MELLOW BLUE


いっぱいの、我が侭も。いっぱいの、気まぐれも。


「本当に英二先輩は…素直ですね」
背中にぎゅっと抱き着いてきた腕に桃城は苦笑しながら、菊丸の背中を抱きかかえてやる。何度か大きな手で摩ってやれば、気持ちよさそうに菊丸は喉を鳴らす。まるで、猫みたいだ。
「いいんだ、だって俺好きなんだもん」
背中にしがみ付いたまま菊丸は桃城の首筋をぺろりと舐めた。こんな仕草もまるで猫がじゃれているようだ。本当にまんま、猫みたいな人だと思う。
「気持ちイイ事ですか?」
「うん、好き。気持ちイイ事大好き。でも」
「―――でも?」
「でもお前じゃなきゃ、嫌だぞっ!」
普通そこで自信満々な顔にはならないと思うけど…そう言いたかったが桃城はぐっと言葉を飲みこんだ。こんな時少しでも相手の意に反する事を言えば、たちまちに不機嫌になるのは分かっているから。本当に猫並に我が侭で、気まぐれで、気分やなのだ。
「うん、俺も英二先輩じゃないと嫌ですよ」
けれども可愛くて仕方ない。自分よりも年上のはずのこの人が、本当に可愛くてどうしようもない。目に入れても痛くないって言ったら、きっとバカにされるだろうけど。
桃城にとっては本当に菊丸はそんな存在だった。どうにも出来ないくらい、可愛くて仕方ない。
「じゃあキス、ね。キス」
嬉しそうに目を閉じて唇を突き出す菊丸に、桃城は拒む事無く答えた。こうやって人と触れ合うのが大好きなのだ。少しでも何処か繋がっているだけで、本当に嬉しそうな顔をする。
何処までも素直で、何処までも正直で。そんな菊丸だからこそ…桃城は完全に白旗を上げるくらいにお手上げになっている。そのくらい、参っている。
「…んっ…桃…っ……」
頬を包み込み唇を重ねれば、積極的に口を開いて舌を絡ませてくる。そんな菊丸に答えながら、桃城は何度も何度も角度を変えてキスをした。菊丸が望む限り、菊丸が望むだけ。
完全に自分の方が負けているのだから、相手の望みを叶えるのは当然なのだ。だからいっぱい。いっぱい、キスをしてあげる。
「…ん…ふぅ…ん…はぁっ……」
ぴちゃぴちゃと濡れた音を立てながら舌が深く絡み合う。その間桃城は菊丸の髪を撫でてやりながら、ゆっくりとその場に押し倒した。畳の薫りが一瞬菊丸の鼻孔をくすぐったが、それは与えられるキスの感触にすぐに思考は奪われていった。甘い、キス。蕩ける、キス。くすぐったいほどの心地良さが、菊丸の意識をゆっくりと溶かしていった。
「…桃……」
唇を離してその顔を見下ろす頃には、菊丸の瞳は既にとろりと溶けていた。こんな所もひどく、素直だ。自分が感じている事を決して。決して隠そうとはしない所が。
「何ですか?先輩」
「…服、脱がしてにゃ……」
「はいはい、先輩」
思わずくすっとひとつ、桃城は笑ってしまった。言わなくても脱がすつもりだったが、言われてみると妙に心をくすぐるものだ。更に手を上げて『脱がして』と行動に訴える所は犯罪的に可愛いと思う。この人は意識せずにこういったことを自然にやるから、だから桃城は目が離せないのだ。
「ちゃんと脱がしてあげますからね、大人しくしてくださいね」
大人が赤ん坊の服を脱がすように、桃城は菊丸のワイシャツのボタンを外していった。ぷちぷちとする音に菊丸はもじもじと反応をする。変な反応だ。でもそれこそが菊丸らしい所でもあった。
「むぅ、俺もやる」
しばらくされるままにしていたのだがすぐに飽きたらしく、菊丸は手を伸ばして桃城の服のボタンを外し始めた。ここでいいですなんて言うとたちまち機嫌が悪くなるので、させたいように桃城はさせた。本当に次の瞬間には機嫌が変わったりする人なので。
菊丸は桃城のシャツのボタンを全て外すと、そのまま上半身を起こして目の前にある胸板にキスをした。桃城の方は菊丸のシャツを肩から外そうとしていた時だった。
じっとしていないせいで、中々こっちの方はてこずっている。けれども構わずに菊丸は厚い桃城の胸板にキスを何度も繰り返す。そのたびに髪が顔に当たってくすぐったかった。
「先輩、あまり遊ばないでください。服、脱がせられないですよ」
「あ、ごめんにゃ。でも桃のココ美味しい」
「…美味しいって…先輩……」
にっこりと笑ってぺろりと自らの舌で唇を舐める菊丸はそれだけで扇情的だった。けれども全く本人に自覚はないのだけれど。上目遣いに自分を見上げながら、紅の舌を唇から覗かせる。その顔だけで既に桃城の性欲はばっちり煽られてしまった。本当に色んな意味で罪作りな人である。更に自覚が全然ないのだから、タチが悪い。
「もう先輩は…俺我慢できなくなりました、速攻襲いますよ」
「きゃはは、いいにゃ。いっぱい、気持ち良くさせてにゃ」
にこにこと笑う菊丸に桃城は大きな溜め息をひとつ、付いて。そのまま起こしていた菊丸の上半身を畳に押しつけて。
「―――本当に…先輩には…俺一生勝てないっすよ……」
押しつけてぼやくように呟いて、そのままその身体に顔を埋めていった。


一生勝てないと感じた相手。一生勝てなくていいと思った相手。
この人ならどんな我が侭も。どんな気まぐれも。どんな事でも。
振り回されてもいいと思った。掻き乱されてもいいと思った。
自分のペースになんて持ち込めなくてもいい。その変わり。その、変わり。


―――絶対に、離したりしないから……


浮かび上がった鎖骨に舌を這わせながら、尖った胸を指で摘んだ。ぎゅっと握ってやれば、びくびくと組み敷いた身体が震える。それがひどく、愛しい。
「…あっ…あんっ……」
「先輩、気持ちイイ?」
「…ああんっ!」
親指と中指で胸の果実を摘みながら、人差し指の先でカリリと突起を引っかいた。その刺激に耐えきれずに菊丸の手が桃城の髪に伸びる。短く切られた髪だったけど、必死にその手は掴もうとしていた。
「気持ちイイ?」
「…イイよっ…イイよぉ…桃っ…!」
もう一度耳元で囁きかけると、こくこくと頷きながら菊丸は答えた。こんな時、菊丸は自分が感じている事を隠そうとはしない。素直に自分が感じていると桃城に伝えてくる。
「本当だね、気持ちイイってココも言ってるよ」
「ああっ!」
ズボンの上から菊丸自身をなぞった。既に形を変化させているソレは、摩られただけで反応を寄越す。腰を震わせながら、菊丸は桃城の手に布越しにソレを押しつけてきた。
「…やだ、桃……」
「何がですか?」
「…ズボンの上からじゃ…ヤダ…ちゃんと触って……」
涙目で睨めつけるように言うセリフではないだろうと思いながらも、桃城はその要望に答える事にした。本当に自分に、正直だ。本当に自分の欲求に、誰よりも素直だ。
「じゃあ腰、上げてください。脱がしてあげるから」
「…ん……」
言われた通り素直に菊丸は腰を浮かせると、桃城は器用にズボンと下着を脱がした。ワイシャツだけが中途半端に腕に絡みついた格好になっている。それは下手に素っ裸でいるよりも、ひどく欲情を誘うものだった。
「本当、英二先輩…天然だなあ」
「…むっ、何が天然なんだよぉ?……」
「いえいえ、色っぽいなぁって事ですよ」
ちゅっと額にキスをすると、桃城はこれ以上反撃をされないために菊丸自身に直接指を添えた。大きな手で包み込んでやると、気持ちよさそうに喉を仰け反らせる。目を閉じ、唇を開いて、甘い声を零してゆく。
「…はっ…あっ…あんっ…あぁんっ……」
「先輩これで満足?」
「…あぁっ…は…イイ…桃っ…もっと……」
「もっと触って欲しい?」
「…もっと…もっとぉ…ああっ!」
目尻から涙を零しながら、菊丸はコクコクと頷いた。それに答えるために桃城は愛撫している手の動きを性急にしてゆく。菊丸を昇り詰めさせるために。大きな指の腹で先端を擦ってやりながら、同時に後の秘所へ指を入れた。
くちゃくちゃと掻き乱してやりながら、前のほうも弄ってやる。敏感な個所を両方攻められて、菊丸の意識は真っ白になった。何も考えられなくなって腰を振って自ら刺激を求める。もっと、もっと、と。
「…桃…指…じゃなくて……」
「先輩?」
「…指じゃなくて…こっち……」
快楽の為に縺れた菊丸の手が、桃城のズボンのファスナーに触れる。そしてそのままファスナーを下ろして自身を取り出すと、充分に熱く滾ったソレを指で包み込んだ。そして。
「…こっちが…欲しい……」
「先輩もう我慢、出来ないの?」
「…出来…ない…欲しいよぉ……」
夜に濡れた瞳で欲求を恥らう事無く告げる菊丸。どんな時でも、どんな瞬間でも、誰よりも自分に正直な彼。だから、好き。だから、参っている。完敗だって悔しくなく言える唯一の相手。
「俺も欲しいです。先輩の中で、イキたいです」
見掛けよりもずっと細い菊丸の腰を掴むと、そのまま一気に桃城は中に突き入れた。きつく締め付ける菊丸の媚肉の中に。


擦れ逢う肉の感触が、気持ちイイ。きつく締め付けてくる内壁が気持ちイイ。眩暈がするほどに、イイ。
「…ああんっ…あんっ…あああんっ!」
腰を掴み身体をがくがくとゆすぶった。そのたびに胸の果実が痛いほどに張り詰め、紅く熟れてくる。その色の誘惑に耐えきれずに桃城はその突起を口に含んだ。音を立てながらむしゃぼるように吸い付けば、蠢く媚肉は益々桃城を締め付けてきた。
「…はぁぁぁんっ…あんっあんっ!」
「先輩、気持ちイイ。マジで俺イッちまう」
「…あぁぁっ…桃っ…桃っ!」
桃城が腰を打ちつけるたびに、菊丸の脚が腰に絡みついてくる。少しでも刺激を逃さないようにと、ぎゅっと絡みついてくる。それと同時に痛いほどに締め付けてくる中の熱さに、溺れながら。溺れ、ながら。
「もう駄目…俺…っ…!」
「――――ああああっ!!!」
くっ、と桃城が喉を鳴らし目を閉じた瞬間に、菊丸の中に熱く生臭い液体が大量に注がれた。それを感じながら、菊丸も自らの腹の上に精液を飛び散らせた。



首筋に絡まってくる手。何処でも、触れていたいのだろう。
「…キス…桃、キス……」
何処でもいいから、触れていたいのだろう。でもそれは。
「―――はい、先輩。幾らでも」
それは自分も同じ。同じ、だから。


何処でもいい、触れていたい。何処でもいい、繋がっていたい。



いっぱいの我が侭も、いっぱいの気まぐれも。
全部、叶えてあげるから。全部、聴いてあげるから。
だから俺だけの。俺だけのものでいて。


どんな事でも叶えてあげるから。どんな事でも聴いてあげるから。
だから、一緒にいて。ずっと、ずっと、一緒にいて。



「…幾らでもキス、してあげますよ。先輩が望むなら……」

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