捜して、そして。そして見つけ出したから。
ここにいるよって、やっと。
やっとその声が、聴こえたから。
しあわせって実は、とっても身近にあるものなんだと気がついたから。
「セネト兄様、見てください」
その声に振り返れば、そこにはまだ幼さの残る笑顔があった。優しい、笑顔。まるでそこにいるだけで春を感じさせる笑顔で。
「どうしたのそれ?エスト」
「貰ったのです、セオドラ様から。きっとセネト兄さんに見せたら喜ぶって」
そう言って僕に差し出した花は、小さくてピンク色をしていた。僕には花の名前なんて分からなかったけれど、でもお前の笑みが。
―――その花よりもずっと。ずっと春の匂いを感じさせたから……
「綺麗だね」
「はい、とっても。もう春はそこまで来ているんですよ」
見上げてくる瞳の真っ直ぐさと、何時も絶やさないその優しい笑顔が。何時しか僕にとってかけがえのないものになっていた。
春はずっと遠かった。僕に与えられた道は、綺麗でそして穢たない。
王足る者は自分を捨て民の為に生きねばならない。
どんな甘えも、どんな弱さも許されない。それを決して見せてはならない。
多くの犠牲のもとに与えられた王冠は『死』の重みで重たくて。そして。
そして僕に課せられた宿命は、僕を『僕』としては生きさせては貰えないものだった。
自分を捨て、我を捨て、そして。そして、僕は。
僕は何時しか、季節が変わりゆくのですら見失っていた。
時が過ぎてゆく事とか。心が移り変わってゆくとか。
そう言った人としての平凡だけど大事な事を。
何時しか気にする事すら、出来なくなっていた。
―――お前が、いなければ……
「セネト兄様、少しは……」
何時も僕のそばにいてくれた少女。何時も一歩僕の後ろに下がって、それでも。それでもずっと僕に傍にいてくれた。
「…少しは…休んでくださいね…」
花のような笑顔で。はにかむような笑顔で。一生懸命に僕の後を着いて来てくれた。
「エスト」
「セネト兄様の身体が心配だから」
僕の後を、着いて来てくれた。
気がついたら、お前がいた。
僕のそばにいた。
ティーエの気持ちも、お前がいて。
お前がいて、初めて気がついた。
もう過去のものになっているのだと。
お前の笑顔を見て、気がついた。
「うん、気をつけるよ…今日はもう仕事は止めよう」
「セネト兄様?」
「だから、エスト」
「はい」
「僕に付き合ってくれるかい?」
僕の言葉にお前は嬉しそうに微笑って、こくりと頷いた。
そんな所が、僕は。僕は好き、なんだ。
―――僕はお前が…好き…なんだ……
独りになった私に、セネト兄様はずっと護ってくれました。
独りぼっちになった私に何時も、何時も。
どんなに忙しくても、どんなに大変でも、兄様は。
兄様は何時も私に優しく微笑ってくれます。そして。
そして、必ず私に『エスト、元気か?』って。
その言葉を、私は兄様に何時も返したいと思っていました。
一生懸命で、そして。そして自分に厳しくて、他人に優しい人。
たくさんの人の思いに押し潰されないように必死に。必死に生きている人。
私はそんなセネト兄様を少しでも。少しでも支える事が出来たらと。
出来たらいいなと、思って。思って、そして。
そして気がつきました。私が貴方に出来る、事が。
「何処に行きたい?エスト」
私が出来る事。貴方の為に、出来る事。
「何処へでも、私は」
それは、何時でも。何時でも私が。
「セネト兄様と、一緒だったら」
――――この笑顔を、絶やさない事。貴方の為に、微笑う事。
もう平気だから。独りじゃないから。
私は皆がいてくれる。貴方がいてくれる。
ここに、貴方がいてくれる。
「うん、僕も。エストと一緒だったら」
身近にあった、もの。一番近くにあったもの。
「何処でもいいよ」
こんなにそばにあった、しあわせ。
ふたりでいれば、どんな事にも乗り越えられると…思った。
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