貴方の翼



背中に生えた真っ白な羽を、どうかずっと護ってください。


自由な人だから。何物にも縛られない、強い人。
真っ直ぐで曇りがなく、そして何時も。何時も前を。
前を見つめながらも、後ろを振り返ることが出来る人。
振り返り、そして。そして見つめてくれた。

私をちゃんと、見つめてくれたから。

貴方がしあわせならば、それでいいなと。
貴方が嬉しければそれでいいな、と。
そんな小さな思いが積み重なって、そして溢れて。
溢れて零れ落ちた瞬間に、そっと翼が。

――――翼が私の元へと、舞い降りた。



夢は夢のままで。優しさはずっと、優しいままで。絡めあった指先のぬくもりだけが、世界の全てになって。
「…カトリ…俺は……」
髪をそっと撫でた。何時ものようにくしゃりと撫でたら何故か今は。今はお前が壊れてしまいそうに思えて。だからそっと。そっとお前の髪を、撫でた。
「ホームズ、好き」
そんな俺を見上げるお前の瞳は何時も真っ直ぐだ。一点の曇りもない、綺麗な瞳。無垢な、瞳。馬鹿みてーだけど、俺…俺お前の瞳に映る自分が一番好きだ。
「貴方が、好きです」
微笑うその顔は少女のようで、けれども『女』の顔だった。お前が俺に初めて見せた顔。俺だけに見せたお前の顔。子供のように無邪気で、そして少女のように無垢なお前。けれども今。今俺の目の前にいるお前は。
「―――私を…ちゃんと見て」
ただの独りの恋する女、だった。



そばにいられるだけでね、しあわせだったの。
こうして一緒にいられるだけで、それだけでよかったの。
大好きだから。ホームズが、大好きだから。
けれども何時しか。何時しかそれが淋しくなっていた。
貴方は私に優しいけれど。ぶっきらぼうな優しさをいっぱいくれるけれど。
でも私を。私を子供のようにしか見てくれていなかったから。

貴方が好きだという想いが、貴方にとってただひたすらに優しいものだったから。

そばにいられるだけでいいなんて。一緒にいられるだけでいいなんて。
そんな優しい想いだけでいられないと気がついた瞬間に。もっと別のものが。
別のものが私の中に芽生えた時に。私は、貴方が向ける優しさが苦しかった。
苦しくて、そして切なくて。切なくて、そして哀しい。
どうしたら私を。私を独りの女として見てくれるか?私を『対等』に見てくれるか?


私はひどく子供で。私はひどく幼くて。
貴方にとって私はずっと。ずっと護るべき者。
護られなくてはいけない小さなもの。
何時までたっても私は並べない。貴方の隣に。
貴方と同じ位置に、立ちたいのに。

…一緒に貴方と並んで、歩きたいのに……



髪を撫でながらそっと抱きしめれば、腕の中の身体がぴくんと震えた。それでも俺は、抱きしめた。今離したら、この腕を離したらもっと。もっとお前が震えるような気が、したから。この腕の中のお前が。
「俺も…好きだぜ…お前が…大事に…想ってる……」
抱きしめて顔が見えないから、やっと言えた言葉だった。本当はもっと早く告げなければならないと分かっていも…変な俺の照れと意地が何時しかそれを喉元に押し止めていて。
「って、本当だぜっ…本当に…想ってる……」
それでも照れくさくて少し不貞腐れたように言ったら、腕の中のお前がくすりと微笑った。そして可笑しくて堪らないと言うように顔を上げて。上げて、俺を見つめて。
「うん、伝わった。ちゃんと伝わったよ」
俺の頬にその細い指が触れて。微かに震える指が触れて。ゆっくりと唇が重なった。

―――お前から、俺にキスを、した。



子供の時間が終わりを告げる時、一番初めに見るものが。
「…カトリ……」
見るものが貴方だったらと、ずっと願っていた。
「…ホームズ…私を……」
他の誰でもない貴方の手だったらと、想っていた。
「…私を…ホームズの……」
導く手が、貴方ならば。その翼が一緒に連れていってくれるならと。


「…貴方だけのものに…してください……」



震えながら、言うお前。俺以外に聴こえないような小さな声で。それでも全ての想いを込めてそう告げたお前を。俺は。俺は何よりも、愛しいから。
「―――ごめんな、カトリ……」
お前が何よりも、愛しいと。何よりも…愛していると…こんな恥ずかしい言葉直接お前には言えねーけど。けど、それでも想っている。こんなにも、想っている。
「…ホームズ?……」
「こんな時ぐらい…俺から言わねーと…いけねーのによ」
「くすくす、本当だね」
ビックリしたように見上げた瞳が柔らかく微笑った。こんな顔も、お前ならば好きだと…そう想った。
「でも、いい。貴方の気持ちがいっぱい…伝わったから……」
そう言ってそっと目を閉じるお前を、今度は俺からキスをした。壊れ物を扱うかのようなキスから、今度は全てを奪うようなキスを。


パサリと乾いた音とともに、お前の身体をシーツの上に寝かせた。白いシーツにお前の栗色の髪が映えて綺麗だと思った。
「―――カトリ…好きだぜ……」
そのまま髪を撫でながらもう一度唇を奪った。舌で唇をなぞれば薄く開かれてゆく。その入り口から舌を忍ばせ、怯えるソレに絡めた。
「…んっ…ふっ…ん……」
こんな激しいキスをお前に与えたのは初めてだった。角度を変えて何度もその柔らかい唇を奪う。舌を根元から絡め、きつく締め付ければ睫毛がぴくんっと震えた。
「…んんっ…はぁっ…ん……」
唇が離れた瞬間に零れるのは甘い吐息。その吐息を再び唇を塞ぐことで奪った。それを何度も繰り返し、唇が痺れる頃やっと開放をした。最期にお前の長いため息と、ともに。
「…あっ……」
口許を伝う唾液をそっと舌で舐め取りながら、俺はお前の衣服を脱がした。口付けで意識がぼんやりとしている間に、羞恥を感じる前に全てお前の服を脱がした。
「…ホームズ…あ、あの……」
「ん?」
「…は、恥ずかしい……」
意識が覚醒したお前は頬を微かに染めながら、自らの両手で身体を隠した。少し俺から視線を外しながら。
「…恥ずかしがるなよ…俺だって…恥ずかしいんだぞ……」
お前のせいで俺まで顔が真っ赤になっている。悪いが耳が熱いのが自分でも分かるくらいに。そんな俺にお前はやっと視線を戻して。そして。そして自らの両腕を俺の背中に廻して。
「…そうだね…一緒…だよね……」
俺の耳元にそっと。そっと小さな声で、囁いた。


腕の中にある小さな身体。
すっぽりと収まるその身体。
ちょっと力を込めたら壊れそうな。
壊れそうな華奢な身体。でも。
でもそれも全て。全て、愛しく。
愛しく、護りたいもの、だから。

―――何よりも大切なもの…だから……


「…あっ……」
胸のふくらみに手を、触れた。それはすっぽりと手のひらに収まるほどの大きさだったが、形良い胸だった。触れるだけで指が埋まるような、柔らかい胸。
「…あぁっ…んっ……」
少し力を込めて胸に触れれば、お前の口からは甘い声が零れる。それを頼りに俺はしばらくその胸を指で弄った。どのくらい力を込めていいのか分からなかったから、恐る恐るだったけれど。
「…あぁ…あん…ホームズ…はぁっ……」
それでも零れる声は甘く、俺の背中に抱きつく腕は強く。それに安心したように、俺は指に込める力を強めていった。弾力のある胸を押し返すように、強く。
「…ああんっ…あっ…ん……」
そのままもう一方の胸を口に含んだ。ぷくりと立ち上がった胸の果実を口に咥え、そのまま舌でちろちろと舐めた。唾液で濡れぼそるまで。
「…あぁ…ホームズ…あ……」
唇は胸に触れたままで、指先を身体に滑らせた。その白くてきめの細かい肌に。指に吸いつくような柔らかい肌に。
俺が触れるたびに、触れた個所が、さっと朱に染まってゆく。俺の手によって変化させる肌が、そんなお前が愛しかった。愛しくて堪らなくて、俺は。
「…カトリ……」
胸から唇を離すと、そのままお前を見下ろした。甘い吐息に零れる唇を、熱に浮かされたようなその表情を、俺は見たかったから。お前の顔を全て、見たかったから。
「…ホームズ……」
名前を呼ばれて俺を見上げる瞳が、夜に濡れている。それは俺が今まで知らなかったお前の『女』の顔。まだまだ知らない顔をお前は。お前はいっぱい持っているから。だから全部、それを俺に見せて欲しい。全部、見せて欲しい。
「―――好きだぜ、カトリ……」
お前の全部を、俺に見せて欲しいから。


「ああんっ!」
脚を開かせて、中心部に指を触れた。花びらの外側をなぞりながら、ゆっくりと中へと埋めてゆく。そこは微かに、湿っていた。
「…あぁっ…くふぅっ…はぁっ……」
誰も触れたこのない場所に、俺の指が触れている。俺だけが、お前の秘密の場所に、触れている。そう思ったらひどく、俺は欲情した。
「…はぁっ…ぁ…ああんっ!」
指をくちゅくちゅと掻き回している間に、時々的を得たようにお前の身体が跳ねる。それを確かめて、その場所を集中的に攻めたてた。そのたびにがくがくと開かれたお前の白い脚が震えた。
「…あっ…あんっ…ああん……」
とろりと指先に濡れた感触を感じて、俺は中の指の本数を増やした。媚肉を押し広げるようにしながら、中をくちゃくちゃと指で廻す。その未知の感触にお前の身体は紅く染まっゆく。それがひどく、綺麗で。綺麗に、見えて。
「―――カトリ……」
「…あっ!……」
指を引き抜く感触にすらお前は震えた。そんお前の髪を俺はそっと撫でて。撫でて、そして。
「…痛かったら…言えよ…俺はお前、傷つけたくねーから……」
その細い腰を掴むと、充分に滾った自身を入り口に当てた。その途端びくんっとお前の腰が引かれるのが分かった。けれども。
「…平気…ホームズ…私は…平気だから……」
けれどもそれを必死で止めて。止めて俺の背中に廻した両腕に力を込めて。ぎゅっと、込めて、そして。
「…だから私を…一緒に連れていって…ホームズ……」
そして真っ直ぐに俺を。俺を、見つめた。そんなお前の額にひとつキスをして、俺はゆっくりとお前の中へと挿っていった。


「ひあああああっ!!!」


白い喉が、仰け反る。形良い眉毛が、苦痛に歪んだ。けれども、お前は決して俺から手を離さなかった。俺の背中から、腕を離さなかった。
「平気か?カトリ」
足元に生暖かい感触を感じる。繋がった個所から血が零れている。けれども中途半端なまま止める訳にもいかなかった。
「…へぇ…き…だから…ホームズ…お願いだから…止め…ないで……」
ぽたぽたと瞳から零れるのは涙。透明で綺麗な涙。それをそっと拭ってやった。こうする事で痛みが少しでも和らげばいいと想いながら。少しでもお前の痛みが俺に分けられればいいと。バカみたいだけど、本気でそんな事を思った。
「…あああっ…あっ!」
そのままゆっくりと腰を引き寄せ中へと埋めてゆく。血が潤滑油となって、少しずつ中へと入っていった。楔が埋められてゆくたびに、ぐちゃぐちゃと接合部分が淫らな音を立てる。それが次第に互いの身体を煽っていった。
「…カトリ…カトリ……」
「…あぁぁっ…ホームズ…ホームズ…ああああっ!……」
痛みはまだ消えてはいないだろう。それでも俺に必死にしがみついて、そして。脚を絡みつかせ、俺を求めるお前。必死に俺を求めるお前が。
どうしようもなく愛しく、どうしようもなく愛している。お前を、愛している。
「…あああっ…ああああ…もぉ…私…私…あぁぁ……」
全てを埋め、抜き差しを繰り返し。そして次第にお前の声が甘くなって。甘くなってきて。
「…カトリ…俺も…もう……」
「―――あああああっ!!」
強く最期にお前の中に突き入れて、そして俺はその中に白い欲望を注いでいた。



何時も貴方の背中には白い翼が見える。
自由と言う名の白い翼が。真っ白な、翼が。

私はそれを見ているのが好きだった。
私はそれを見ているのがいやだった。

貴方が自由に飛び立ってゆければいいなと願いながらも。
私を置いてゆかないでと怯えていた。でも。でも、今。


今貴方の手が私の手に繋がって、そして一緒に飛び立ってくれたから。


もう怖くない。何も、怖くない。
貴方の隣にこうして立てて。やっと。
やっと貴方と同じ位置に立って、そして。


――――そして私も貴方と一緒に、飛びたてるから。



「…カトリ、ずっと……」
絡めた指は離さないで。ぬくもりはずっと閉じ込めて。
「…ずっと俺達一緒に……」
この繋がった手が導くものが新しい場所だから。
「…一緒に…いようぜ……」
ここではない、新たな場所だから。


子供の時間にさよならをした瞬間、そばにいるのは貴方だとずっと願っていたから。





「…うん…ずっと…ずっと…一緒、だよね……」


 

 


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