カタチ


輪郭を、なぞる。君の形を、なぞる。
きめの細かいその肌を。濡れた唇を。
その全てをこの指に、刻んで。刻んで。


――――目を閉じていても、耳を塞いでいても。君の全てを僕は記憶しているから。


訳もなく哀しくなる時がある。ただ理由もなく叫び出したくなる時がある。そんな時に僕は。僕は微笑う。わざと声を立てて微笑う。楽しそうに、微笑う。
「―――不二…お前が……」
口許だけ笑いのカタチを作ったら、君は一つ溜め息を付いた。僕の癖など全て君にはお見通しなのだろう。僕の気持ちなど君には見えているのだろう。
「お前が俺には、羨ましい」
伸ばされた手が、僕の頬に触れる。暖かい手だった。暖かな手だった。体温の低い僕には、ひどく。ひどくそのぬくもりが伝わって苦しかった。
「どうして?」
頬に触れた手に指を絡め、そのまま自らの手で包み込んだ。絡み合った指から体温が伝わってくる。冷たい僕の指に、そっとぬくもりが灯る瞬間。君の暖かさが、僕に流れてくる瞬間。
「どんな時でもお前は、微笑えるから」
うん、微笑えるよ。どんな時でも、どんな瞬間でも。きっと僕は微笑っている。一番苦しく、一番辛いその瞬間ですら。きっと僕は唇を笑いのカタチに歪めて。歪めて、声を立てて笑うんだろう。
「君は微笑わないね。どんな時でも、どんな瞬間でも」
「…笑えないんだ……」
ぽつりと呟くように告げた君の本音。それが今この瞬間僕だけのものだと言う事実に、ひどく満足感を覚えた。しあわせだと、今。今この瞬間に思った。けれども可笑しいね、そう思った時に僕の口は笑みの形を作らないんだ。笑おうとは、思わないんだ。
「―――嬉しいと、心から思える事がないのかもしれない」
「僕といても?」
「…不二?……」
「僕といてもそんな瞬間は、見つけられない?」
君を困らせたい訳じゃなかった。君を苦しめたいわけでもない。それでも僕は今君を困らせ苦しめる事を、言っている。こんな事を。こんな事を告げたいわけじゃないのに。
「…俺は…不二……」
分かっている。君が僕といる理由は、嫌という程に分かっている。君にとって僕は唯一自分の弱い部分を見せられる相手。自分の脆さを曝け出す事の出来る相手。君にとって僕はただ。他だ君が救われるためだけの相手。
でもそれでいいんだ。それで、いい。君の為に僕が消費されてゆくのならば、望んで僕は君の為に捧げよう。それで君が、少しでも救われるのならば。
「嘘だよ、手塚。いいんだ、今の言葉は…忘れて…僕は君がいればいい」
「…不二……」
「君がここにいればいい。僕のそばにいればいい。それだけで、いい」
片方の指を絡めたまま、君をそっと抱き寄せた。君の髪から微かな薫りがする。それを知っているのが僕だけならば。僕はきっと。きっとどんな事でも出来るから。


目を閉じても君の顔のひとつひとつを記憶している。
耳を塞いでも君のどんな声も覚えている。


僕にとって君はそんな存在。僕にとって君はそんな存在だから。


記憶する、指先。君のカタチを、記憶する指先。僕の指先全てで記憶する。
「僕が何時も笑っているのは、本当の自分を見せたくない為だよ」
君の髪の柔らかさを。君の頬の滑らかさを。君の輪郭の形を。君の肌のぬくもりを。
「どろどろで醜い僕の本性を」
僕という存在全てで、君を刻めたならば。僕の全てで、君を刻む事が出来たならば。


――――僕は心の底から、微笑う事が出来るだろうか?


何もいらないと、何も欲しくないと。何も望まないと、何も願わないと。そう言う事が出来たら、よかった。嘘でも君にそう言える事が出来たらよかったのに。
「…君を独占したくて、君を誰にも渡したくなくて…君を閉じ込めたくて……」
そうしたら君をしあわせに出来たかもしれない。君の笑顔を見る事が出来たかもしれない。でも僕は。僕はそれ以上に。それ以上に君を望まずにはいられない。君を願わずにはいられない。
「…時々…君を食べてしまいたい衝動に駆られるよ」
これが愛だったなら、もっと。もっと優しくなれたかもしれない。ただの愛だけだったなら、もっと。もっと君を救えたかもしれない。けれどもそれ以上に僕の心が君を渇望する以上。君を欲しがっている以上。
「君を全部食べたら、僕だけのものになるのかなって」
君のこの動いている鼓動も。君の唇も、君の血も、君の体液も。全部全部、取り込んでしまう事が出来たら。僕の中に全てを取り込んでしまえたら、そうしたらと。
でもそうしたら君はもう何処にもいなくなってしまう。君に触れられなくなってしまう。君を抱きしめられなくなってしまう。だから出来ない。出来、ない。
「なーんて思ったりするんだよ、怖い奴だろう?」
君を、想う。君だけを、想っている。僕の持っている感情全てが君に向けられている。どんな感情でも君が起因している。どんな想いも、君に繋がっている。



「…お前なら…俺は怖くない…お前ならば…俺は……」



絡み合う指先は解かれる事はない。ぬくもりはずっと分け合っている。
「…手塚……」
こうして、繋がっている。こうして、絡み合っている。今この瞬間。この瞬間。
「…怖くない…お前には俺はどんな自分も見せている…だから…」
それが永遠ならば。それがずっとならば。それならば、僕は何も怯えなくていい。
「…どんなお前でも…俺は……」
僕は何も怯えなくていい。永遠に君の手が、ここに繋がっているのならば。



永遠なんて何処にもない。ずっとなんてありえない。けれども。
「…うん…僕は君にだけは嘘は付かないから……」
けれども信じたくて。けれども願いたくて。けれども、祈りたくて。
「だからこうしていて。これからもずっと」
もしもを。もしかしたら、を。全てが終わるその瞬間まで。
「―――ずっと…そばにいて……」
信じられたら。願えたら。そして祈る事が、出来たならば。



君のカタチ。君の全て。それを僕の中に、刻む事が出来たならば。

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