ずっと…




想っている事をちゃんと言葉にするのって、難しいね。


何時も想っている事を、大切に想っている事を。
ひとつずつ言葉にして。言葉に、して。
貴方に伝えることがひどく難しいんだって。
こうして指を絡めて眠れる夜が来ても、想っている。


―――こうやって気持ちを…伝えることが……



「ずっと一緒にいよう。これからずっと」
真っ直ぐにあたしを見て貴方は言ってくれた。空のように蒼い澄んだ瞳で。反らされることなく真っ直ぐに、あたしを見つめてくれた。
「ユニ…君は僕が、どんな事があっても護るから」
こんな時、素直な女の子なら『嬉しい』って言って抱き付いたり、微笑ったりするんだろう。でも。でもあたしは。あたしはどうしていいのか分からなくて。

―――嬉しい、のに。泣きたくなるくらい、嬉しいのに。

微笑おうとして口の形を変えたら、何故か。何故か頬からぽたりと、熱い雫が零れてきて。そして。そして微笑む形を唇が作る前に涙で滲んでしまう。ぽろぽろと、ただひたすらに零れる涙を。零れ落ちる涙を、あたしは止められなくて。
「…ユニ……」
そんなあたしに少しだけ…少しだけ困ったような顔をして。けれども次の瞬間には何よりも優しく微笑ってくれて。そして。そして、そっとその腕があたしを抱きしめて。
「…ごめん…ゼノ…あたし…泣くつもりじゃ……」
暖かい腕。優しい腕。全てを包み込む、ぬくもり。ちっぽけなあたしを、全部抱きしめてくれる腕。その腕が余りにも。余りにも優しすぎるから、あたしは。
「…ごめ……」
あたしは『ごめんね』すら満足に言えなくて、またぽろぽろと涙を零してしまう。こんな風に泣いてしまったら貴方を困らせるだけなのに。それなのに涙を、止められなくて。
「ううんいいよ、謝らなくても…それに……」
髪をそっと撫でる指先。傷だらけの手。でも大好きな手。ずっと、大好きだった手。この手があたしに向けられるなんて夢にも想わなかったから。この手があたしに向けてくれるなんて。
「…それにユニの涙は…綺麗だから……」
髪を撫でていた手が何時しかあたしの頬に掛かるとそのまま上に向かされる。瞳がそっとかち合って、ひどく恥ずかしかった。けれども。
「僕の為に泣いてくれる、涙だから」
けれどもそんなあたしに、また微笑ってくれて。そして。そして零れる涙にひとつキスをして、くれた。甘くて切ないキスを。


ちゃんとね、伝えたいのに。
貴方には全部。全部伝えたいのに。
あたしの気持ち。あたしの精一杯。
溢れるほどに、貴方が好きだって。
この手に持ちきれないほど、あたし。
あたしが貴方が好きだって。大好きだって。


――――いっぱい、いっぱい、伝えたいのに……


言葉よりも先に零れる涙が。
声よりも先に零れる想いが。


気持ちを伝える前に、そっと空気に触れて溶けていってしまうの。



「…ユニ、好きだよ……」
好き。うん、あたしも好き。大好き。
「ずっと僕が護るから」
貴方だけが、好き。ずっと、貴方だけ。
「だからもう泣かないで」
貴方だけが、好きだった。


ずっと見ていたの。ずっと、見つめていたの。ずっとずっと、貴方だけ。


言葉にしなければ伝わらないこともあるけれど。言葉にしなくても伝わることもある。でも。でも今はやっぱり。やっぱり、どうしても。
「…ゼノ…あたしも……」
どうしても、伝えたい。伝え、たい。今までずっと俯くだけだった自分にさよならしたいから。心の傷を護るためにただ俯き閉じこもっていた自分から。そんな自分から、さよならしたいから。だから。だからあたし。あたしは、ちゃんと。
「…あたしも…ゼノが…好き……」
ちゃんと伝えなきゃいけない。貴方の目を真っ直ぐに見つめて。見つめて、そして。そしてこの想いを。この気持ちを、伝えることが何よりも大切だから。
「…大好き……」
それが貴方の手を取り、前に進むために必要な。必要な初めの一歩、だから。


見つめて。見つめ、あって。
そしてそっと瞳が微笑む。
やさしく、微笑む。それが。
それがきっと、あたしたち。
あたし達が一番、望んだもの。
一番願い、そして一番欲しかったもの。



「――――ゼノだけが、好き」



今はこれしか言えなくても。今はこれしか貴方に想いを伝えられなくても。でもあたし達。あたし達これからずっと。ずっと一緒にいられるから。ずっと、一緒だから。
「うん、ユニ…ありがとう……」
伝えきれなかった言葉も少しずつ。少しずつ貴方に上げることが出来れば。少しずつで、いいから。そうしたらきっと。きっともっとあたし達微笑いあえるよね。いっぱい、微笑えるよね。
「君から聴きたかった、一番の言葉だよ」
そっと降りて来る唇にあたしは目を閉じて答えた。睫毛が震えて、想いが溢れて。それでも。それでも絶対にこの瞬間を忘れはしないから。




ゆっくりでいいよ。ゆっくりでいいんだ。
遠回りしてもいい。どんな道を通ってもいい。
最期に。最期に君が、微笑ってくれるなら。
僕の腕の中で微笑ってくれるなら、どんな道でも。


――――どんな道でもいいんだ。




「…これから僕達は…ずっと一緒にいるんだから……」

 


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