背後から抱きしめたら、何時ものようにキツい目で睨まれた。
「っていてーっ!!」
抱きしめた腕を無残にも払い除けられて、そのまま思いっきり殴られた。その顔は何時もの怒ったような顔。知らない奴が見たらガン付けられていると、勘違いする顔。でも俺は知っている。それが本当は違うって事を。
「何で殴るんだよっお前はっ!」
わざとらしく頭を抱えながらお前を見たら、益々眉間に皺が寄っていた。本当に何も知らない奴が見たら、怖いんだろうと思う。いや実際、そうなんだけれど。
「―――お前が悪い」
不機嫌な顔。怒っているような顔。でも本当は違う事を俺は分かっているから。分かっている、その頬に微かに熱が灯っているのが…触れなくても分かるから。
「ちっ、いいじゃねーかよ。せっかくこうして二人きりになれたのによ」
こりずにもう一度お前を抱きしめる。今度はちゃんと前から。腕を伸ばして包み込んだ瞬間に、ぴくんっと身体が跳ねたけれど、そのまま。そのままぎゅっと抱きしめたら、諦めたように力を抜いてきた。
「…場所を考えろ……」
そう言いながらも体重を預けてきた事が、嬉しかった。本当にこんな時俺は自分でもどうしようもない程に単純だと思う。こんな些細な事で、嬉しくなっちまうんだから。
「大丈夫だよ、こーんな遅くに部室を訪れる奴なんてそんな物好き、俺とお前くれーだって」
「―――お前が部室に遅くまでいるのが想像出来ねー」
「ひでー、出来ねーって何だよ。俺今ここにいるじゃんかよ」
「…………」
その先の言葉を言おうとして、咄嗟に唇が閉じられた。その事でお前が何を言おうとしたのか、分かっちまった。お陰で口許が自然とニヤけてしまうのを、抑えられない。ニヤニヤと笑ったら、お前にまた頭を殴られた。
「って痛てーなっ!俺がバカになったらどーすんだよっ!」
「これ以上バカになんねーだろ?」
「お前俺を何だと思ってんだよっ!」
「…お前は…お前だろ……」
ぽつりと呟くように言って、お前は視線を反らした。それが照れ隠しだという事は分かっている。本当に素直になれない奴だから。でもそんな所に、惚れている自分がいる訳で。
「まあいいや。好きだぜ、海堂」
耳元に囁くように言えば、腕の中の身体が微かに反応をした。そして俺の言葉に答える変わりに、そっと背中に腕を廻してくる。それがお前の俺に対する返答。それがお前の答え。
「好きだぜ、本当に」
本当に普段から無口で、他人を寄せ付けないオーラのある奴だから。だからこんな風に。こんな風に少しでも、打ち解けてくれているのが分かるのが…嬉しいから。
他人を寄せ付けなくて。何時も独りで。廻りなど関係ないと言うように。
でも俺に剥き出しのライバル意識を見せてくれるのが嬉しかった。嬉しかった。
どんな理由だろうとも、お前にとって俺が『関心』のある人間だから。
例えそれがどんな感情だろうとも、お前にとって俺は視界に入れている人間だから。
どんなカタチでもお前に認識されたいと思った時に、俺は自分の気持ちに気がついた。
だから、近付いた。睨まれようと、拒まれようと。
「…お前はどうして…そう……」
気を逆立てている猫のようなお前。でも本当は。
「いいじゃん、正直な気持ちだから」
本当は、違う。本当は、違うんだ。こうしてお前に踏みこんでゆけば。
「しょーがねえだろ?俺めっちゃお前に惚れてんだもん」
気が付けた。気付く事が出来た。お前はただ不器用なだけなんだって。
「すげー惚れてんの、俺」
他人と上手く付き合う事が出来ない、ただの不器用な奴だって。
それに気付いたら、愛しくて堪らなくなった。抱きしめたくてどうしようもなくて。普段他人を睨み付けているのも、本当はどんな顔をすればいいのか分からないからだって。そうだって、気が付いたから。だから、どうしようもない程にこいつが愛しい。
頬に手を添えてそのままキスしたら、ぴくんっとお前の睫毛が震えた。けれども抵抗する事無く、廻された腕は外される事はなかった。そのままきつく、俺の背中にしがみ付いてくる。こんな所も、すげー惚れている。
「…んっ…止め…んん……」
口ではそう言っているけれど、身体は言っていないのは分かっている。頭に普段から止めているバンダナを外して、そのまま髪を撫でた。少し汗ばんだ髪が指に絡まる。
「…はぁっ…んっ……」
髪に指を絡めたまま、強くお前を引き寄せる。逃げ惑う舌を絡めてやれば、おずおずと動きに答えてきた。根元を強く吸い上げてやれば、飲みきれない唾液が口許を伝う。それでも俺は唇を離さなかった。もっと堪能したくて、何度も何度もその唇を吸い上げ、舌を絡める。
「…やめ…桃…はぁっ…ぁっ……」
息苦しくなって頬を染める頃になってようやく俺はその唇を解放した。こめかみが痺れるまで、呼吸が乱れるまでキスを繰り返した。
「独りで立てねー?」
俺の背中に必死にしがみ付くお前を抱き寄せながら耳元で囁けば、潤んだ瞳が俺を睨んでくる。その双眸に何時もの強さは、なかった。その代わりに何処か縋るような色合いが見えてくる。
「…お前の…せいだ……」
「ああ、俺のせいだな。だからちゃーんと責任取ってやんよ」
そんな瞳に俺は自分でもニヤけていると分かるような顔で笑うと、その身体を壁に押し付けた。
床に落ちたバンダナが視界の端に入ったけど、もうそんな事はどうでもよかった。汗でべとついてるタンクトップをたくし上げ、その下にある筋肉に口付けた。汗が首筋から滴ってくる。それを舌で掬い上げながら、尖った胸に擦り付けた。
「…あっ…くふっ…はぁっ……」
わざと音を立てながら舐めてやると、身体に熱が灯ってくるのが分かる。ぴちゃぴちゃと胸の突起を舌で嬲ってやれば。
「…止めっ…桃城っ…ぁっ……」
唾液でねっとりと光るまでソレを舐めてやると、もう一方の胸の飾りを指で摘んだ。ぎゅっと力を込めて摘んでやれば、びくびくと身体が痙攣する。それを見つめながら、俺は下腹部へと指を滑らせた。
「――――っ!」
ズボンの上から手を突っ込み、自身に触れてやると一瞬息を詰まらせる。そのままぎゅっと唇を噛み締めたが、手のひらで包み込んでやれば耐えきれずにそれは解かれてゆく。
「…あぁっ…あ……」
「随分感じてんじゃん。触っただけでこんなになってるぜ」
既に形を充分に変化させているソレを何度か手で摩りながら、先端の割れ目から縊れた部分にかけて、指を行き来させる。その刺激に耐えきれなくなったお前の膝ががくがくと揺れた。
「…くふっ…はぁっ…あぁ……」
ぽたぽたと汗が上半身から零れて来る。それが綺麗な筋肉を伝って、下半身へと滑り落ちてきた。その液体を先端の割れ目に塗り込んでやる。それだけでびくびくとお前自身が震えた。
「…止め…もう…っ…あぁ…俺はっ……」
「イキたい?薫ちゃん」
「――――!」
理性を失いかけていたお前の目が我に返ったようにギンっと俺を睨みつける。他の奴になら名前で呼ばれても全然気にしないのに、俺に呼ばれる事だけはお前はひどく嫌がっていた。それを知っているからこうやって時々名前で呼ぶ俺は、性格悪いだろうか?
…でも俺にだけ…ってのが…嬉しいから…つい呼んじまうんだよな……
わざと軽い愛撫を与え、お前自身を追い詰める。イケそうでイケないぎりぎりの刺激を与えて、お前を見つめてもう一度聴く。
「イキたい?」
けれどもお前は唇を噛み締めながら俺を睨みつけるだけだった。よっぽど『薫ちゃん』と呼ばれたのが気に入らないらしい。でもそんな所も俺にとっては可愛くて仕方ねーんだけど。
「言わないとこのままだぜ」
「…くっ…ふぅっ……」
出口をぎゅっと指で摘んで解放を止めると、そのまま開いた方の手で秘所を探り当てた。それは既に与えられた刺激のせいでひくひくと蠢いている。入り口を何度か指でなぞると、ずぷりとそのまま中に突き入れた。
「…あっ!…止めろっ…あぁ……」
指で中を押し広げるように掻き乱してやれば、耐えきれずに俺の背中を必死で掴む。脚は震え立っていられずに、全身を俺に預けながら。それに嬉しさを感じながら、俺は蠢いている内部を掻き乱した。くちゅくちゅと音を立てながら。
「…はぁぁ…あぁ…もう…桃城っ…もう…止めっ……」
出口を塞がれながら後を刺激され、お前の前立腺は激しく感じていた。自身も限界まで張り詰めて、目尻からは生理的な涙が零れてきている。ぽたりと、それが俺の頬に当たった。
「…止め…ろっ…こんな…のっ…こんなの嫌…だっ……」
「だってお前が素直になってくんねーから」
目をぎゅっと瞑り必死に堪えているお前を見ていたら、何だか凄く自分が悪者のように感じた。かと言って、行為を止めようと思った訳ではないのだけど。ただ何となく意地悪しているように思えたから。
「…言ってくれよ、なぁ。そうしたらイカせてやるからよ」
それでもそんなお前を見ていると激しい衝動にかられる。このまま滅茶苦茶に泣かしてやりたいと。その口から俺の名前だけを呼ばせたいと。俺だけを刻ませたいと。
「………ろ……っ………」
そんな俺の想いに気付いたのか、それても限界が来たのか…お前は聴き取れないほどの小さな声で、言った。
そのまま身体を壁に押しつけて、お前の両足を持ち上げた。お前の身体が宙に浮いたようになった瞬間、俺は張り詰めた自身を突き入れた。
「―――あああっ!!」
ぐいっと腰を進めて蠢く媚肉に俺を埋め込む。お前の背中が壁に当たって擦れたが、もう俺は止められなかった。夢中になって腰を振って締め付ける内壁の感触を味わう。
「…あああっ…あぁっ…桃城っ!…あぁぁっ……」
「海堂、お前の中すげー熱ちーよ…マジで溶けちまう」
「…あぁっ…あぁぁ…もっ…もぉっ…あぁっ……」
腰を押し付けて、抵抗する内壁を抉る。繋がった個所から濡れた音が響いてきて、それがひどくイヤらしかった。擦れた摩擦が熱を呼び、ソコから熱さが全身に広がってゆく。脳味噌まで蕩けてしまいそうな、熱さが。
「…もぉ…駄目…だっ…ああああっ!!」
びくんっと身体が痙攣をして、お前は耐えきれずに自身を開放させた。その瞬間、中にある俺を強く締め付けてきて、その刺激に耐えきれず俺もお前の中に欲望を吐き出した。
崩れ落ちるお前の身体を抱きしめながら、そのまま冷たい床に寝かせてやる。そうして繋がった個所から自身を引き抜けば、大量の精液が床に流れ出した。
「…掃除…しろよ…お前が……」
まだ息を乱したまま、けれども睨みつけるような視線で俺に向かってお前は言った。唾液の乾いていない唇は艶やかに濡れて、それを見ていたらまたシタくなった。
「…何見てんだよ……」
「いや、もう一ラウンド…お願いしたい…わっ!」
手加減なしに頭を殴られた。まだ快楽が消えていない筈なのに、回復力が早いのが恨めしい。もう少し余韻に浸ってくれてもいいようなものなんだけどなあ。
「――――いい加減にしねーか、絶倫男」
「絶倫って誉め言葉だと思うけど」
「………」
「って睨むなよー、愛しているから」
「…お前が言うとありがたみが全然ねー」
「ひでーこんなに愛しているのに」
想いを態度で示すために抱き付いたら、また殴られた。本当にこいつは手加減って奴を知らねーんだから。でも。
「お前なんて知らん」
でもそう言いながらも顔を背けたお前の頬が微かに紅くなっているのは…俺には分かるから。
だから、抱き付いた。睨まれてもいいから、抱き付いた。好きだぜって想いを伝える為に。