目を開ければそこには、突き刺さるほどの現実があって。
貴方がもう何処にもいないのだと言う、ただそれだけの事実が。
今ここに。私の目の前にあるのだから。
――――優しい夢で眠りたい。そこに貴方がいるのならば。
「―――姉上……」
その声に見上げれば心配そうに私を見つめる弟が、いた。そんな彼に私は口許だけで微笑う。肉親にまで無理に強がる姿を見せるのは、もう流石に出来なかった。
「…シオン…私……」
私どうしよう、と言葉にしかけて、止めた。その先を言ったからってどうにもなる訳ではなかった。どうにもならないから、と諦めて止める。けれども本当は。本当は私は。
「姉上、無理しないでください。俺の前では」
無理なんてしていない、そう言おうとして出来なかった。やっぱり。やっぱり出来な、かった。
ただ独りの人。ただ独り愛する人。
貴方がいないこの世界で。貴方がいないこの地上で。
私はどうやって生きてゆけばいいのか。
どうすればいいのか、分からなかったから。
―――どうすればいいのですか…ジュリアス様……
ぽたりと、頬から零れ落ちる雫。ぽたりと、ひとつ。頬から零れ、そして。そして止めど無く後から、後から流れてきた。
「…姉上……」
「…ねえ…シオン…私…私…どうしたら…ねぇ…どうすればいいの?…」
ずっと貴方の為に生きてきた。貴方が目指すものを一緒に。ずっと一緒に追い続けていた。追いかけ続けていた。それなのに。それなのにもう、貴方は何処にもいなくて。この世界の何処にもいないから。いないから、私はどうすればいいの?ねえ、どうすれば。
「…いないのよ…もうジュリアス様は何処にもいないの…どうすればいい?どうしたらいい?…教えて…シオン…ねぇ…ねぇ……」
「―――姉上っ!」
腕が伸びてきてぎゅっと私は抱きしめられた。力強い腕が、私を。私を抱きしめる。それは何処か、あの人に似ていた。あの人のぬくもりに、似ていた。
「…姉上…俺が…俺が…います…ずっと姉上は俺が護ります……」
「…シオン……」
「…姉上…俺の……」
「―――あ……」
声に出す前に、言葉にする前に私はその弾力のある唇で私の唇は塞がれて、いた。
幼い頃から、ずっと。
ずっと、追い続けそして。
そして護り続けていた。
姉上があの人の腕に抱かれても。
俺はずっと。ずっと、姉上を。
―――姉上、だけを……
これは、夢。きっと、夢。一夜の夢。
ただ私が淋しくて、ただ私が壊れていたから。
だから、これは夢なの。
「…あっ……」
前をはだけさせられて、剥き出しになった胸に口付けられた。それは私の知っている唇とは違っていた。違っていたけど、今は。今はそれでも、いい。少しでも貴方の記憶から遠い場所へとゆけるのならば。
「…あぁっ…んっ……」
乳首を舌で転がされ、乳房を鷲づかみにされる。少し性急で、少し乱暴な愛撫。でもそれが。それが今は。今はちょうど、いい。少しでも早く、少しでも先に、そうして。そうして真っ白になりたいから。
「…姉上…姉上……」
「…ああん…はぁっ…ん…っはぁぁっ……」
ぺろぺろと音を立てながら乳首を舐められれば、そこは痛い程に張り詰める。それを感じながら、私は喘いだ。声を殺すことなく喘いだ。
―――だってこれは。これは夢、だから……
「…ああっ…シオン…はぁっん…あん……」
「姉上…綺麗だ…誰よりも綺麗だ……」
「…ああぁ…あぁん……」
何度も胸を揉まれ、何度も乳首を吸われ、そして。そしてやっとそこから開放される。けれども指は、舌は、私の身体を滑り息を付くことも許してはくれない。けれどもそれが。それが、今は。
「…はぁっ…ぁぁ…あ…あっ!」
ピクンっと肩が揺れたと同時に、貴方の舌と指が私の入り口に辿り着く。指先で花びらを広げられ、そして舌でソコを吸われた。とろりと零れる蜜を舌で掬われて、そのまま指が中へと入ってゆく。
「…ああっ…あふぅっ…はぁぁっん……」
ずぷりと音を立てながら、指が中を掻き乱して。そして一番感じる個所を探り当てると、そのまま執拗にソコを攻めたてた。私の身体が波打つほどに。
「…あぁっ…シオン…はぁ…あああ…私…あぁ……」
「姉上のココ、綺麗ですよ。ピンク色をしていて」
「…あぁ…そんな事…言わない…で…はぁぁっ……」
「大好きです、俺の姉上」
「…はぁぁっ…あぁ……」
何度も何度もクリトリスを攻められて、私の意識は次第に白濁していった。
貴方はもう何処にもいない。
私を抱いてくれた貴方は、もう何処にも。
何処にもいないの。
その広い背中も、大きな腕も、もう何処にもないの。
―――もう、何処にも……
「ああああ―――っ!!!」
脚首を掴まれそのまま引き寄せられる。熱く硬いモノが私の中へと入ってくる。媚肉を掻き分け、奥へ奥へと、入ってくる。
「…あああっ…あああ……」
「――姉上の中…凄く…熱い……」
「…あああ…ああああっ……」
がくがくと腰を揺さぶられながら、身体をま真っ二つに引き裂かれて。内側から火傷しそうな程熱いソレが何度も私を貫いて。
「…あぁぁ…ああ…ああああ……」
そう貴方もそうやって。そうやって私を貫いた。普段の物静かな様子とは裏腹に激しく。激しく私を求めて。奥まで、求めて。
「…あぁ…あぁぁ…はああっ……」
そうこんな風に激しく貴方は私を。私を抱いてくれた。ううん抱いてくれている。そう今私を抱いているのは、抱いているのは。
「…あああ…ジュリ…アス…さま……」
貴方の逞しい手が私の腰を揺さぶり、貴方の熱い塊が私を貫き。貴方の激しい動きが、私を翻弄して。
「…ジュリアス…様…ジュリアス…ああああっ……」
「違う、姉上。俺はジュリアス様じゃない。姉上、俺はシオンだ」
「…あああっ…ジュリアス様…もっとぉ…もっとぉ…ああんっ!!」
「違うシオンだ、そう呼んでくれ……セオドラ……」
「…あっ…ああ…あああ…シ…オン……」
「そうだ、俺だ。姉上の中にいるのは俺なんだ」
「…シオン…シオン…あああ…あぁ……」
「これが俺、なんだ」
「――――あああああっ!!!!」
もう分からない。何も、分からない。
私を抱いているのは、誰?私の中にいるのは、誰?
私を貫き欲望を埋め込んだのは、誰?
誰が私の身体を、抱いているの?
これは、夢。そう、夢。夢だから。目が醒めれば、貴方が。貴方がそこにいるの。
「…ずっと…愛していた…姉上だけを…ずっと……」
「…ああんっ…はぁぁっ…」
「…俺はずっと…姉上だけを……」
「…あぁっ…あ…あぁぁ……」
「…愛している…んだ……」
これは、夢。夢だから。
目が醒めれば全てが嘘になる。
全てが、消えて幻になる。
それでもこうして身体は繋がっていて。こうして、欲望は埋め込まれて。
「全てが夢だとしても…俺は…ずっと…憶えている……」
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