ふわふわ




君は風船みたいに、何時も。何時も飛んでいってしまうから。
僕が捕まえていないと心配だから。僕が見ていないと心配だから。


―――だから君から目が、離せないんだ……


一生懸命に君が好きだけど、それがちゃんと伝わっているのかと言うのは、また別問題なわけで。何時も君だけを見ているのに、それが上手く伝わらないのは。
「ねえ、アトロム。あたしね」
君の背は少し低いから、自然と僕を見上げる形になる。大きな瞳が真っ直ぐに僕を見つめて、そして微笑っている。子供のような笑顔。子供みたいな笑顔。この笑顔を見ていると、ひどく。ひどく暖かい気持ちになれる。
「あたしね、将来スターになるの」
その言葉に思わず吹き出しそうになった。けれどもここで笑ったら…君のその頬が大きく膨れることは目に見えているから我慢する事にするけれど。
「スター…随分とリーリエの夢は大きいんだね」
僕も夢を見ていた時があった。大事な姉さんを護る為に、誰よりも強い勇者になる事。それが何よりもの僕の夢だった。けれども姉さんを護る腕は別にあって、そして。そして僕も姉さん以上に、護りたいものが出来たから。今ここに、いる小さな女の子の存在が。
「うん、スターになるの。歌を歌いたいのあたし」
きらきらとした瞳。夢だけを見ている瞳。夢だけを見させたいと思わせる瞳。ずっと。ずっとこのままの君が、きっと僕は好きなんだろう。ずっと。ずっと、ずっと。


ふわふわと、している。ふわふわと、生きている。
足許も地に付いていないような。
現実も何処かに行ってしまっているような。
そんな女の子だった。そんな小さな女の子だった。
初めはあまりにも無防備だから、心配になって。
心配になって放っておけなかっただけだけど。
気が、付いたら。気付いたら目が離せなくなっていた。
君から瞳が、離せなくなって、いた。

何時も君は思いがけない顔を僕に見せるから。
僕が知らなかったものを、知らなかったことを。
僕にいっぱい、いっぱい、見せるから。

僕の世界は姉さんだけだった。孤児である僕を育ててくれた大事な姉さん。
僕の世界の全てはそれだけだったのに。そんな僕の世界に君は大きな穴を開けた。
大きな穴を開けて、たくさんの。たくさんの風を僕に送り込む。
それは僕が何一つ知らないもの、だった。


君から目が、離せない。瞳が捕らわれて、どうにも出来ない。なのに君はそんな僕にお構いなしで、好き勝手に生きている。ふわふわと、生きている。
「歌うことが好き。大好き。大好きなことをずっとしていたいの」
夢の中で生きている君。そんな夢を壊したくない僕。今の僕の夢はきっと。きっと君の夢を護ること。君の夢を、護り続ける事。
「そして少しでもあたしの歌を…好きだって言ってくれる人がいたら…しあわせだな」
君が微笑っていられる世界をこの手で作れたらいい。この手が少しでもそれを手助けできればいい。その為に、僕はやっぱり誰よりも強い勇者になりたいんだ。
「リーリエ」
「何?アトロム」
そして僕は。僕は君の笑顔を、護りたい。この笑顔を、誰よりも護りたいんだ。
「僕は君の歌、好きだよ」
僕の言葉に君は、微笑う。何よりも嬉しそうに微笑う。それが何よりも僕が、望んでいるものだから。



楽しいと、思う。アトロムといる時が。
一番、一番、楽しいの。一番、一番、嬉しいの。
他の誰といる時よりも、一番。


――― 一番しあわせだなって、思うの……


好きなものはね、いっぱいあるの。
甘いお菓子とか、歌とか、たくさんたくさん、持っているの。
「へへ、嬉しいな。アトロムに言ってもらえて」
でもね、あたしが一番好きなのは。一番、大好きなのは。
「一番、嬉しいな」
―――目の前の勇者様なんだよ。


何時もそばにいてくれるから。何時もアトロムがそばにいてくれるから。
あたしいっぱい、好きなことが出来るの。好きなことだけ、やっていられるの。
それは全部。全部、アトロムがそばにいてくれるからだよ。


「あのね、アトロム」
呼べば必ず自分を見てくれる瞳が。
「何?リーリエ」
一番好き。一番大好き。
「へへへ、何でもない」
何よりも、誰よりも、大好き。



何でもないと君は言って、突然駆け出した。けれどもその脚は余り早くないから、すぐに僕は追いついたけれども。けれども本当に…本当に目が、離せない。何をするか分からないから。何をしてくるか、本当に僕の予想が付かないから。
「全く、君は……」
追いついて手を掴んだら、振り返ってまた笑った。子供みたいに微笑った。そして。そして、僕をちょこんと見上げて。見上げて、そして。
「ごめんね、アトロム。これで許してね」
そして、そっと。そっと僕の唇にキスを、した。



一番大好きなのは。一番大好きなのは、あなただから。



「…リ、リーリエ……」
「嬉しい?アトロム」
「あ、あのその……」
「むぅ、嬉しくないの?」
「い、いや…その…」


「…う、嬉しいよ……」


僕の言葉に楽しそうに君が笑った。声を上げて笑った。そんな君を見ていたら僕もひどく嬉しくなって。嬉しくなったから、ふたりで。ふたりで、笑いあった。声を立てながら、笑った。



何時までもこんな風に、いたいねって思いながら。



 

 


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