強引に彼を引き寄せて。そして。
「―――キス、させて。藤真」
腕の中にすっぽりと包み込んでしまうと、花形は藤真の顔を上げさせないように髪に指を掛けながら言った。―――今の表情を、見られないようにと。
「……何で?………」
藤真の返答は予想外だった。冗談で済ませようとする訳でも無く、怒る訳でも無く、藤真は。本当に不思議そうに、藤真は花形に尋ねるのだ。だからそれは、逆に花形を困惑させる。冗談で済ませようとするならば、それに付き合えばいい。怒ったなら、ひたすらジョークだよと謝ればいい。それなのに、藤真は……。
「したいから」
―――好きだとは、言えなかった。言ってしまったら、何も彼も終わってしまう気がして。そして、多分拘りが消えていないから。そう、拘り。藤真の傍に必ず居る、空気のよような彼への。一志への、拘りが。
「…花形、手…邪魔………」
けれども藤真は花形の問いには答えずに、髪に廻された指を外させると、ゆっくりと花形を見上げた。その瞳は、やっぱり真っ直ぐで。けれども、さっきとは微妙に違って見えるのは…花形の、気のせいだろうか?
「目、閉じろよ」
「……え?………」
「キス、出来ないだろう?」
逆に驚愕の表情を浮かべる花形を余所に、藤真は彼の頬に自らの手を掛けた。そして再び目を閉じるように促す。花形は戸惑いながらも、藤真に従って目を閉じた。
「―――お前は、何時も肝心な事を言わない」
「……え?―――」
藤真に対する疑問符は、途中で途切れてしまった。藤真が花形の言葉の続きを、唇で奪い取ったので……。

唇にされるとは、思わなかった。もししてくれたとしても、頬にして貰えれば上出来だと思ったくらいなのに。なのに。
「何、ボケた面してんだよ」
唇が離れてもしばらく茫然と立ち尽くしていた花形に、業を煮やして藤真は少し怒った風に言って来た。それでやっと、花形は自分の立場に気付く。
「…あ、ごめん………」
ファーストキスはレモンの味とは良く言ったものだ。本当に藤真とのキスは、その言葉通りだった。ただし、互いにファーストキスでは無いのだが。
本当に甘くて、少し酸っぱいような。何とも言えないもので。何だか変な気分に、なってしまう。
「何、照れてるんだよ。お前がしたいて、言ったんだぞ」
情け無い事に耳までも真っ赤になってしまっているのが分かる。中学生じゃあるまいに…花形はつい無意識に指先を唇に充てた。
「…いや…でもまさか…」
「まさかなんだよっ?!」
「…口にしてくれるとは…思わなかった―――っ!」
花形の言葉は最後まで言葉に出来なかった。藤真の鉄拳が思いっきり花形の頭を叩いたので。その思いがけない痛みを感じながら、藤真の表情を見ると。
――――ひどく泣きそうな顔を、していた……
「花形のバカっ!!」
もう一度頭を叩かれて、そしてぷいっと後ろを向いてしまう藤真。少しだけ肩を震わせながら、見え隠れする頬が微かに赤いのは。それは…もしかして……。
「…藤真……」
そっと手を伸ばして後ろから抱きしめた。一瞬だけぴくりと身体が震えたが、それ以上の抵抗はされなかった。ただ腕の中の身体がひどく硬くなっているのが感じられるだけで。
「…その…えっと……」
「えっとじゃ分かんねーよ、バカ」
「…ごめん……」
「何に対してごめんなんだ?もし…キスに関してごめんなら…俺絶対に許さねーぞ……」
「―――違う…それに対しては違う」
「じゃあ何だよ」
「…お前の…」

「…お前の気持ちに気が付かなくて…ごめんな……」

その言葉に藤真はひどく拗ねたような顔をして。そして次の瞬間何時もの笑顔に戻った。いつもの前だけを見ている自身満々の笑顔に。
「遅せーよ、バカ」
―――そう言って、藤真はもう一度花形にキスをした。


「…でも、許してやるよ…お前からキス…してくれたらな……」


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