SLOW LOVE


―――何時の間にか、恋になっていた。


最初のきっかけなんて忘れちまうほどに。
忘れちまうほどに、その存在を目で追っている自分に気付く。
何時からだったのか。何時から、だったんだろう?
この想いの名が、恋へと変わっていったのは。

…何時からこんな風に…追いかけていたのか?……


すっと伸びた、手と。風に靡く黒い髪が。ひどく、目に焼き付いた。
「――お前って…カッコ良かったんだな…」
ぼそりと呟いてみて、ひどく後悔をした。その言葉をばっちしお前が聴いていたので。相変わらず無表情は変わらなかったが、でも微かに眉が動いて反応しているのに気付いたから。
そんな些細な反応に気付いてしまう自分が恨めしい。これって相当お前を見ているせい…なんだろうなぁと。
「何を今更」
そんな俺に事も無げにお前は言うと、そのま抱きしめられた。何時からだろうか、この腕の中が何よりも心地よいものだと感じるようになったのは。この場所が何よりもかけがえのないものだと感じるようになったのは。
「あんたが気付くのが遅すぎる」
長い睫毛。整った顔立ち。どれもとっても女の子が惚れる要素しかなくて。って男の俺ですら正直言って…とことん惚れちまっている。
―――悔しいくらいお前が好きだって、そう思っている……
「こんなイイ男にあんた惚れられてるんだよ」
何か反論をしようと思ったけど、それは叶わなかった。その唇が俺の唇を塞いで、全ての反撃と言葉を閉じ込められてしまったので。


最初は、もっと違うモノだった。
ただどうしようもなく淋しかったから。
どうしようもなく淋しくて。
互いに花道の代用品のはずだった。
それだけのはずだった。なのに今は。

…今はこんなにも俺はお前のことを……


抱きしめられる腕の感触が、何よりも心地よくて。
「―――馬鹿…俺だって……」
触れ合う唇の感触が、何よりも愛しくて。
「…俺だって…お前を……」
こんなにも俺はお前のことが好きだと気付く。


淋しさを埋め合うために身体を重ねていたのに。
何時しか空洞を埋める以上のものが注がれて。
そしてそれが俺の心を満たしたら。もう二度と。
二度とお前から離れられないと思った。


「好きって言えよ。あんたの口から聴きたい」
真剣な瞳に見つめられ、俺は不覚にもびくんっとした。身体が、心臓が跳ねるのを止められない。
「…何でだよ……」
どきどき、している。全てがどきどきしている。こんな気持ちになるなんて思わなかった。こんな風にお前に対して思うようになるなんて、考えられなかったのに。
今はこんなにも。こんなにも溢れて、いる。お前への想いに、こころが溢れている。
「聴きたい」
それ以上お前は何も言わなくて。ただ真剣に俺を見つめるだけで。見つめられる、だけで。でもそれが。それが俺にとっては。
「―――好き、だよ……」
俺にとってはどうしようもない程、幸福な瞬間だと気付いたから。


ゆっくりと恋になってゆく。
ゆっくりと、心が満たされてゆく。
それは静かに。それはふわりと。
俺自身が気付かない間に。
俺自身が違うものを見ている間に。
ゆっくりと満たされて、埋められていった。

お前の存在で。お前の想いで。


「悔しいけど、好きだよ。お前のこと」
「なんで悔しがる」
「だってなんかすげー悔しいんだもの」
「俺がイイ男だからか?」
「……流川…お前ってそんなキャラだったか?……」
「あんたのせいだ」

「あんたが俺をこんなにした」


くすりとひとつ、お前が微笑った。
それは本当に一瞬の事だったけれど。俺は。
俺は心臓が止まるほどびっくりして。
びっくりして、そして。
そしてお前に何時しか見惚れていた。

―――悔しいほどに、俺お前に惚れている……


「…わ、笑うなっ!」
「何でだ?」
「びっくりするだろうがっ!」
「…俺だって笑う時はある……」
「でもでもマジでビックリした」
「――あんた……」
「…だってお前……」

「…すげー…カッコイイ……」


ゆっくりと恋になってゆく。
ゆっくりと好きになってゆく。
きっかけはどうであろうとも。
その想いはごく自然に。
ごく自然に、現れたものだから。
ごく自然に、芽生えたものだから。

こんな形だって、いいよな。俺達らしくってさ。



もう一度お前はひとつ、微笑って。
そしてそっとキスをしてくれた。


――――最高に、カッコイイ顔で……


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