Star


―――きらきらと、星が落ちてくる夜。


夏の匂いの残る芝生の上に寝転んで、夜空を見上げた。真っ黒な空にきらきらと光る星。まるでこのまま手を伸ばしたら届きそうな星。
「流川、見てみろよ」
隣に立つお前に俺は、言った。こうやって見上げる角度からお前を見ると、なんかひどく変な感じがする。それでもやっぱりイイ男なのは代わらないけれども。
「あんたを?」
「違うっ空の星っ!」
むうっと膨れながら俺は空を指差した。そんな俺を見下ろしながらゆっくり手を取ると、そのままお前は覆い被さってくる。夏草の匂いと、そしてお前の髪の匂いがふわりと、鼻孔をくすぐる。
「でも星よりも、あんたのが……」
言いかけて、そして止めて。そのままひとつ、口付けられた。もしその先をお前が口にしたら、俺は驚いてどうしようもなくなってしまうから。だから、言わなくてもいい。言わなくても、伝わるから。
「じゃあさ、俺の目に映る星を見ろよ。綺麗だろ」
髪に指を、絡める。柔らかい髪がふわりと。ふわりと、指先に伝わって。そして。そしてひどく俺は暖かな気持ちになって。
「駄目だ、あんたの目…俺が映っている……」
お前の言葉にその通りだと笑いながら、自分からキスをした。


星が降ってくる。
そっと、降ってくる。
俺と、お前の間に。
そっと、そっと降り続ける。
暖かく、優しい星。


―――ふたりの間を照らす、ただひとつのもの……


「…んっ……」
ふざけあって触れ合っていた口付けは、何時しか深いものへと変わる。互いの舌を絡めあいながら、何度も何度も見つめあいながら。
「…ふぅっん…はぁっ……」
指先も絡めあった。舌と同じように。こうやってお前と繋がっているのかと想うだけで、それだけで俺は背筋がぞくぞくとした。
「…ふ…はっ……」
何度も互いの舌を吸い上げて、そしてゆっくりと離す。口許から零れた唾液を、お前は名残惜しそうに舌で掬い上げてくれた。こんな所も、大好きだ。
「こんな所でえっちするのも…悪くないね」
「誰かに見られるかもしれない」
「いいんだよ。そうしたら、見せつけよう。俺達がラブラブだって、な」
俺の言葉にお前はそっと、微笑った。俺だけしか見ることの出来ない優しい微笑みを。


何時もバカみたいに言っている。
お前が好きだって。お前が大好きだって。
でも、いいよな。本当のことだから。

―――好きだっていっぱい言っても…いいよな……


「…あんっ……」
ワイシャツのボタンを外され、薄い胸に口付けられる。鎖骨のラインを指で辿りながら、胸の果実を舌先が転がしてゆく。
「…あぁっ…ん…はぁっ……」
ちろちろと舌先で嬲られて、そして鎖骨を弄っていた指が空いた方の胸に触れる。指先でぎゅっと摘まれて、俺の身体はぴくんっと波打った。
「…あぁ…ぁぁ…流川……」
俺達を照らしているのは夜空の星だけ。その頼りない光だけ。俺は少しだけ不安になって、お前の背中に手を廻した。そうすれば。そうすればひどく、安心出来るから。お前の広くて暖かい背中に手を廻す事が出来て。
「…あっ…あんっ……」
胸を辿る舌と指。その全てが心地よい。俺にとって最高級の肌触りで、俺にとって最高級の悦楽だから。
「…ああっ!!」
身体を滑っていた指が、俺自身に辿り付く。そしてそのまま形を辿るように指が動いた。側面をそっと撫で上げて、先端の割れ目を指先が抉る。その刺激に俺は身体を跳ねさせるのを止められない。
「…あああんっ…あぁんっ…るか…わ……」
「こうやって暗闇でも分かる」
「…はぁぁっ…あぁ…何…が…?……」
「あんたの表情と、あんたの匂いと…あんたの瞳…全部、分かる」
「…俺も…分かる……お前の顔……」
「――あんたならそう言うと思った……」
「あああっ!!!」
お前はひどくしあわせそうに微笑って、俺を昇りつめる為にきつく先端を扱いた。


星が、降ってくる。
ふたりの間に、そっと。
そっと、降り注ぐ星。

―――星だけが、俺達を見ていた……


腰を掴まれ、そのまま一気に貫かれた。挿ってきた瞬間ビクンっと身体が硬直したが、すぐにそれは貪欲な内壁によって淫らに絡み付いてくる。
「…あああっ…ああああ……」
ずぶずぶと濡れた音を立てながら中へと迎え入れる俺は、きっとひどくお前には淫らに現っているだろう。自ら腰を振って、お前を求める俺は。でも。でもそれが、俺だから。
「…ああ…あぁぁ…るか…わぁっ……」
どんな俺も全部お前に見せたい。いい顔も悪い顔も、全部。だってそれが。それが俺自身だから。どんな俺も俺だから。だからお前には全部、見て欲しいんだ。
「―――あんたって……」
好きだから、見てくれ。全部、見て欲しい。俺は我が侭で自分勝手だけど、でも。でも嘘だけは付かないから。だからそんな俺を、全部。
「…綺麗…だ……」
「ああああっ―――!!!」
最期の言葉を確かめる前に、俺の意識は真っ白になった。



「綺麗だなんて言葉……」
―――お前ってめっちゃイイ男だよな本当に…
「…使うのは慣れてないんだ…俺……」
―――大好きだよ、流川…
「…好きだって言葉も……」

「…あんたみたいに素直に…言えないから……」



ふわりと、俺の髪を撫でる指。これは夢か、現実か?どっちか分からなかったけれど。けれどもそれでもいいや。頭上から聴こえてくる言葉が、もしも夢だったなら。



―――夢だったら…目覚めるのが惜しいから………

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