声。


何時しか、お前の声が。
お前の声が、耳から離れない。

『――代わりだなんて…思っていない……』

何故。何故。
今更そんな事を言うのか?
お前は何故今更。
そんな事を、言うのか?

――これ以上俺を、混乱させないでくれ……


お前とのセックスは、満たされない想いの代償だった筈なのに。
「あんたが欲しい」
何よりも綺麗でして無関心な顔で、お前はそう言った。散々人の身体を好きにしておいて何を今更だと…思った。何を、今更だと。
「俺の何が欲しいんだ?流川」
手を伸ばして、その背中に廻す。広い、背中。所詮不良とスポーツマンでは基本的な体格の差があるんだろうなと、ふと思った。
「全部」
笑いひとつ浮かべずそう言うと、俺の唇を塞ぐ。口付けは煙草の味がした。こいつは煙草を吸う。それが完璧なお前の唯一の欠点。
バスケットプレーヤーとして一番綺麗な道を選んで歩んで来たお前が、自ら穢した部分。
「全部って…こんだけヤッてれば…もう充分だろう?」
お前の手が俺の前髪に伸びてそのまま髪を乱した。くしゃくしゃと、まるで子供みたいに。
「身体よりも、こころが欲しい」
そう言って。そう言って、お前はひとつ微笑った。俺は。俺はお前の笑った顔を初めて見た。


身体だけの、関係。
初めからそのつもりだった。
お互い代用品として。
花道の代用品として。
こうやって身体を重ねあっていた。
そのつもりで。
そのつもりで、いた筈なのに。

―――何時からか少しづつ、歯車が狂い始めていた……。


「…何…言ってんだよ…お前…」
初めから、代わりなんかじゃない。初めから、そんなつもりはなかった。
「あんたが、欲しいんだ」
初めから代わりにするならば、俺は絶対にあんたを選ばなかった。誰よりもあのバカの傍にいて、誰よりもあいつを分かっている。分かっているそんなあんたを。
―――あんただけは、選んだりはしない。
「欲しいんだ」
初めから欲しかったのは、手に入れたかったのはあんただけ。あのバカをずっと見ていたあんただけ。自分自身を犠牲にしてまで護り通そうとしたあんたのこころが。
どうしても俺は手に入れたかった。欲しかった。
「俺は代わりだろう?花道の」
代わりならば、よかった?代わりだから安心して抱かれたのか?本当にそれだけならば。それだけならば絶対に俺達は互いを選んだりはしないだろう。
「違うと言ったら?」
―――選びは、しないだろう。


多分淋しさだけじゃない何かがあったから。
違う何かがあったから。
それが無意識に惹きあい、そして手繰り寄せられた。
このまま。
このまま絡み合って。
解けなくなってゆくのは。

―――もしかしたらそれが、答えなのかもしれない……


「違うって…何言ってんだよ…お前…」
「初めから、そんなつもりじゃなかった」
「…流川……」
「――代わりだなんて…思っていない……」
「……」

「初めから俺は、あんたが欲しかった」

そのまま抱きしめて。
奪う程の激しい口付けをしたならば。
そうしたら。
少しはその言葉を、信じてくれるのか?


今更、今更。
そんな事を言うな、と。
そう思ったのは。
思ったのは、俺が。
俺が何時しかお前に、惹かれていたからか?

「嘘ばかり…」
「嘘ならよかったか?けれど」
「…流川…」
「初めからそのつもりだった。どうしたらあんたを手に入れられるのかってずっと思っていた」
「……」
「どうしたらあのどあほうの事をあんたが考えなくなるかと」

「―――どうしたらあんたが俺を見てくれるのか、と」

――声。
降り積もる声。
お前の、声。
お前は何時も言葉を言わない。
必要な事は何一つ。
大切な事は何一つ。
でも。でも今俺に向けられた言葉は。

…お前の、真実だと思って…いいのか?……


「――あんたが、欲しい」
こんなにもお前の言葉で混乱しているのは。いるのは何時しか俺も同じ想いを向けていたから。何時しか、同じ気持ちを持っていたから。
「…流川……」
「あんなどあほうよりも、俺を見ろよ」
―――同じ気持ち、だったから……


その言葉にあんたは小さく、頷いた。


「花道のことを考えられないくらい、お前で埋めてくれよ。そうしたら、お前だけ見ていてやる」
「…ああ…あんたがそれを望むなら……」
「見ていてやるから…もっと…俺の中に入ってこいよ。俺のこころの中に」
「幾らでも。あんたの全てを俺で埋めるまで」


お前の声が俺を埋めてゆく。
その声に満たされて。
満たされて俺は何時しか。
何時しか、お前しか見えなくなっていた。

―――お前の声に、全てを埋められて………

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