身も心も全部。全部、今この場所に曝け出したい。全部、暴いてしまいたい。
「…ちょっ…先輩っ…ん!」
抵抗される前に乾はその唇を塞いだ。塞いでそのまま顎を捕らえ強引に口を開かせると、舌を忍びこませる。こうしてしまえば、自分の勝ちだ。ここまで来てしまえば。
「…や…はっ…んんっ……」
空いた方の手で手首を掴んで壁に押しつける。その間も舌は海堂の生暖かい口中を弄った。逃げ惑う舌を強引に絡め、根元からきつく吸い上げる。それだけで敏感な海堂の身体はぴくぴくと小刻みに痙攣した。
「…海堂……」
たっぷりと口内を蹂躙して、乾は唇を離す。とろりと唾液が海堂の口許を伝い、顎のラインを伝って床にぽたりと落ちた。それがひどく乾の目には、淫靡な光景に見えた。
「…い、いきなりこんな事すんなっ!バカっ!!」
息は荒いままで、瞳は鋭く睨みながら。けれどもうっすらと潤んだ瞳と、掴んでいない方の手が乾の背中をしっかりと掴んでいたから…だからその睨みは意味のないものだった。
「いきなりじゃなければいいのか?」
「そう言う問題じゃねーっ!」
いい加減学習すればいいのに…と乾は思わずにはいられなかった。ああ言えばこう言う事ぐらい分かっているはずなのに。それでも言わずにはいられない海堂は、乾にとって可愛くて仕方ないものだったが。
「だ、大体ここは部室だろうがっ!誰かが来たらどーすんだよっ!」
どうもしないけれど。と乾は言いそうになって、けれども流石にそれを言うのは止めた。そんな事を口にしたら益々海堂の機嫌が悪くなるだけだ。不機嫌になる海堂も可愛いのだが、今はそれよりももっと。もっと違った表情が見たい。もっと違う顔が、見たい。
「大丈夫、鍵掛けたから。それにもう皆帰っているよ」
部内でも海堂の練習好きは有名だ。好きと言うよりも自分扱きのような気がしないでもないが。なので部活後の練習を終えた海堂とかち合う人間など皆無に近い。そんな時間まで残っている方が奇特だ。なので乾は充分に奇特な人間だ。
「だ、だからって」
奇特な乾はこうして海堂を待っていた。無論待っている間も自身の練習を怠りはしなかったが。けれども練習よりもメインは海堂の観察である。新しい練習メニューの為のデーター取りも勿論だが、それよりも一番大事な『海堂自身』のデーターの為に。
「海堂を待っていたんだ、ずっと。そんな俺にご褒美をくれてもバチは当たらないだろ?」
何がご褒美だ…と海堂は思ったが口にするのは止めた。くすりと口許だけで微笑った乾の顔に不覚にもぞくりとしてしまったから。
練習後で身体は疲れている。けれどもそれとは別に意識は昂揚しているのを抑えられない。身体とは裏腹に、心がひどく高ぶっているのが分かる。
「好きだよ、海堂」
それに何よりもこのせいだ。囁かれ重なってくる唇のせいだ。さっきたっぷりと口中を蹂躙されて、身体が火照り始めているのを嫌という程に自覚している。もうこうなってしまったら、海堂は本気で抵抗が出来ない。そしてそれを。それを乾は理解している。理解しているからこそ、さっきのキスで全ての抵抗を抑えつけたのだから。
「…知能犯……」
「それは誉め言葉として取っておくよ」
ぼそりと呟き諦めたように背中に手を廻す海堂に、乾はくすりとひとつ微笑ってキスをした。甘くて蕩けるような、キスを。
部室の床はひんやりと冷たかった。けれどもそんな冷たさなど重なってくる身体の熱さで帳消しになってしまったが。
「…はぁっ…あっ……」
ぷくりと立ち上がった胸の果実を、乾は軽く歯で噛んだ。それだけで海堂の睫毛がぴくりと揺れた。海堂の睫毛は見掛けよりもずっと長かった。普段キツイ目つきのせいで他人が気付く事は中々ないのだが。けれどもこうやって間近で見れば睫毛の長さと瞳の大きさは、嫌という程に分かる。そしてそれが快楽で潤み始める瞬間も。それを見るのが乾の何よりもの楽しみの一つだった。
「…あぁっ…先輩っ…はぁっ……」
敏感な胸を弄られ海堂の頭がイヤイヤと言うように横に振られる。それすらも乾にとっては可愛いものだった。それこそ目に入れても痛くない程に。実際そうなのだから、仕方ないのだ。
「海堂の胸痛いほどに張り詰めてるよ」
「…そ、そんな事…言うなっ!…あぁっ……」
指でぴんっと胸を弾いてやれば、耐えきれずに口から喘ぎが零れて来る。さっきの言葉のせいで身体は面白いほどに朱に染まり、耳までも真っ赤になっていた。
普段不器用で他人と接する事が苦手で、何時も一人な彼。けれどもこうして懐に飛びこんでしまえば、誰よりも素直で可愛い相手だった。口ではどんなに言葉を上手く表現できなくても、顔で瞳で、体温で、海堂は自分の状態を伝えるから。だから。
「…はぁぁっ…あぁ……」
だから逆に誰も海堂の懐の中に飛び込ませたくない。誰もこんな海堂を知って欲しくない。自分だけが知っていればいい。自分だけが分かっていればいい。自分だけが、今ここにいる海堂を知っていればいい。
胸の果実を口に含み、舌先で転がした。同時に開いた方の胸を指の腹で潰すように撫でる。そのたびに口から零れる声を知っているのは自分だけ。それが何よりも乾の心を満たした。
「―――やっ!」
足首を掴み、乾は強引に海堂の脚を開かせた。その間に滑り込むと下着ごとズボンを脱がし、形の変化させ始めた海堂自身を口に含んだ。
「…やめっ…先輩っ…あぁっ……」
「嫌じゃないでしょ?口の中で段々大きくなってきているよ」
口に含みながら乾は海堂に告げた。そのたびに予測もしない場所に歯が当たって、海堂自身に強い刺激を与える。それだけで、がくがくと両膝が震えた。
「…やぁっ…そんな事…言うなっ…あぁっ……」
「だって本当の事でしょう?もうこんなになっているよ、海堂」
「…はぁっ…あぁぁっ…あっ……」
一端口から離すと乾はソレを手で包み込んだ。先端の縊れた個所を指の腹で擦りながら、割れ目の部分をなぞる。くいっと爪を立ててやれば、びくんびくんと手の中のソレが震えた。
「…あぁ…あ…せんぱっ…はぁぁっ……」
「もう先走りの雫、零れてきてる。我慢出来なくなった?」
「…違っ…あぁっ……」
ぺろりと乾は零れ始めた先走りの雫を舐めた。そうしておいてもう一度生暖かい口の中にソレを含む。強く歯で先端を刺激してやれば、あっという間に乾の口の中に海堂は欲望の証を吐き出した。それをごくごくと喉をわざと鳴らしながら、乾は飲み干す。
「そんなに良かった?泣いちゃうくらい」
「…うっ…うっせー……」
開放感に身体を痙攣させながら、海堂は目尻から生理的な涙をぽたぽたと流していた。気持ちよくて、止められなかったのだ。けれどもまだこれで終わりじゃない事は分かっている。コレ以上にもっと。もっと強い刺激を乾から与えられる事は。
「でもごめんね、もっと泣かせちゃうね」
くすくすと乾は微笑う。眼鏡の奥にある瞳も微笑っている。この顔を海堂は好きだと、思う。馬鹿みたいだけど、こんな風に笑っている乾が好きだった。目を細めて子供みたいに嬉しそうに、そして優しげに微笑う乾が。
例えこんな風に厭らしい行為をしていても。していても、乾は海堂に向ける笑みだけは…苦しいほどに優しいのだ。優しいから、だから。だから何をされても海堂は拒めない。どんな事を、されても。
「…くっ……」
こんな風に一番恥ずかしい場所に指を埋められて、掻き乱されても。濡れた音を立てながら、何度も指が行き来をしても。
「…くふっ…はぁっ…はっ…ぁ……」
初めは痛みしかない行為だった。貫かれる痛みに気を失いそうになり、それでもその衝撃で意識を飛ばす事が出来なくて。そのうちに違うものが背筋からじわりと支配してきて。支配、されて。そして痺れるほどの快感が全身を襲った。何も考えられなくなって、ぐちゃぐちゃになって。気がついた時には自分はイッていた。
それから幾度もこうして身体を重ねあってきた。不思議と嫌悪感はなかった。それどころか何時しか自分もこの行為を何処かで望んでいる事に気が付いてしまった。
そう、気が付いてしまった。どんな場所よりも、どんな所よりも、この腕の中が一番心地良いのだと。一番、安らげる場所なのだと。
だからこうやって。こうやって身体を重ね、鼓動を重ねる事は…嫌じゃないんだって。
「―――海堂、挿れていい?」
指が引きぬかれる刺激にも、海堂の身体は震えた。そして耳元で囁かれる言葉にすらも。既に秘所はひくひくと蠢き、新たなる刺激を求めている。それを拒む事は海堂には出来ない。出来ない、から。
「…バカ…そんな事…聴く…なよ…っ……」
海堂が視線を横に向けながら怒るように告げた。そんな海堂に対して乾は何よりも愛しげに微笑ったが、その表情を見ることは叶わなかった。その代わりにゆっくりと自分の中に挿ってきた楔の熱さが、何よりも海堂に想いを伝えていたけれど。何よりも熱い、想いを。
「…くっ…はぁぁぁっ!!」
ずぶずぶと音を立てながら媚肉に楔が挿ってくる。熱くて硬い、その楔が。引き裂かれるような痛みと、押し広げられる刺激。それに海堂は耐えきれずにきつく乾の背中にしがみ付いた。
広くて大きな背中。こうしてきつくしがみ付いてもビクともしない背中。何よりも安心出来る、背中。
「…あっ…ああっ…あっあっ……」
中で肉が擦れ合っているのが分かる。深く貫かれ、腰を揺さぶられ。痛いほどに押し広げられた内壁。そこから熱が広がって、どろどろに溶けてゆくのが分かる。どろどろに、溶けてゆくのが。
「熱いね、海堂の中。火傷しそうだよ」
「…あああっ…あぁっ…あぁぁぁっ!……」
このまま溶けてもいいかなと、思った。このままぐちゃぐちゃに溶けちゃってもいいなと思った。このまま境界線がなくなって、ひとつに溶けてしまうのも。
けれども溶けてしまったら、背中に手を廻せないから。こうして身体を重ね合う事が出来ないから。
「海堂、好きだよ、海堂」
「…ああっ…あぁっ…ああああっ!!」
最奥まで深く抉られたと感じた瞬間、海堂の中に熱い液体が注がれる。どくどくと注がれる液体を感じながら、海堂も自らの欲望を吐き出した。
全部、暴きたい。君の全てを暴きたい。
「ゴメン、きつかった?」
他の誰も知らない君を、俺だけの君を。
「…平気っス……」
君の表情全てを、俺だけのものにしたいから。
少し照れながらぶっきらぼうに言う君の顔。それも全部。全部、俺だけのもの。
優しく抱きしめられ髪を撫でられて、海堂はそっと目を閉じた。帰り支度をしないといけないと思いながらも、もう少し。もう少しこのぬくもりに包まれていたいと思った。何よりも自分が安心出来るこの場所にいたいと思った。