…多分、君は。男を弄ぶ度に、綺麗になる。
「んー、多分俺ってモラルとかそう言うのに欠落しているんだよ」
綺麗な栗色の髪を掻き上げながら、藤真は何でもない事のように言った。実際、藤真にとってこんな事はどうでもいい事なのだろうが。
「だから、平気なの。誘われたら誰でもホイホイ付いていっちゃう」
羽織っただけのシャツから、白い肌が見え隠れする。スポーツマンには見えないほど、藤真の素肌は白かった。
「…ふん…あんたって本当に天性の男たらしなんだな」
「そうだよ、流川クン。だからこんなのに引っ掛かっちゃいけないよ」
くすくすと楽しそうに藤真は微笑うと、柔らかい流川の髪に指を絡めた。その髪はひどく細くて、藤真の指先をいとも簡単に擦り抜けていった。
「と、言っても…やっちゃった後じゃあ…遅いけどね……」
そう言ってまた微笑おうとする藤真を遮るように流川は彼を抱き寄せると、拒まない唇に口付けをした。
きっかけなんて、忘れた。
もうそんな事。そんな事どうでも良かった。
ただ惰性的に続く、イケナイ関係。
でも過ごす時間は、ひどく。
ひどく心地よかったから。だから。
だから、止められないのかもしれない。
「…あっ…流川……」
胸元の小さな果実を口に含まれて、藤真は耐え切れないように甘い声を洩らす。それを舌先で転がしてやると、たちまちそれはぴんっと張り詰めた。
「…あぁ…んっ……」
最後に軽く歯を立てられて、やっとそこから解放される。けれども次の瞬間。
藤真の唇は流川のそれによって、塞がれていたが。
「…ふぅ…んっ……」
もつれ合う舌の感触が、ひどく甘い。蕩け合う唾液の味も。全てが。全てが甘く、感じる。
「…はぁっ……」
唾液が一筋の線を引きながら、唇が離れてゆく。その間にも流川は器用に藤真の衣服を外して行った。
「…あっ…あぁ……」
指が、舌が。その全てが藤真の身体を余すことなく滑ってゆく。その感触に藤真は酔った。そう、酔わされている。酔わされている、この男に。この何よりも綺麗な男に。
「…あぁ…もっと……」
焦れたように愛撫をねだる藤真に、流川は全てを答えてやる。快楽に忠実な彼の身体は、正直にそれを求めてくるから。
「…もっと…して……」
「あんたは、淫乱だな」
快楽のせいで飲まれてゆく意識の中で、藤真は彼が微笑ったのを見たような気がした。
「―――ああっ!」
飲まれそうになった意識が貫かれた痛みのせいで、一瞬覚醒する。けれども次の瞬間にはもっと、激しい快楽が藤真の意識を苛んだ。
「…ああっ…あぁ……」
やっと与えられた異物を逃すまいと、藤真の最奥はきつく流川自身を締めつける。けれども流川はその肉の収縮から逆らうように一気に引き抜くと、また深く突き入れた。その度に藤真の喉が綺麗に反り返る。
「…ぁぁ…やぁ…もぅ…」
「もう?」
「…変に…なるっ……」
流川の生み出す激しいリズムに何時しか、藤真の意識は真っ白になっていった…。
「何だか、イケナイ事をしているみたいだ」
シーツをすっぽりと頭から被って、藤真は流川を上目遣いに見上げてくる。その顔が男にどんな効力をもたらすか、全て計算済みで。
「しているだろう?」
「…そうだけど…でもやっぱりお前ては寝るんじゃ…なかったな…」
「何故?」
流川は吸っていた煙草を指で弄びながら、相変わらずの無表情でそう尋ねる。煙草の火がひどく、藤真の視界には鮮やかだった。
「…分からないから……」
「?」
「お前今まで俺の知っているやつらとは全然タイプが違う。考えとか全然分からないし、行動パターンも読めない。だから、嫌だ」
無意識に爪を噛みながら、藤真は子供のような顔で言った。その表情はさっきのベッドの上の人物とは思えない程の。本当に、子供みたいで。
「…それは……」
流川は煙草の吸殻を灰皿に捨てると、藤真の後ろ髪に指を差し入れた。そしてそのまま自分の方に、引き寄せて。
「…それは…」
「俺が、あんたに惚れているからだ」
「………」
耳元で囁かれた流川の言葉に。その言葉に。
藤真は一瞬茫然として。そして。
そして次の瞬間に、柔らかく笑うと。
「お前って、頭いいな」
何よりも、無邪気に微笑って。
自ら流川に、口付けた。
ひどく、甘い口付けで。
この関係がひどく心地いいから。だから。
だからずっとこのままていたいと思ってしまう。
そして、その心地よさが。
こいつじゃないきゃいけないって。
こいつでないといけないって。
俺は、分かってしまったから。
…だから……
「俺を口説くには、三年早いぞ坊や」
藤真は隣で眠る流川の髪を何度も撫でながら、悪戯っぽい瞳で微笑った。
「…でもお前ならば三年後まで…待ってやるよ……」
そう言って、藤真は。
眠る流川の唇にそっと、口付けた。
『…だから早く…俺に追いつけよ……』