Trust




貴方といるだけで、優しい気持ちになれるから。

ずっと見ていたなんて、今更言葉にするのも恥ずかしいね。
…ずっと好きだったなんて、今更言葉にするの…恥ずかしいね…。
でもね、好きだったの。ずっとずっと、好きだったの。
少しだけ遠くて、そして誰よりも近い貴方が大好きだったの。


―――言葉にするよりもずっと。ずっと、伝わるもの……


見つめあった瞳の先に、ただひとつの答えがありました。だから私はそれを信じたいと想います。

見上げた先の優しい瞳に、私はやっと微笑う事が出来た。本当はちょっとだけ怖かったから。ううん、凄く…不安だったから。
「――王女からそんな言葉を聴くとは思いませんでした」
不安だったの、本当は。押し潰されそうに不安だったの。貴方に否定されたらと。貴方に受け入れて貰えなかったらと。本当は泣きたいくらいに、怖かったの。
「…どうして?…私はずっとラフィンだけを見ていたわ…」
見上げて見つめて、微笑ったけれど。言葉の語尾が震えているのが自分でも分かる。情けないくらいに、震えている。こんなんじゃ王女失格かもしれない。でも。でも、私。
「…ずっと…ラフィンだけを……」
でも私はその前にただの恋する女なの。ただ貴方を好きな、何処にでもいる女の子なの。
「…王女…俺は……」
―――貴方だけをずっと、好きでした……


何時もそばにいてくれたから。
何時も護ってくれたから。
貴方の大きな手と、広い背中が。
自ら盾になって、私を。
私をずっと護っていてくれた。

そんな貴方が、誰よりも大好きだから。


言葉にして伝えなくても、ずっと。
ずっとこころで想っていたから。
ここの声で伝えていたから。
貴方にきっと伝わっていたでしょう。でも。
でもこうして言葉にしなければ。
言葉しなければ、何も変わる事はないから。


「ラフィンが私をどう思っていてもいいの。伝えたかっただけだから。それに」
「…王女……」
「それに貴方のビックリした顔見られたから、それで嬉しい」

「貴方のそんな顔、見た事無かったから…凄く嬉しい」


もう一度微笑おうとして、けれども上手くいかなかった。やっぱり何処かぎこちなくて、そして。そして無意識に身体が震えていて。私はそれ以上言葉を紡ぐ事が出来なくて。紡げなくて、やっぱり俯いてしまった。
「―――すまない……サーシャ………」
そっと。そっ大きな手が私の頬に掛かる。そしてそのまま気付かぬうちに零れていた私の涙をそっと。そっと拭ってくれた。
「…いいの謝らないで…私が勝手にラフィンを好きなだけだから…」
「―――違う、俺は」
「…え?…」
…私が疑問符を投げかける前に、言葉は腕の中に閉じ込められてしまった…。



―――ただひとつの、光。
故郷を失った俺に。希望を失った俺に。
心にそっと忍び込んできた、ただひとつの光。
それは眩しくて、俺には眩しすぎて。
触れる事すら許されない光だったから。

俺の手は血に塗れている。
俺の手は闇に染まっている。

この手でお前を護りたいと。この腕でお前を護りたいと。
けれどもその反面で何時も思っていた。
この手でお前を穢したくはないと。この腕でお前を傷つけたくはないと。
俺には眩し過ぎたから。光の中にいるお前が。
何もかも失くし、ただ故郷を渇望する以外何も持っていないお前に。
そんなお前に俺は相応しくないと思ったから。

でもお前はこんな俺でも好きだと言ってくれた。
何も持っていない俺でも、好きだとそう言ってくれたから。


「…お前を不安にさせてしまった……」
「……ラ…フィン?……」
「―――俺の方が、ずっと…ずっとお前を想っていたのに」
「…ラ…フィ…ン……」
「俺の方がずっと、お前を好きだったのに」


きつく。きつくその身体を抱きしめた。
思いの丈を込めて、強く。
強くその身体を抱きしめ、そして。
そしてそっと、髪に口付ける。

――――お前だけを愛している…と、そうこころで誓いながら……


「…ラフィン……」
腕の中の、お前の身体がそっと力が抜けるのが分かった。ほっとしたように身体が弛緩して、俺の腕の中に体重を預けてくる。それが。それが何よりも愛しくて。
「私の事『サーシャ』って呼んでくれた」
預けながら俺を見上げる瞳は、柔らかく微笑って。もうその表情にさっきの不安げな色は何処にもなくて。
「初めて呼んでくれたね…嬉しかった…」
「―――サーシャ…」
「ううん、嬉しいだね。凄く嬉しい」
子供のように笑って、そして。そしてぎゅっと俺に抱き付いてきた。そんな無邪気さが俺は、何よりも…大切だった……。



頬に残っていた涙の跡は何時しか消えていて、そして。
そして俺に向けられたのは、何よりも大好きな。



―――お前のひまわりよりも、眩しい笑顔。

 

 


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