流浪の民




―――自分の居場所をずっと、捜していた。

ただ流れ、生きてきた。
人を殺す事を生業とし、そして。
そしてただ、流れ続けていた。
一定の場所にとどまる事無く、俺は。
俺は風のように流されてゆくだけ。

捜していた、俺が俺として生きる場所を。


差し出された手の先に、ただひとつの道標があった。
「…一緒に…来てくれる?……」
その一言が全てだった。俺は言葉を告げずに、ただ。ただその手を、取る。けれどもそれで充分だった。
「…ありがとう……」
張り詰めていた顔が綻ぶようにそっと微笑う。綺麗な笑顔、だった。その笑顔をずっと。ずっと俺は見ていたいと思った。

―――ずっと、その笑顔を…護りたいと…思った……


広がる一面の砂の先には、ただ独りの少女が立っていた。
「シェラムの死神、か。でも私には」
俺の前にはただ独りの少女が立っていた。不思議な色の瞳と、何処かあどけなさの残る笑顔と。そして時々どきりとするような大人びた表情と。そして。
「私には貴方はただ独りの剣士なの」
そして頬から零れ落ちる雫を、そっと。そっと指で拭った。乾ききった大地に落ちるひとつぶの水を。
「ずっと、私を護ってくれてありがとう」
「そんなつもりじゃなかった…初めは……」
「分かっている。リュナン様の命令だったからでしょ?それでも私には嬉しかったの」
逃げてきたと、言っていた。ゾーアの谷から、逃げ延びてきたと。仲間を置いて独りだけで、逃げてきたと。泣きながら、お前はそう言った。何時も気丈に俺の後ろを着いて来たお前が。お前が初めて流した涙。その瞬間俺は。俺は何かが…変わった……。
「貴方の背中を見ているだけで…嬉しかったの……」
そのまま俯く華奢な身体をそっと抱きしめて。抱きしめて、そして。そして俺はその髪を撫でた。


―――もう一度…仲間を助けたいから…私はここにいるの……
そう言って、俺達の軍に入って来た、凡そ戦いとは無縁の少女。細い腕、白い手。全てがまるで幻のように儚く見えた少女。
―――私は皆を…助けたい…
なのに強かった。そう言った顔は何処までも強く、そして。そして、真っ直ぐだった。一点の曇りもない瞳で。ひたむきとも言える真っ直ぐさで。前を見ている。
―――よろしくお願いします。
ぺこりと頭を下げて、そして。そして俺の前に立って、微笑った。それは儚げで、そして強い笑顔だった。


ずっと、俺は自分の居場所を捜していた。




シェラムの死神だと、リュナン様は言いました。
だからリベカは安心して彼に護られればいい、と。
戦いの出来ない私の護衛にされて、この人はそれで不満はないのだろうか?
もっと前線で戦いたいのではないだろうか?
剣士としてまっとうしたいのではないのか?
そう思いながらずっと。ずっと私は貴方の背中を見ていました。

―――大丈夫か?……

何も言わない貴方。必要以上何ひとつ。けれども。けれどもそんな貴方は何時も。何時もこの一言だけは私に告げてくれた。それだけで。それだけで、私は。

…何よりも…強くなれたから……


「初めは、リュナン皇子の言うことにただ従っているだけだった。俺は傭兵だから、仕える者に従うのが当たり前だから。でも」
「…ヴェガ……」
「でも気になった。戦えないお前がそれでも必死に前線に出て、兵士の傷を癒そうと懸命になっているのが」
「…私、無鉄砲だから……」
「ああ、そうだ。見掛けと全然違う…だから逆に、気になった」
「騙されたと、思ったの?」
「違う、強いと思った」

「こんなにちっぽけなのに…強いと…思った……」

「強いから、惹かれた。目が離せなくなった」
「…私も…ずっと貴方を見ていたいと思った……」
「――俺はお前の……」
「…ヴェガ……」
「お前の剣士になりたい」




ずっと、捜していた。自分の居場所をずっと。ずっと捜していた。けれども今。今初めて俺は。俺は自分のいるべき場所を、見付けた。


「――― 一緒に…来てくれる?…世界から…忘れられても……」
「構わん。元々俺に居場所などない」
「…もう何処にも還れなくても?」
「――お前がいれば、いい…リベカ……」


もう一度きつく、抱きしめられて。そして私達は見つめ合って、そして。そして微笑いました。くすりと、ひとつ微笑みあいました。
「…好き…貴方が好き……」
見つめあいながら、キスをして。そして、もう一度微笑って。微笑って、手を繋いで。
「行こう」
…ふたりで、この場所から…消えました……



それを見ていたのは…このアルカナの砂だけでした……

 

 


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