足音





―――目を、閉じていても分かる事。

その姿を、瞳に捉えなくても。
その声を、聴かなくても。
空気だけで、分かる。微かな香りだけで分かる。

―――大切な…お前の存在を……


聴こえてくる足音に、無意識に口許に笑みを浮かべる。自分でもこんな顔を出来るようになるとは…思わなかった。
「ラフィンっ!」
予想通りの、声。一寸も違いないその声に、俺は。俺はそっと振り返った。そこにあるひだまりのような眩しい笑顔に、どうしようもない愛しさを抱きながら。
「王女様、どうしたのです?こんなに急いで」
「急いではダメ?…だってラフィンがいたから…」
少しだけすまなそうに言ってくるその顔が。それでも次の瞬間には眩しいほどの笑顔を向けるその仕草が。
「…嬉しかったの……」
そして小さく呟いて、俯いてしまうそんな所が。そんな所が、俺には……。
「――王女」
「は、はい?」
「…いや…今はまだ…」
「まだ?」
「何でもありません、行きましょう。王女」
最期の言葉は、喉の奥で飲み込んだ。手を伸ばせば届く距離にいる。今この腕を伸ばせばその華奢な身体を抱きしめられるだろう、でも。

―――まだ…それは俺には出来ないから……


「あ、待ってラフィンっ!」
少しだけ前を歩く俺に一生懸命に着いて来る。ぱたぱたとまた小さな足音を、響かせながら。
このまま振り返って、そして抱きしめたいと何度想っただろう。この腕に抱きしめて、誰よりも大切な存在だと何度伝えたいと想った事だろう。
「すみません、王女」
風に靡く蒼い髪と、そしてそこから薫る柔らかな香りが。手を伸ばせば触れる事の出来る、その髪が。今はまだ、ただ遠くて。
「もう、ラフィンなんてキライ」
子供のように頬を膨らませて拗ねる所も。けれども少しでも俺が困った顔をすれば、途端に心配そうに見上げてくる瞳も、全部。全部、かけがえのないものだから。
「嘘、嫌いなんて嘘…だからそんな顔しないで」
何も知らない無垢な笑顔。穢れも挫折も知らない笑顔。それでもお前は誰よりも人の痛みが分かるから。その純粋さ故に、何者にも穢れていない故に、誰よりも真っ直ぐに人の気持ちを感じる事が出来るから。
俺が言葉に出来ない事を、俺が言葉にしない事を。その蒼い瞳は、ちゃんと見ていてくれる。分かって、くれるから。
「ええ、王女。もうしませんよ」
――――俺が背負っている重たいモノを…無意識に感じてくれているから……


祖国を取り戻し、騎士としての誇りを取り戻し。
男としての意味を取り戻さなければ、俺は。
俺は王女とは同じ位置に立つことは出来ない。
その身体を抱きしめる資格はまだ俺にはないのだから。


「だから、行きましょう」
「はい、ラフィン。でもね」
「何ですか?」
「でも、先に行かないでね」
「…王女?…」
「一緒に、ね」

「一緒に、歩いてね」


子供のような無邪気な笑顔。
ひだまりよりの眩しい笑顔。
屈託のないその笑顔が、俺を救う。
何時も、何時もその笑顔が。


「ね、ラフィン」


俺を呼ぶその声が。
俺に向けられるその瞳が。


何もかも失った俺にとって、もう一度護りたいと願ったただひとつのもの。


「子供のような事を言うのですね」
「…だって…私…ラフィンの背中よりも」
「王女?」
「こうやって顔を見て、目を合わせて話したいの」
「―――王女らしい、ですね」
「子供だって、言いたいの?」
「いいえ、強いなと」
「…ラフィン?…」
「真っ直ぐに見つめて話す事は…俺にはまだ勇気が必要な事ですから」
「ダメ、ラフィン。そんな事を言っては」
「王女?」
「だって今こうして私とちゃんと見つめ合って話しているでしょう?それなにそんな事を言うなんておかしいわ」
「…王女……」
「ね、そうでしょう?」


何処までも純粋に、何処までも素直に。
それでもお前は物事の本質を知っている。
一番大切な事を知っている。
子供で、そして。そして世間知らずで。それでも。
それでも大人ですら見失う事を、お前はちゃんと分かっている。
俺ですらも、見失っていた事を。


「そうですね、王女。俺は…王女を見ている……」


見つめている、笑顔を。ずっと、見つめている。
何時か全てを終わらせて。
その時は、真実を。その時は、本当の想いを。
俺に課せられた全てのものを越えたら、その時は。
お前と本当に向き合えるようになった、その時は。

俺は迷わずに、ただひとつの事を告げるから。


「行きましょう、王女」
だからそれまで。それまで。
「はい、ラフィン」
それまで、待っていて欲しいと願うのは。
「今度は一緒に歩いてね」
……俺の、我が侭か?それとも……


「…ずっと一緒に…歩いてね……」


少しだけ俯いて、そして。
そして微笑う、笑顔。



――――それは俺にとって、かけがえのないものだから……

 

 


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