VICTIM


――――睫毛が長いなって、ふと気が付いた。


「お前の髪って本当、さらさらだな」
指を伸ばしてその漆黒の髪に触れる。さらさらの、髪。驚くほどに細くて、そして指先をすり抜けてゆく、その髪が。
「あんたも、だろ?」
しばらく弄っていたら不機嫌そうな声とともに、お前の手が俺の髪をくしゃりと乱した。何時もは上げている前髪が額に落ちてくる。その感覚がうざったいと…思った。
「固めてるけど…本当は柔らかい」
「ってくしゃくしゃにするなよ」
前髪がぱさぱさと落ちてきて、視界を狭くする。それがイヤで首を振ったら、お前がふと微笑った。微笑ったと言っても…本当に口許をそっと。そっと形を変えるだけで。

でもそんなお前を知っているのは、俺だけだから。

「これも新鮮で、いい」
腕を腰に廻されて、そのままひょいっと抱き上げられた。こんな時に体格の差を感じる。普段スポーツをやっている奴と、そしてケンカしかしていない俺との差。こんな時にそれをひどく、感じる。
「…新鮮って…何だよそれ……」
抱き上げられて、そのまま膝の上に乗せられた。向き合った形で、こうして座らせられる。こんな格好誰かに見られたら本気でシャレにならない。まあ見られたところで、コイツは動じたりするとはないんだろうけど。
「あんたの顔が幼く見える」
珍しく俺から見下ろす形になる。綺麗な顔だなと改めて思った。何でこいつ、こんなに綺麗な顔をしてるんだろう…男、なのに。
「―――ってガキって事かよ……」
拗ねたように言ってみたら、髪を撫でられてそのまま口付けられた。悔しいけれどこいつのキスは無茶苦茶に上手い。色恋沙汰など全く無関心と言うような顔をしながらも、こんな蕩けるようなキスをこいつはしてくるから。
「…んっ…ふっ……」
首の後ろに手を入れられ、そのまま撫でられる。それだけで俺は、ぞくりとした。吸われる唇の甘さに眩暈すら感じているのに。それなのにこんな風に指で、遊ばれて。
「…はぁっ…ぁ……」
唇が痺れるまで口付けられて、そして開放される。けれども飲み切れなかった唾液が、つうっと俺の口許に伝った。それをお前の舌が、掬い上げる。
「…あっ……」
「あんた本当に、敏感だな」
舌の感触だけで、睫毛が震えた。そんな俺にお前は再び首の後ろを指で弄びながら言った。細い指。この指先がボールを自由自在に操って…そして俺も、操って。
「…お前がそうさせた……」
悔しいから髪に指を触れて、そのまま引っ張った。けれども細すぎる髪は指先からさらりと零れてゆく。細い、髪。この感触を一番知っているのは、俺だ。

―――そう思ったらひどく満たされている、自分がいた。


きっかけはひどくいい加減だった気がする。
こいつとセックスする事になるなんて思いもしなかったし。
よりにもよってこいつを…俺が好きになるなんて。
こんなにも好きになるなんて、想いもしなかった。


…何よりも大切な筈の花道よりも今は…今は…お前の腕を、瞳を求めてしまう……



「して、欲しいか?」
腰の廻された手が、そのままワイシャツに忍び込んで、這い上がってくる。そしてそのまま胸の果実に触れた。
「…あっ…待て…こら…あ……」
抵抗しようと髪に手を掛けても、力なんて入らない。首に触れられた指だけで感じていた俺は、敏感な個所に触れられるだけでもう。もう甘い息を堪えられない。
「―――欲しいんだろ?」
「…はぁぁっ…ぁぁ……」
ワイシャツに雛が出来る。その下でお前の手が乱暴とも言える動作で、俺の胸を弄っている。ぷくりと立ち上がった突起を、ぎゅっと指で摘まんで。摘まんで爪で、かりりと引っ掻いた。
「…あぁんっ……」
息が甘くなるのを堪えられない。無意識に胸を押し付け、刺激をねだった。お前はそれに答えるようにきつくソレを摘まんだ。
「あんたは全部俺のものだ」
「…はぁっ…あぁ……」
片方の手を背中に廻して俺の身体を支えると、胸を弄っていた手を下腹部へと滑らせた。そしてそのままズボンのベルトを外され、自身を外へと出される。冷たい空気に触れて、一瞬ソレは竦んだが、包まれてた手のひらのせいで直に熱を持ち始めた。
「…あぁ…はっ…あんっ……」
大きな手が、綺麗な指が。俺自身を包み込み、そして熱くさせる。先端を指でこねられ、ラインを辿られれば、それだけで先走りの雫が零れて来るのを止められない。
「…あぁぁ…もっ…はふ……」
「このまま出すか?」
「―――って…バカ…そーしたらお前の服…汚れ……」
「あんたのなら、構わない」
「…って何バカ言って…んっ……」
そのまま唇を吸われて、そして腰を浮かされた。下着ごとズボンを降ろされて、一番恥ずかしい部分が剥き出しになる。そこに俺の先走りの雫で濡れたお前の指が入ってくる。
「…くふっ…んっ……」
くちゅくちゅと、中を乱される。絡み付く媚肉を押し広げ、指が中を蠢く。その感触に自然と、腰が揺れた。そして。
「汚してもいいから、あんたが欲しい」
そのままお前は自らのスボンのジッハーを外して自らを取り出すと、ソレを俺の中に突き入れた。


乱された前髪から、汗の雫が零れた。
「…あああっ!…あぁぁっ……」
ぽたり、ぽたりと、零れて。零れてお前の頬を濡らす。
「…あんっ…あぁぁ…流川…っ!……」
俺の汗が、お前の綺麗な顔を汚す。そう思ったら。

―――ひどく俺は、感じた……



「あああああっ!!」



最奥まで貫かれ中に注がれて。
その熱さを感じて、俺は。
―――俺は、果てた。



「…髪…お前も…乱れてる……」
荒い息のまま、お前の髪に触れる。少しだけ、乱れたその髪に。
「あんたのせいだ」
指先をすり抜けるその髪に、何度も。何度も、触れる。
「あんたが、乱すからな」
そう言ってお前も。お前の俺の髪に、触れた。そして前髪を掻き上げて。




「やっぱこの方が…いい…あんたの顔…ちゃんと見れるから……」


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