堕落


お前の瞳に映るのは。
俺から奪ったもの。
俺から奪っていったもの。

―――これが愛ならば、声を立てて笑ってやる。


奪われて、奪って。
憎んで、憎まれて。
そしてぐちゃぐちゃに交じり合って。
混じり合って、溶けたならば。

全てが、埋められるのか?


「…牧…あっ…あぁ…」
お前は腰を振って俺を求める。激しく求める。セックスの間、お前は一匹の綺麗な野獣になる。何よりも欲望に忠実な。
「…あぁっ…はぁ……」
ぽたぽたと零れるのは汗と。そして快楽の涙。お前の身体中体液が、俺に降り注ぐ。
「もっとぉ…もっとぉ……」
自ら俺の上に跨って、深く俺を求めるお前の瞳に。瞳には今何が映ってるのか?そんな事を考えても答えは一生出ないだろう。
―――では、しないのだろう……

「あああ――っ!!」

喉を仰け反らせてお前は悲鳴じみた声を上げた。
その瞬間、俺の腹にお前の吐き出した欲望がぽたりと零れた。


奪いたい。
奪いたい、お前の全てを。
全てを、奪ってやりたい。
お前は俺の欲しい物全てを持っている。
俺がどんなに望んでも手に入れられなかったモノを。
全て、お前は持っている。

―――お前だけが…持っている……


「…中に…出せよぉ…」

鼻に掛かるような甘い声で、お前は言った。
俺はその言葉に答えるように一層激しく抉ってやった。
お前の中に熱い液体を注ぎ込んでやる。
それに満足したのか、お前は。

―――華のように、微笑った。


奪いたい。奪いたい。
俺からお前が奪っていったもの、全てを。
全てを奪いたい。
お前の全てを、奪いたい。


何故俺と寝るのか?
―――お前が欲しいから。
俺の何が欲しい?
―――全部が欲しい。
全部?

―――そう俺は、お前の全てが欲しいんだ……


愛しているから寝るなんて、そんな甘い事じゃない。
そんな優しい想いなんかじゃない。
お前にだけは優しくされたくない。お前にだけは。
そんな感情お前からだけは、欲しくない。
俺が欲しいのは。俺が欲しいのは。

一番上に立つお前だから。


「セックスしている時は、お前は俺だけのものだから」
「――セックスだけか?」
「そうセックスだけ。だってお前は一番綺麗な星のもとに生まれてきた。誰もが羨む綺麗な星の下に。そんな星に俺は、届きはしない」
「お前らしくないな、そんな謙虚なセリフ」
「事実を述べただけだよ。でも幾ら綺麗な星の下に生まれたって」

「男とセックスしている。こうやって俺と」


綺麗な星。
生まれながらに選ばれた人間。
誰もが望むその道を。
歩むのが許される人間。
だからこそ。
だからこそ、その道に泥を塗りたい。


「お前の唯一の『穢れ』が俺なら、それでいい」
「俺を堕としたいのか?」
「お前は堕ちはしない。そんなのお前に似合わない。だから俺だけが知っていればいい」
「―――俺が本当は醜い生き物だと言う事をか?」
「…そう他の誰も知らなくていい…」

「俺だけが知っていればいいんだ」


お前は俺を堕とせないと言う。
綺麗な星に生まれた俺は。
でもな、藤真。
俺はとっくに堕ちているんだ。
お前を抱いた時から。
お前とともに、永遠に抜けられない闇へと。

お前が言った。
俺が奪ったモノを取り返したいと。
奪われた全てを取り返したいと。
けれども。
俺も、奪われているんだ。
お前に全てを。
お前という名の何よりも綺麗な獣に。

―――全てを、奪われているんだ。


もしもこれを愛と呼ぶ奴がいたら、俺はその場で笑ってやろう。
そんな甘く優しい想いなんて俺達には存在しない。
そんな暖かい想いなんて。
俺達の間にあるのは、互いへの執着と独占欲。
そして。そして、略奪。
奪い合う事の悦び。
誰にも分からないだろう?それでいい。
誰にも分かってなんて欲しくはない。
そんな事俺とお前が分かっていれさえすればいいのだから。


そして俺達は、堕落する。闇と言う名の最も幸福な場所へと。

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