時が、経っても




子供だったねと、お前は泣きながら微笑った。
子供だったから、駄目なの?って泣きながら。
それでも子供じゃないと言い張って。そして。

…そして痛い程に真摯な瞳で、俺を見上げてきたから……


泣いたと思えばすぐに笑って。拗ねたと思ったら、嬉しそうに駆け寄ってきて。くるくると良く表情の変わる大きな瞳と。そして。そしてどこまでも強気な気持ち。本当は弱いくせに必死に強がろうとするお前が。そんなお前が、どうしようもない程愛しい。


見上げてくる瞳は、痛いほど真っ直ぐで。そして必死に堪えているのが…分かったから。
「兄上…どうして―――」
その先を言おうとしてぎゅっと唇を噛み締めて耐えるお前が。その先の言葉を必死で堪えるお前が。分かっている、俺の口から聴きたいのだろう?聴くまでは…お前はずっと俺に頑ななままだろう。
…そうだったな…ずっとお前はそうだったな……。
「バージェの復興よりも、大切なものがあったから」
負けん気が強くて、俺が何時も折れていた。そんな俺に結局はすまなそうに謝るのが何時もの事。そう、俺たちの何時もの事だったよな。その真っ直ぐさが俺には羨ましかった。
…その真っ直ぐさが俺にもあれば…もしかしたら誰も傷つけなかったかもしれない……
「…兄上は祖国を復興させるためにずっとこの五年間耐えて来ました…それを何を今更っ!」
「同じ事を、ビルフォードにも言われた」
「…兄上?……」
見開かれた瞳。綺麗だと言ったらお前はどんな顔をするだろうな?怒るか?驚くか?それとも…喜ぶか?……
「何故今更だと。五年間もシュロンを待たせて…何が今更だと。でもあいつは本当の事に気付かずじまいだったがな」
「本当の事って?」
「――シャロンにとって俺は過去の男だと言う事に…彼女が愛しているのは他でもない自分自身だと…あいつは全く気付いていなかった」
「…そんな兄上は…だからここへ戻ってきたのですか?」
「違う、エステル。俺は―――」


気付かなかったのか。気付けなかったのか。
あまりにもそばにいたから。当たり前のように俺のそばにいたから。
それが何時しか当然だと思うようになっていた。こうして。
こうして俺の隣にいてくれることが。何時しか。
何時しか、時がふたりを引き裂くかもしれないと言う事に気付かずに。

呼び止めなければ。引き止めなければ。
こころの想いを、真実を告げなくては。

あまりにも自然に。あまりにもお前は俺の隣にいたから。
一番大切なことを俺は。俺はずっと、見落としていた。
こうして離れてみて初めて気が付いたこと。
こうして離れてみて初めて、分かったこと。
―――ただひとつの事。



「…お前が…好きだ……」



大きく見開かれた瞳が。そっと。そっと一瞬微笑って。
そして。そして次の瞬間きつく俺を睨みつけて。
睨みつけたと思った瞬間、今度はその大きな瞳からぽたりと涙が…零れ落ちた。
―――綺麗な涙が、そっと零れ落ちた。


「…兄上…私をからかわないでください…本気にします…」
「本気だ、エステル…離れてやっと気が付いた。自分にとって誰が大切か」
「…嘘……」
「シャロンでも、サーシャ王女でもない…俺にとってお前が…何よりも、お前だけが」
「…兄…上……」
「…愛している…エステル……」


きつく、抱きしめた。言葉で伝わらなければ想いをこうして伝えることしか俺には出来なかったから。きつく、お前を抱きしめた。
そんな俺に一瞬お前の身体がぴくりと震えて。そして。そしてゆっくりと身体の力が抜けると、そっと。そっと俺の背中に手を、廻した。


「…私も…ずっと…兄上…だけを……」
「…エステル……」
「…初めて逢った時から、ずっと…ずっと兄上だけを……」
「…エステル…愛している……」


零れ落ちる涙をそっと拭って、そのまま口付けた。ぴくりとお前の瞼が揺れる。それが何よりも愛しかった。愛しくてそして愛している。
「…兄上…違う…ラフィン……」
涙の乾かない瞳で俺を見上げ、そしてひとつ微笑って。揺るぎ無い視線を、真っ直ぐに。真っ直ぐに俺だけを見つめて。
「…ラフィン…私を…抱いて…」
「―――エステル……」
俺の全てを貫くような視線で。けれどもその中に含まれるのは痛いほどの想いで。苦しいほどの、想いで。そして。
「…私を愛していると言う…証拠が…欲しいの……」
そこまで言って耐えきれずに俯いたお前を…俺は拒むことなんて出来はしなかった。


そっとベッドの上へと押し倒すと、その重みで白いシーツに雛が出来た。それを視界の隅に捕らえて、ゆっくりとお前を見下ろした。
初めて出会った時は、まだ幼さの残る小さな少女だった。けれども今。今俺の腕の中で微かに震えるお前は…俺のただひとりの『女』、だった。
「…エステル……」
「…あっ……」
衣服のボタンをひとつひとつ外して、下着事脱がした。シーツよりも白い肌が俺の目の前に暴かれてゆく。それが、何よりも。
「…あっ…あぁ…」
そっと胸に、触れた。俺の手のひらですっぽりと収まる胸。それを柔らかく揉みながら、尖った胸の果実に指の腹で触れた。それを転がしてやれば、ぴくんぴくんと腕の中の身体が小刻みに震える。
「…あぁんっ…あ…ラフィ…ンっ…はぁっ……」
何度も何度も胸を弄りながら、空いた方の乳房を口に含んだ。蕩けるような柔らかさと、弾力のある張りが俺の口許に伝わる。そのまま尖った乳首を舌でぺろぺろと舐めた。
「…ぁぁ…ラフィ…ン…あぁ…ん……」
手が伸びて来て俺の髪をくしゃりと乱した。それを合図に俺の指が、舌が、両の胸を執拗に攻め立てる。唾液でべとべとになるまで、俺はその胸にむしゃぶりついた。
「…あぁん…あぁ…あんっ!……」
やっとの事で開放してやるとお前の目尻から、口許から液体が伝わってくる。俺は指で快楽の涙を拭い、舌で零れ落ちる唾液を舐め取ってやった。
「…エステル……」
「…はぁっ…ぁ……」
顔を綺麗にしてやると、再び俺の指はお前の身体を征服して行った。余す所なくその肌に舌と指を這わせ、俺が知らない個所などないように。お前の全てを指と舌で刻むように。そして。
「ひゃんっ!!」
脚を開かせ、お前の最奥に俺の舌が触れた。男を許したことなどないであろうその媚肉は綺麗なピンク色をして、俺を誘惑する。俺はわざと音を立てながらぴちゃぴゃとその器官を舐めた。
「…あぁっ…やっ…ラフィン…そんな所…汚ないっ…あぁ……」
「…お前の身体で汚い所なんて…どこもない……」
「…はぁぁっ…ああんっ…あんっあんっ……」
奥へと舌を忍ばせ一番感じる個所を探り当てると、そこを執拗に攻め立てた。舌で嬲りながら、外側を指でなぞる。そうしながら充分に濡れぼそったのを確認して、そっと指を忍ばせた。
「…くぅっんっ!……」
ぴくんっとお前の身体が跳ねて、喉を仰け反らせた。その顔は苦痛に歪んでいる。俺はそれをあやすように髪を撫でながら、指を進めていった。そうして一番感じる個所に真っ先に触れて、剥き出しになったソレをぎゅっと摘まむ。
「―――ああんっ!」
その途端お前の細い身体が痙攣を起す。一瞬瞳が宙を見ているようになって。そして。そして俺の指先に大量の蜜を零した。


「大丈夫か?エステル」
髪を撫でながら尋ねればお前はそっと微笑った。汗に髪をべとつかせながら、それでも懸命に微笑って。そして。
「…平気…だってずっと私を護ってくれたでしょう?…」
「…エステル……」
「…何時もその背中が、手が…私を護ってくれたから…だから、平気…だから…来て……」
震えながら伸ばされた手が、ぎゅっと。ぎゅっと背中にしがみ付いて。そのまま。そのまま俺の胸に顔を埋める。そんなお前を優しく抱きしめて、俺はひとつキスをした。そして。
「―――ずっと俺にしがみ付いていろ…ずっと」
そしてお前の細い腰を掴むと、ゆっくりと侵入した。


―――ズプリ…と濡れた音を立てながら、お前の中に俺自身が入ってゆく。その衝撃にお前の綺麗な眉が苦痛に歪む。
「…エステル……」
唇をぎゅっと噛み締めて悲鳴を堪えようとするお前に、そっとキスをして唇を解いた。痛いならば声に出してもいい。堪えなくて、いいから。
「…はああっ!あああっ!!」
耐えきれずに零れた声は悲鳴と苦痛に混じっていた。それでもこのまま中途半端に行為を止めることは出来ない。俺は自分を我慢しつつゆっくりとお前の中を征服してゆく。
ぐちゅっと接合部分が濡れた音を立てる。それと同時に零れるのは真っ赤な血。お前が純潔だと伝える証だった。
「ああああっ…あああっ…はあああ……」
その血を潤滑油代わりにしてそのまま身体を進めた。やっとの事で自身を全て収めると、ゆっくりとお前を見下ろした。目尻か涙を零し、それでも必死に俺にしがみついて。そして。そして苦痛をやり過ごそうとしている顔にキスをして。
「…んっ…ふむぅ…んんん……」
キスをして少しでも意識を溶かさせた。痛みを紛らわせようと。唇に集中させようと。
「…んんっ…はぁっ…んっ……」
身体の硬直が取れてゆくのを感じて俺はそっと唇を離した。そのまま胸を揉んでやりながら、腰を動かす。初めはゆっくりと、次第に激しく。
「…あああっ…あああんっ…あんっ…ああんっ!……」
初めは苦痛でしかなかった声も、今は艶を含み俺を惑わす。腰を揺さぶるたびに形の良い胸が揺れ、俺はその胸を掴まずにはいられなかった。激しく胸を揉み、腰を揺さぶる。
「…ああ…あぁぁ…ああんっ…あんっあんっ……」
自身を最奥まで貫かせ、お前の一番感じる個所を突ついた。肉が擦れるたびにお前の声が甘くなってゆく。そして俺を締め付ける媚肉も熱く、きつくなってくる。
「…エステル…もう……」
「…あぁ…ラフィ…ン…イイ…いいから…私の中に…あぁ……」


「―――あああああっ!!!!」


ドクンッと弾けた音と共に、俺はお前の中に欲望を注ぎ込んだ。白く熱い、欲望を。



時が経ったら、変わるものがあって。
時が経っても、変わらないものがあって。


俺とお前の想いは変わらなくて、そして変わってゆく。
大切な想い。ただひとつの大事な想い。それは少しずつ。
少しずつ変化していって、そして。そしてゆっくりと。
ゆっくりと別のものへと生まれ変わりながらも。それでも。
それでも根本的なものは何一つ変わっていない。


―――互いを何よりも大切に想う、事だと言う事が……



「…エステル…俺の……」
「…ラフィン……」
「…ずっと俺のそばにいてくれ…ずっと…」
「…ええ…ずっと……」


「…ずっと、そばに、いる……」



泣きながら、微笑った。
微笑って、また少し困った顔をして。
そして真っ赤に照れて。また。

またお前は何よりも綺麗な顔で、微笑う。





時が経ったね。私が貴方の背中だけを追い続けていた子供の頃から。
随分と時が経ったね。でもね。でも変わらないものもあるよね。


―――時が経っても、変わらないものが。


私が貴方を好きでいる事。貴方が私を護ってくれる事。
ずっとずっと、それだけは変わらないよね。どんなになっても。
どれだけの時が経とうとも、ずっと変わらない想い。



―――そしてずっと…ずっとふたりでいることが………


 


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