屋上


空を見上げたらあまりにも空が高く、そして日差しが眩しくて目を細めずにはいられなかった。抜けるような蒼い空の色が目にひどく染みる。その色に耐えきれずに瞼を閉じた。
瞼を閉じても痛いほどに眩しい日差しがその上を通り抜けて、光の残像が脳裏に焼き付いて消えない。それが嫌で首を左右に振ろうとしたら、ふと。ふと視界が暗くなった。


「―――何だ……」
瞼を開いた先にあったその顔に洋平はぽつりと呟いた。呟いてみてその先の言葉が浮かばず、頭上にある綺麗な顔をただひたすらに見つめるだけだった。
「暑そうだ」
そんな洋平に返した言葉があまりにもその通りだったので、こくりと頷く事以外浮かばなかった。そんな洋平に無表情のまま流川は彼の目の前にしゃがみ込んだ。
「ってお前も、サボリ?」
手を伸ばして、その髪に触れた。相変わらず指を擦り抜けるさらさらの髪だった。この暑さのせいで自分の髪はきっと汗ばんでいるだろうに…どうしてこいつだけこうなのかと思った。
「いや」
「ってこの時間にこんな屋上に来るなんてサボリ以外の何でもないだろうが」
否定する流川に少しだけ不機嫌そうに洋平は言った。けれども相変わらず目の前の男は顔色ひとつ変えずに洋平を見つめている。全く感情が読めない、顔で。でも。
「違う」
でもあっさりと否定をすると、髪を弄っていた洋平の手を取ると、そのまま。そのまま自らの口許へと持っていった。そして微かに汗ばんでいるその手にひとつ舌を這わして。
「あんたを、捜していた」
指を絡めると強引とも言える動作で、洋平の身体を抱きしめた。


嫌になるくらい鮮やかな空の色。綺麗な空の色。
こんな日には頭が、脳みそが溶けてしまいそうになる。
何も考えたくなくて、ただうだうだと。
うだうだとなって。そして全部。全部溶けてしまいたいと。


「なぁ、俺今結構汗掻いてるから…暑苦しいだろ?」
自分を抱きしめてくる大きな男に、洋平は呆れながらも言った。けれども一向に腕は解かれる事なく、自分を抱きしめてくる。仕方ないなと溜め息を零しつつ、洋平はその広い背中に腕を廻した。
「暑苦しいより、あんたがいい」
あっさりと真顔で言ってのけるセリフ。相変わらずだと思った。無表情で口数が少なくて何を考えているのか分からないくせに。分からない、くせに。

こんな風に時々ひどくストレートに、こっちが恥ずかしくなるセリフを言ってくる。



でも、それが嫌じゃない。むしろ。
「…俺が、いい?……」
むしろ、心の何処かで望んでいる自分がいる。
「―――ああ、あんたがいい」
何時からこんな風に思うようになったのか。
「他はいらない?」
何時からこんな風に望むようになったのか。
「いらない。あんただけでいい」
もう全然分からない。分からないけど、俺もお前がいい。


見つめて、そのまま。そのまま俺からお前にキスをした。
生暖かい唇が触れ合っても、もっと感じたいと思うのは、きっと。
きっとお前だからだろうな。お前だから。


「―――煙草の味がする」
「さっきまで吸ってた…ってスポーツマンは煙草はご法度とか言うなよな」
「今更だ、そんな事は」
「だよな。お前も吸ってるし。で何が不満なんだ?」
「…あんたの…」
「ん?」


「…あんたの味が…欲しい…」


そう言うと今度はお前からキスしてきた。触れるだけじゃない、キス。薄く開いた唇に舌を忍びこませ、そのまま絡め取られる。その感触に酔いながら、何度も何度も口付けを繰り返した。頭の芯がぼーっとするまで。唇が、痺れるまで。
「…汗…益々掻くだろうが……」
荒い息を抑え切れないまま、俺はお前を見上げながら言った。微かに視界が潤んでいる。長すぎる口付けのせいで。
「構わない、俺も掻いている」
そう言いながらも涼しげな顔が憎たらしい。何時も俺だけが乱されて、お前は顔色一つ変えない。そんな所が悔しい。だから。
「うん、汗掻いている」
だから額から零れた汗を舌で拭ってやった。けれどもやっぱりお前は表情ひとつ変えないのが、悔しかったけれども。けれども。
「―――襲うぞ」
けれどもそんな俺の手首を掴むともう一度きつく俺を抱きしめて。抱きしめてぼそりと言った言葉に。その言葉にひとつ、俺は微笑った。


「襲うならちゃんとシャワー室確保してからじゃねーとやらせねー」
「………」
「それも完全個室だぞ。お前身体中に痕残すんだからな」
「…分かった…今は…これで我慢する」



少しだけ、ほんの少しだけ拗ねたような顔をして。そして俺にもう一度キスをした。



そんなお前の髪を俺は撫でながら、しゃーないって言って。
そして。そして耳元で囁いた。ひとつ、囁いた。



――――練習終わったら…俺の家に来いよ、と。


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