眠る月




そっと手のひらで眠る月。やさしい、月。


貴方の髪を撫でながら、その淡い光をそっと見ていた。窓から覗くその月の光だけを。
「―――シエラ……」
名前を呼ばれてそっと貴方を見下ろせば、柔らかく微笑む貴方がいた。こんな穏やかな顔を私に見せてくれる事が何よりも嬉しい。私の腕の中で見せてくれる事が。
「言葉にするのは…なんか勿体ねーな」
「何が?」
伸びてくる手が私の髪に触れる。子供のように弄ぶ貴方の指は、ひどく綺麗だった。あんなに大きな剣を振りながらも、貴方のその指先は。指先は、綺麗。
「…いや…なんかひどく、しあわせで…満たされているから」
微笑む貴方の優しい瞳を瞼の裏に焼き付けながら、私はそっと自分の膝の上に寝転がっている貴方の唇を上から塞いだ。


夢を見ているように。優しい夢を見ているみたいに。
ひどく穏やかで、そして。そして優しい時間。
言葉にするのがもったいないような、それでも。
それでもやっぱり、思いを伝えたいような。そんな。

――――そんな柔らかい時間がずっと。ずっと続きますように……


「…キス、もっとしろよ…シエラ……」
「…あっ…んっ……」
貴方の手が伸びてきて私の頭を自らに引き寄せる。それによって薄く開いた互いの唇が深く絡み合う。互いの舌を舐め合い、口中を味わった。
「…んっ…んん…ふっ……」
ひどく不自然な格好のキスだった。こんな風に、貴方に覆い被さりながら。こんな風に激しく口付けを交し合う。唇が痺れて互いの吐息全てを奪うかのような。そんな、口付け。
「…はぁっ……」
瞼が震え、そして唇が離れる。ぽたりと飲みきれない唾液が貴方の顔に零れた。綺麗な貴方の、顔に。
「…んっ…ふ……」
私はそれを舌で掬い上げ、貴方の顔の唾液を全て舐めとった。その間にも、貴方の手が何度も何度も私の髪を撫で…そして背中に滑っていった。
「…シエラ…このままずっといたい気もするが……」
貴方は唇が離れるのを確認してそのまま起き上がると、もう一度私の髪を撫でた。そしてそっと。そっと耳元に唇を寄せて。
「―――でもそれ以上に、お前が欲しい……」
瞼が、こころが震えるような声でそう言った。


長かったから。離れていた時間が長かったから。
それを埋め合うように私たちは。私たちは触れ合った。
互いの知らなかった時間を埋めるように。空白を満たすように。
指先で、そして肌で、記憶する。全てが消え去っても。

―――永遠に憶えていられるように…と……


「…あっ……」
胸に触れる、唇。そして指先。乳房を掴み、そのままきつく揉まれた。その指を跳ね返すように私の胸が弾む。その感触を楽しむようにまた、胸を強く揉まれた。それが何度も何度も繰り返される。
「…あぁっ…シゲ…ンっ…はぁっ……」
吸われる乳首は痛いほどに張り詰めた。貴方の舌がソレを嬲るたびに私の身体は小刻みに揺れる。それが。それが何よりも。
「…ああ…んっ…はふっ……」
何よりも、感じた。私は惜しげもなく口から甘い息を零した。唇が閉じることが出来ないほどに、舌から唾液が零れるほどに。
「…ふぅっ…あぁぁ…シゲン…ぁぁっ……」
「―――シエラ、綺麗だぜ」
「…シゲン……」
「綺麗だな…月の光に照らされて…お前の白い肌もその瞳も全部…」
「…貴方も…綺麗よ……」
男の人に綺麗だと告げるのは貴方だけ。貴方以外にこの形容詞を私は使いたいとは思わなかった。こんなにもこの言葉が似合う男の人を他に私は知らないから。

―――貴方しか…知らないから……

髪を撫でる指。何度も何度も私の髪を撫でながら、舌はもう一方の指は滑ってゆく。私の身体を滑ってゆく。こうして。こうして貴方は刻み付けるの。私の肌の感触を、そして私の匂いを。離れていた時をこうやって。こうやって埋めてゆく。
「…あぁ…ん……」
そして私も貴方に触れられる事で、刻んでゆく。貴方の指の感触を、貴方の舌の感触を。こうやって。こうやって、そっと刻んでゆく。
「―――あっ!」
ぴくんっと大きく私は跳ねた。それと同時に貴方の指が私の花びらに触れる。外側を何度かなぞって、ずぷりと指が挿ってきた。綺麗な長い貴方の指先が。
「ああんっ」
くちゃりと音ともに掻き乱される中に、私の媚肉はひくひくと淫らに蠢いた。指先が敏感な個所に触れるたびに、摩擦が起きるたびに、意識がぼんやりとしてきて。そして。
「…くふっ…はぁっ…シゲン…はぁぁぁっ……」
そして何時しか私は腰を揺らめかしながら、貴方を求めていた。指の感触を、そして。そしてそれ以上の熱いモノを…求めた。


窓から覗く月だけが、ふたりを見ている。
淡い光を放つ月だけが、そっと。そっと見ている。
その月を手のひらに隠してしまいたいと思った。
こんな貴方を独りいじめしたいと…子供みたいに。

―――子供みたいに…思った……


「ああああっ!!」
腰を捕まれそのまま引き寄せられた。指とは比べ物にならない熱さと硬さが、私の中へと挿って来る。激しく熱いモノが…私の中へと。
「…あああ…あああんっ…シゲ…ああっ!」
中で肉が擦れ合っている。抉られるように貫かれ、それでも。それでも私の中は貴方を求める。きつく締め付け刺激を逃さないようにと。
「…シゲ…ン…シゲ…ンっ…あんっあんっ!……」
「…シエラ…俺の…俺だけの……」
抜き差しを繰り返すたびに私の中の貴方が大きく硬くなってくる。それが。それが何よりも、嬉しい。こんなにも求められている事が、何よりも嬉しい。何よりも…愛しい。
「…あっ…あぁぁ…もぉっ……あああああっ!!」
そして。そして最奥まで貫かれ吐き出された欲望が…注がれた熱さが…震えるほどに嬉しい。



…ねぇ、シゲン…私たちずっと…ずっと不器用だったね……
―――ああ、そうだな…俺も…お前も…もう少し素直になってれば…
…離れなかった?…かな?……
―――いや、お前は俺を『裏切り者』と言った以上…やっぱりこうなってただろうな。
…怒ってる…の?……
―――バカ、怒ってなんてねーよ…しゃーねだろ?俺はお前のその強さも…



「死ぬほど、惚れてんだよ」



また髪に指が触れて、そしてそのまま。
そのまま、キスをする。いっぱい、キスをする。
数え切れないたくさんの、キスを。

それでも足りないって言ってふたりで微笑った。子供みたいに、微笑った。




手のひらで眠る月。そっと、眠る月。
静かにけれども穏やかに、ふたりの間に。
ふたりをそっと、照らす月。




――――俺たち、しあわせかもな…と貴方は言った…優しく微笑いながら…言った……

 

 


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