存在意義


時々、俺は自分の居場所を捜している。

ここにいて、いいのかと。
お前の隣にいて、いいのかと。
今俺はお前に必要とされているのかと。
俺は、ここにいていい存在なのかと。

少しづつ、積み重なってゆくものが俺達を遠い場所へと連れてゆく。


『洋平っ早く行こうぜっ!!』
お前の隣に俺が、いて。俺の隣にお前が、いる。
『慌てなくても逃げやしねーぜ花道』
そんな当たり前の日常。当たり前だった、日常。
『でももう腹減りまくってんだよ』
ずっと、続くと思っていた。明日も明後日も、ずっと。
『バーカ』
ずっと、ずっと、ずっと。


しあわせだったのか?しあわせすぎたのか?
今となっては分からない。
どうしたいのか、どうしたかったのか。
このままでずっといたかったのか。
それとももう少し違うものになりたかったのか。
もう分からなくなってしまったから。


ただ俺は、信じていた。
お前の隣が俺の居場所だと。
俺が居るべき場所だと。
ここが何よりもかけがえのない場所だって。
馬鹿みたいだけど、信じていたんだ。


花道、楽しそうだな。
今スゲーお前満たされている顔しているよ。
そんな顔、俺見たことなかった。
ケンカしている時も、女の子好きでいる時も。
―――俺の隣にいる時も。
そんな充実した表情のお前、見たことなんて…なかった……



かみさま、おねがいです。
おねがいです、おれから。
おれから花道をとりあげないでください。
おねがいだから、おれから。

―――おれから、とりあげないでください。



バスケがお前を連れていった。
もう二度と戻れない場所へと。
もう二度と戻ってこない場所と。
綺麗な、道。満たされた、道。
俺といたら決して、得られないもの。

―――それをお前は、手に入れた……


綺麗で、綺麗過ぎて。お前が綺麗だから。
俺にはどうする事も出来ないよ。
もうどうする事も出来ない。
お前が見つけた居場所は。お前が見出した場所は。
―――俺には決して届かない。
綺麗で、眩しくて。こんな穢れた俺には。



かみさま、ぜつぼうのつばさをください。
すこしでもきたいなんてしないように。
なにもきたいなんてしないように。
ぜつぼうのつばさを、おれにください。


光の中で生き始めたお前に、俺は必要のないものだから。


それでも瞳はお前を追う。
それでも視線はお前をさ迷う。


ずっと、続くと思っていた。
今日がしあわせなら、明日もしあわせだと。
子供みたいに、思っていた。
お前の隣にいたらそんな事すらも信じていた。


『洋平』
お前の俺を呼ぶ声。
『今日は、どーする?』
お前の、声。
『なぁ、洋平』
今はそれが、何よりも遠い。


存在意義。俺の存在理由。
それをお前に求めていたのか?
それをお前の中に見出していたのか?
だとしたら、俺は。

―――俺は空っぽ、だ……


願っていた、お前がしあわせならばと。
祈っていた、お前が満たされればと。

ただそれが俺の手ではなかっただけ。
ただそれが俺が成しえなかっただけ。
ただそれだけの事、だった。



かみさま、おれから。おれからすべてを。
すべてを、とりあげないでください。
あいつがいないと、あいつがそばにいないと。
おれはどうしていいのかわからない。



―――淋しい…と…声に出して云えば、よかったのか?


でもまたそんな事をしてもどうにもならない事も分かっている。
どうにも出来ない事を、知っている。だから。だから言葉には出さない。
言葉にしたらきっと。きっと、壊れてしまうだろうから。
今まで必死に護ってきたもの全てが、壊れてしまうから。


それでも俺は願っている。それでも俺は祈っている。
ただひとつ、お前のしあわせを。



―――それだけは、本当のことだから……

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