胸に宿る星




女の子は誰でも心に小さな輝く星を持っているの。
きらきらと、輝く星。大人になる前の少女だけが、持っている。
持っている、小さくても何よりも輝く星。


―――きらきらと、輝くもの。誰も穢せないただひとつの自分だけの星。



おいらは別にこんな長いスカートも、こんな綺麗な服も着たくはなかった。顔に化粧を塗られるのも息苦しくて堪らなかったし、自由に動き回れないこんな服は着たくはなかった。でも。でも…


「綺麗だね、パトリシア」


そう言って、微笑うから。リシュエルが微笑うから…凄く優しく…微笑うから…。おいらは我慢してこの服を、着ていた。我慢して、暑苦しかったけど化粧したまま微笑い返した。


「…バトリシアなんて呼ぶなよ…バドで…いいよ」


それでもやっばり恥ずかしくなって、口許が上手く微笑えない。気付いたら耳まで真っ赤になっておいらは俯いていた。リシュエルがそんな風に、おいらの名前を呼ぶとは思わなかったから。そんな、風に。


「どうして?今僕の前にいるのは立派なレディーだ。男として、ちゃんと扱いたい」


おいらの前にしゃがみ込んで、手を取って。おいらの手にはめられていた白い手袋を取って、そして。そして手のひらにキス、された。おいらはもう…もうどうしていいのか分からなかった。


胸に宿る星。
きらきらと、輝くもの。
ただひとつの、星。
それは誰にもない。
同じものは何一つない。
たったひとつの。

―――たったひとつの輝ける星。



子供が少女になってゆく時間はあまりにも早くて。男の子が男になってゆく時間よりもずっと。ずっと、早く駆け巡ってゆく。僕が気付かない間に、僕がほんの少し目を離している間に、君は。君は見違えるように綺麗になっていた。

――――本当は…あのままの君でも…大好きだったけれどね……

本当はずっと傍に置いておきたかった。ずっと傍にいて欲しかった。君の明るさが、君の太陽のような無邪気な笑顔が、何時も。何時も僕を救ってくれていた。闇に心を奪われる前に君の強い光が、何時も。何時も僕を照らしていてくれたのに。


どうしてこうして離れるまで、気付かなかったのだろうか?


僕を救ったのはエンテでもマーテルでもない、ただ独りの君だったのに。君だけが、僕を。僕を、何一つ見返りを求めずに見ていてくれたのに。それなのに僕はそれに気付くのにこんなにも遠回りをしてしまった。こんなに、も。


そばにいて欲しかったのは。
ずっとそばにおいておきたかったのは。
ただひとつの気持ち以外にありえなかったのに。
ただひとつの、想いだけだったのに。


「リ、リシュエル…そのあの……」


戸惑いながら、耳を真っ赤にしながら。そんな幼さが今は懐かしい。そんな幼さが今は愛しい。君はどんなに綺麗になっても、どんなに飾り立てても、その純粋さは。その真っ直ぐ差は決して曇る事も、隠される事もない。

―――ずっと、君は。君は…綺麗で、可愛いよ……

思えばずっと君は僕のそばにいてくれた。記憶を無くした僕に何を求めるわけじゃない。何を欲しがるわけじゃない。ただ。ただそばにいてくれた。そばに、いてくれた。


君にはずっと、星が宿っていたのに。
僕ですらも持ち得ない。誰も持ち得ない。
ただひとつの、輝ける星。
君のひたむきさと、君の純粋さだけが。
それだけが持ち得る、ただひとつの。

―――ただひとつの僕の、輝ける星……



「…バド…いや…バドリシア……」
「…リシュ…エル…?」
「―――正式に君に申し込みたい」

「僕と、結婚してください」



子供の頃、ずっと。
ずっと夢見ていた事があった。
何時かこの世界から。
この世界から手を引いて。
そして連れ去ってくれる王子様を。

…今思えばそれは本当に子供の頃の恥ずかしいだけの…想いだったけど……



「…おいら…何も出来ないぞ……」
「うん?」
「…料理も…ダンスも…礼儀作法も…魔法も…それからえーっと……」
「でも君にしか出来ない事がある」

「それが僕には一番必要な事なんだ」


君しか出来ない事。
君にしか出来ない事。
その強い輝きと、そして。
そして全ての闇を振り払う。
その明るさが。

―――君だけが、僕を救うのだから……


「…本当に…いいのか?……」
どうしてだろう?どうしてかな?嬉しいのに。凄く、嬉しいのに。
「君しか、いない」
嬉しいのに涙が零れて来るのは。
「君だけが欲しいんだ、バド」
――どうして…なのかな………。


そっと、頬に触れる手。
暖かい指先。それがゆっくりと。
ゆっくりと、頬を伝う涙を。
涙を、拭ってゆく。

―――何よりも…優しい手が……



「好きだよ、バド」



目が合ったと思ったら、それを確認する間もなく、おいらの唇に。
おいらの唇にお前のそれが降りて来た。




…今そっと、胸に星が…光った……

 


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