SELFISH


「お前って本当、無表情だな」
藤真はくすくすと楽しそうに微笑うと、自分の頭上にある綺麗な顔を見つめた。
「何考えているんだか全然分からないし、行動は突飛だし」
細く白い腕がその黒髪に触れる。指を絡ませて細いその極上の感触を藤真は楽しんだ。
「でもイイ男だから許してやる」
「…それは、どうも」
その言葉を聴いて、藤真はまた微笑った。そうして自分から盗むように口付けた。

「流川、あれが翔陽の藤真サンだよ。すげー美人だろ?」
綺麗な栗色の髪を靡かせながら、まるで手本のようなシュートを打つ。その白い指先はバスケットプレーヤーとは思えない程、細くて。
「勿体無いよなーあんなに綺麗なのに男なんてさー。世の中って理不尽だと思わん?」
そしてシュートを決めた、瞬間。彼はまるで華のように微笑った。それが妙に。妙に、印象に残って。
「…確かに、理不尽だ……」
それだけを。それだけをずっと、覚えている。

「…んっ…」
薄く開いた唇に、流川は自らの舌を侵入させる。積極的に迎え入れる藤真のそれを絡め取る。根元をきつく吸い上げると絶え切れないのか、藤真の身体がぴくりと震えた。
「…ふぅ…ん……」
飲み切れなくなった唾液が藤真の喉元を伝う。その感触が嫌なのか、藤真は首を左右に振った。けれども流川はそれを許さない。藤真の顎を捕らえるとより深く口内を求めた。
「…あっ…」
やっと唇が開放れた頃には、藤真はもう一人では立っていられなかった。そのまま流川の胸に崩れ落ちる。その細い身体を抱きとめると、軽々と流川は抱き上げた。
「…流川……」
先程の口付けで潤んだ瞳が流川を見上げてくる。多分何人もの男に見せたであろう、媚びるような夜の瞳。
「…お前って、本当にイイ男だな…」
そう言ってまた藤真は微笑う。子悪魔の笑みで。そしてそのまま流川の首筋に腕を絡める。
まじかにあるその綺麗な顔に、藤真は自ら口付けて。
「最高に俺好みの顔を、している」
最高の賛辞を彼に与えた。そんな藤真の肢体を流川はそっとベッドの上に降ろす。そしてそのまま覆い被さるように彼の上に乗って、奪うように口付けた。
「…顔、だけか?」
唇を離れて零した流川の言葉に。藤真は軽く首を横に振って。
「…ううん…全部、好みだ…」
流川の背中に腕を廻す。それが。それが、合図だった。

「…はっ…」
胸の突起を口に含まれて、藤真の身体がぴくりと反応する。その様子を楽しむかのように執拗に流川はソコを攻め立てた。
「…あぁ……」
白い歯がそこに立てられると、堪えきれずに藤真の口からは甘い吐息が零れ落ちる。それをひとつひとつ救い上げながら、流川はゆっくりと藤真の快楽を煽っていった。
「…あ…ぁぁ……」
多分何人もの男に見せたであろう、官能的な表情と声。そして、仕草。けれども構わなかった。構わない、今それが自分の前に暴かれているのであれば。
「…お前…上手い…な……」
途切れ途切れの声で藤真は告げる。快楽に潤んだ瞳を向けながら。夜に濡れた瞳を向けながら。
「あんた程じゃ、ない」
そう言ってそっと、流川は微笑った。口許だけだけど。確かに今、流川は微笑ったのだ。
…そう言えば…こいつの微笑った顔なんて初めて見た…と。
「…経験豊富なのは…お互い様だろう?……」
「……確かに…」
そう言ってまた、流川は微笑った。そして再び藤真の身体を手に入れてゆく。

「一志、あいつ誰?」
バスケットコートの中にいて一際目立つその存在に、藤真は好奇心いっぱいの瞳を向けながら一志に尋ねる。
「流川だよ、流川楓。例のスーパールーキーだよ。噂になってるだろ?」
「…へぇ、あいつが…。噂には聞いてたけど…凄くイイ男だ」
まるで少女のように無邪気に藤真は微笑った。好奇心いっぱいの瞳と、そして僅かばかりの別の感情を含ませながら。そして。
「…ちょっとヤバイ、かも……」
「何か言ったか?藤真」
「ううん、何でもない」
そしてあの時、直感した。‘こいつは、やばい’と。

「ああっ!」
深くまで流川を受けてれて、藤真の形良い眉が苦痛に歪む。けれどもそれは一瞬の事で、次の瞬間にはそれは快楽へと摩り替わっていた。
「…あっ…あぁ…ん…」
快楽に順応な肢体は、いとも簡単に流川のもたらす快楽へと堕ちてゆく。深く、深く、堕ちてゆく。
「…あぁ…あ……」
そして何もかも見えなくなった時、全てが弾け飛んだ……。

今まで‘本気’になった事など、一度も無かったから。
傷つく事もなかったし、傷つける事に何の抵抗もなかった。
でも。でも彼を見たとき…ヤバイと、本気で思った。
今までの自分の価値観も行動も全て変わってしまうと。でも、それでも。
…こうして、近づいて…しまった……

「…きっと、信じないだろうな」
流川は自分の腕の中で眠りに落ちた藤真を見つめながら、ぼそりと呟いた。そして、そっと。そっとその唇を塞いで。ひとこと、呟く。
「あんたが俺の初恋だなんて」

綺麗な栗色の髪と、その笑顔に。
瞳を盗まれていたなんて。
…全てを、奪われていたなんて……

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