ALISON




――――今ここに、君がいてくれるならば。君がここにいてくれるならば。


大きな瞳が真っ直ぐに前だけを見つめて。
決してそらされる事のない強い視線が前だけを見つめて。
そして。そしてふと振り返った瞬間に零れた笑顔が。
子供のように無邪気に微笑うその顔が。その、笑顔が。


僕にとっては太陽よりも、もっと。もっと眩しいものになっていた。



一緒に強くなろうね、って君が言った。真っ直ぐな瞳を向けながら、その手を差し出して。その瞳には絶対の自信と何一つ迷いのない光があって、ひどく僕には羨ましいもののように思えた。ううん、ひどく羨ましかった。
「…何で僕にそんな事、言うの?……」
差し出された手を握り返す前に、少しだけ不機嫌そうに僕は言った。何だか悔しくて。こんな風に何一つ迷いのない瞳を向けられるのが。そんな瞳が自然に出来るのが。だって僕の目の前にいるのは、僕よりもずっと。ずっと小さな女の子、なのだから。
「だって貴方強そうなんだもん。ううん、違う。強くなりそうなんだもん」
僕よりも華奢で僕よりも小さくて、そして僕よりも強い女の子。それが君だった。それが君、だった。
「ね、だから一緒に強くなろう」
太陽みたいな笑顔。光いっぱいの笑顔。自分自身の存在すら自信の持てない僕にはとても眩しい存在だった。でも。
「ね、ナロン」
でも君の手をそっと。そっと握り返した瞬間。君が本当に嬉しそうに僕の手をぎゅっと掴んで、微笑ったから。子供みたいに無邪気に微笑ったから。


――――眩しいと思うよりも、もっと。もっと別の気持ちが生まれていた。



僕はまだ見習い騎士でしかなく、自分の存在に自信が持てなかった。
強くなりたいと願いながらも、戦闘では足手まといでしかなく。
どんなに頑張っても、どんなに努力しても、他の皆に追いつけなくて。
ただ焦る気持ちだけでいっぱいになって、どうにも出来なくなっていた。
そんな僕の前に君は現れた。子供みたいな大きな瞳と、強い意思。
僕よりも小さくて、僕よりも華奢なのに、君は。君は臆する事はなくて。
真っ直ぐに前だけを見つめて、強くなりたいと願う。その揺るぎ無い意思が。
それがひどく。ひどく、僕の心を突き動かしていた。


――――そう、僕は。僕は気持ちで負けていた。自分自身の気持ちに飲み込まれていた。



その事を気付かせてくれたのは、あの時の真っ直ぐな瞳だった。大きな揺るぎ無い瞳だった。それは今も。今も僕の隣りにある。ここに、ある。
「随分、私達遠い所に来ちゃったね」
君がこの軍に加入してから数え切れないほどの戦闘をこなして来た。戦うたびに強くなる君を見つめながら、何時しか僕も誰にも負けないくらいに強くなっていた。一緒に、強くなってきた。
「そうだね、サン」
君のオレンジ色の髪がふわりと風に揺れる。それを見つめていたら目が合って、微笑われた。その顔はやっぱり何時もと変わらない無邪気な笑顔だった。そうこの笑顔だけはずっと変わらない。ずっとずっと、変わらない。
「いっぱい大事な人が死んで、いっぱい戦って…でももうすぐ終わるよね」
強くなりたいと願う中で生まれた君の葛藤も、この笑顔で乗り切った。強くなればなるほどに生まれてくる痛み。それは人を殺す事への痛み。それはこうして戦う以上逃れる事も、逃げる事も出来ない痛みだった。
自分の手が血に染まってゆけばゆくほどに、善悪の定義が分からなくなってくる。それは人として当たり前の感情だった。ううん君が、そんな感情を持てないような人間ではないって分かっていたから。だから君の心の葛藤も、嫌という程に僕に伝わってきた。苦しいほどに、伝わってきた。だってそれは、僕の心の中にも絶えずあったものだったから。
「うん、終わるよ。絶対に。だって僕らは人を殺すために戦ってきたんじゃない」
「そうだよね、この戦いを終わらせるために…戦ってきたんだもん」
それが答えだった。二人で見つけた答えだった。悩んで葛藤して、心の矛盾に必死で戦って、そして見つけた答え。見つけ出した答え。それが間違っているか正しいかは今の僕らには決められない。けれども今戦っている僕らが、見つけ出した答えだった。
「最近ね、気付いたよ私」
「何に?」
「大事な事に気が付いた」
君の瞳が真っ直ぐに僕を捕らえる。初めはこの視線が苦手だった。見つめてくる大きな瞳はまるで僕の全てを見透かすようで、心の奥底までも見つめているようで。
「―――私、気が付いたよ。本当に大事な事に」
けれども今は。今はその瞳を反らさずに返せる人間になりたいと思っている。心に迷いや疚しさがなければ、この瞳を真っ直ぐに受けとめられる筈だから。
「本当に大事な事って空気みたいなものなんだなぁって。毎日繰り返される穏やかな日々の中で、積み重なってゆくものなんだって」
「それは今みたいに戦っている日常じゃなくて?」
「うん、そうだよ。きっと一番大事なのは、何でもない日々の中でふと気付く瞬間なんだよ」
君の言葉に僕は小さく頷いた。こうして戦いが続く日常は緊張感とそして、嫌になるくらいに『生』を生々しく感じる。死と隣り合わせだからこそ生きていると実感する。でも本当は。本当は、そんなものなどふとした瞬間に思い出すほどに何でもない日々が。何でもない日常がいかにかけがえのないもので、そして大事なのかを。
「ふとした瞬間に、あ、しあわせだなぁって…私、そんな日常が皆に来て欲しいと思う」
「そうだね、サン。本当に、そうだよね」
戦う事で命を実感する日常よりも、大事な人の笑顔を見て生きている事を感じる日々の方がいい。殺すために強くなりたいと願うよりも、大切な人を護るために強くなりたいと願いたい。それはとても。とても、大事な事なんだから。
「だからナロン、私達頑張ろうね」
あの時のように君の手が差し出させる。僕はその手を迷う事無く握り返した。頑張れると思う。君の手があれば、僕は頑張ってゆけると思う。
「うん、サン。一緒に、強くなってゆこう」
人を傷つけるためじゃなく、人を護るために強くなろう。その為には今。今目の前にいる一番身近な大事な人を護ってゆけるように。自分に出来ることから、始めよう。



「へへ、ナロンと一緒だとね…私凄く頑張れるんだ。他の誰よりも、頑張れるんだ」




君の瞳が捕らえる僕が、決して曇ったりしないように。決して君の瞳が翳ったりしないように。

 

 


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