銀の砂 <後編>

前編中編後編



「パーシバル将軍、その傷はどうされ…クレイン殿っ?!」
「触るな、私は大丈夫だ」
「しかし…将軍もクレイン殿も…医者を呼びます、傷の手当てを」
「――――いい…医者は要らない…」
「パーシバル将軍?!」
「…もう誰にも……」


「…誰にも…お前を触れさせはしない……」


心配し駆け寄る部下たちを引き払い、パーシバルはクレインをその腕に抱いたまま自室へと戻っていった。自ら浴びた血も、傷も全て。全て剥き出しのままで。羽織っていたマントでクレインの身体を包み込み、他人にその陵辱の痕を見えないようにして。
もう誰も。誰も彼に触れてほしくなかった。例え医者だろうとも、この痕を誰にも見せたくはなかった。
「――――」
自分の手当ては後回しにしてパーシバルはクレインの傷の手当てをした。幸いにも内臓までは到達していなかったが、身体中に殴られた痕と陵辱の痣が残っている。それをひとつひとつ手当てを施した。その間にも思い出したように胸の傷が痛んだが、構わずに行為を進めた。脚を開き引き裂かれた器官を目の当たりにすると、胸が締め付けられるほどに苦しくなる。もしも自分がもう少し早く気付いていれば、こんな事にはならなかったかもしれない。こんな風に男たちに陵辱される事も。
「…お前は…どうして……」
どうして『自分』を振り返らないのかと。どうして自分よりも…私を優先させるのかと。
「…それでも言うのだろうな…私のためなら何でも出来る、と」
何時から彼はこんなにも自分の事を思っていてくれてたのだろうか?何時からこんなにも…。そんな素振りを見せた事は一度もなかった。ただ空気のように自分のそばにいる存在。それが当たり前のように。当たり前の、ように。
そしてそれが崩された瞬間に、気付く事。気付かされる事。その存在がどんなに大切だったかを。
「…クレイン……」
欲望が沸き上がる。このままこの身体を自分だけのものにしたいと。けれども今の彼にそれをする事は、出来はしない。自分が彼を抱きたいと言えば、迷わずにその身体を差し出すだろう事は、分かっているから。
「私は本当に自分勝手だな…今まで何でもない事が、こうして気付いた瞬間に…どうにも出来なくなる」
自分でも持て余してしまうほどの想いが沸き上がり、そして。そして溢れてくるのを止められないでいる。こんなにも。こんなにも、と。
傷の手当てをし、その身体を綺麗に洗ってやった。その間クレインは死んだように眠っていた。起きる事すら出来ないほどに身も心も傷つき、そして疲れていた。そんなクレインをパーシバルは誰にも触れさせることなく、自らの手で…全てを行った。



目覚めた瞬間に飛び込んできたのは、光の粒子が零れてきらきらと光る金色の髪だった。その髪に触れたくて。触れたくて、そっと。そっと手を、伸ばした。
「…パーシバル…将軍……」
名前を呼んだ。そっと、呼んだ。けれども聴こえてくるのは微かな寝息だけで。そしてシーツの上から感じる、重みだけだった。
「…パーシバル…様……」
クレインは寝かされていたベッドから静かに上半身を起こした。そのたびに身体の節々が痛んだが、それすらも今の自分にとっては。
「…ずっと夢見てました。ずっと夢でした……」
もう一度髪に、触れる。ずっと触れてみたいと思った髪、だった。ずっとこうやって触れてみたいと。この指先に、この感触を感じたいと。
「―――貴方にとって『必要』な存在になる事が……」
好きで。好きでどうしようもなくて。どうにも出来なくて。ただ想いだけが積み重なって。ずっと、ずっと。
「貴方のこころに王子しかいないと分かっていても…それでも何処かで願っていました」


「…貴方のこころの小さな場所でいいから…僕の存在を置いて欲しいと……」


綺麗な金色の髪と、前だけを見つめている視線。
馬に乗り、剣を取り、前線で戦い続ける貴方を僕は。
僕はずっと追いかけていた。ずっと追い続けていた。
誰よりも強く、そして誰よりも自分に厳しい貴方は。
そんな貴方は僕にとっての憧れで、そして目標だった。


そんな想いが何時しか別のものへと変わってゆくのを、止められなかった。


「…パーシバル将軍……」
何時も見ていた。貴方だけ、見ていた。
「…好きです…ずっと……」
貴方だけを追いかけ、貴方だけを捜し。
「…ずっと…貴方だけが……」
やっとこうして辿り着けた。貴方へと、辿り着けた。



「―――泣くな…クレイン……」



ふわりと髪が揺れ、そして大きな手がクレインの頬に掛かる。そっと包み込み、そして零れる涙を拭う指先。この指先が自分にこうして与えられている事が、まだ。まだクレインには夢のようで。
「…ごめんなさい…僕……」
一生懸命に微笑おうとするクレインを、パーシバルはそのまま腕の中へと抱き止めた。そっと背中を撫でてやれば、安心したように体重を預けてくる。そんな事ですら、パーシバルにはひどく愛しいものに感じた。ひどく、愛しいものだと。
「…そう言えば…お前が私の前で『僕』と言わなくなったのは、何時からだったか?……」
「…パーシバル将軍……」
「そして私をパーシバルではなく『将軍』と、呼ぶようになったのも」
見上げてくる紫色の瞳は、ただひたすらに一途だった。真っ直ぐに自分を見上げてくる瞳。真っ直ぐに、自分を見つめる瞳。
「―――貴方が『騎士軍将』となったその日から」
おずおずと背中に手が、廻される。そんな仕草を愛しく思いながら、パーシバルは強く腕の中の肢体を抱きしめた。こうしてぬくもりを感じる事で、生きている事を確認する為に。
「その日から、僕はそうする事でこの想いを閉じ込めようと思いました」
「何故?」
「…これで貴方は心だけでなく身分も全て…国を…いえ王子を護る為だけに生きていくのだろうと思ったから」
「――――」
「…でも…今は…『私』でも…『将軍』でもなく……」
視線が、瞳が、絡み合う。ゆっくりと結ばれ、そして。そして繋がってゆく。やっとこうして同じ位置で、同じ場所で、視線を合わせる事が出来たから。
「…ああ…クレイン…あの頃のように呼んでくれ…」
真っ直ぐに見つめることが、出来たから。真っ直ぐに向き合える事が、出来たから。
「…はい…パーシバル…様……」
そっと降りて来る唇にクレインは目を閉じた。睫毛に口付けられ、瞼に、頬に、鼻筋に。静かに降って来る唇の感触に、睫毛が震えるのを抑えきれなくて。そして。そして唇が重なった。



「…パーシバル様……」
「うん?」
「…僕でいいですか?…」
「ああ、お前がいい」


「…お前が…いい……」



ずっとこうして抱き合っていた。何をするわけでもなく、ただずっと。
ずっとこうして互いの体温と、命の音を感じて。重なり合う鼓動を、感じて。


―――ずっと一緒に。ずっと、ふたりで。




「…抱いてください…僕を……」




どのくらいこうしていたのか、どのくらい抱きしめあっていたのか。分からないほどぬくもりが重なった時、腕の中のクレインがぽつりと、呟いた。
「――――クレイン?……」
その言葉に腕の中の愛しい顔を見下ろせば、真剣な紫色の瞳にかち合う。一途で真っ直ぐな揺るぎ無い、その瞳に。
「…僕を全部…貴方のものにしてください……」
まだ潤むように濡れている瞳が、切なげに自分を見上げ。そしてただひたすらに、剥き出しの想いが向けられる。隠すことなく、一途な想いが。
「それは出来ない」
「…どうしてですか?…僕の身体が穢れているからですか?…僕が汚いからですか?」
パーシバルの否定の言葉に、クレインの顔が哀しげに歪む。そんな顔をさせたい訳じゃなかった。そんな言葉を言わせたい訳じゃない。ただ、自分は。
「違う、そういう事じゃない」
これ以上傷つけたくなくて。これ以上傷を抉りたくなくて。これ以上…壊したくはないから。
「だったら…どうしてですか?」
「―――優しく出来ない」
想いは溢れている。どうしようもないほどに、溢れている。もしも今自分がこの気持ちのまま、この想いのまま、その身体を抱いたなら。
「…パーシバル様?……」
「こんな状態のお前を今の私が抱いたら…きっと壊してしまう……」
抱いたらきっと。きっと壊してしまう。自分がセーブ出来なくて、思いのままに激しく貫いてしまうだろう。
「私は自分を抑える自信がない」
あれだけの恐怖と、あれだけの残酷な事を、その身体に刻まれたお前に。そんなお前にまた傷を作ってしまうかもしれないから。
「…壊してください……」
「クレイン?」
「…貴方に壊されるならそれでもいい…だから…僕を抱いてください……」
壊して。無茶苦茶にしてしまうかもしれないから。愛しくて、愛しいから。けれども。
「…お願いです…穢れた僕の身体を…貴方が…洗い流してください……」
けれどもお前がそれを、望むと言うならば……。


「…貴方を…感じたいんです……」


髪を、撫でた。柔らかいその金色の髪を、撫でて。
微かに濡れたその紫色の瞳を瞼に焼き付けて、そのまま。
そのまま唇を奪う。激しく貪り、そして……。


ぱさりとシーツの乾いた音がした。その音を何処か遠くで聴きながら、クレインは与えられる口付けの感触に瞼を震わせた。舌が唇を舐め口内へと侵入すると、そのまま答えるように自分から舌を絡めた。
「…んっ…ふっ……」
角度を変えながら何度も何度も互いの口中を貪る。それだけでは耐えきれなくて、指先を絡めあった。離れていたくないと思った。繋がっていたいと思った。何処でもいいから、触れていたいと。何処でも、いいから。
「…ふぅ…ん…はぁっ……」
唇が痺れるほどキスを繰り返し、名残惜しげに離れた先からは銀の糸が二人を結ぶ。それがクレインの口許にぽたりと垂れた。それをそっとパーシバルの舌が掬い上げる。顎のラインを辿るように、舌を這わせながら。
「…んっ…ぁ……」
ぴくんっとざらついた舌の感触にクレインの身体がひとつ跳ねた。それを確かめるようにパーシバルの指がクレインの素肌に触れる。所々に付けられた痣と傷に、指と舌を滑らせながら。
「痛いか?クレイン」
紫色に腫れ上がっている腹部の傷に触れた瞬間、パーシバルは囁くように尋ねた。その言葉にクレインは首を左右に振った。
「…平気です…貴方が触れてくれるなら……」
健気とも言える言葉を告げ自分を見つめるクレインに、パーシバルは愛しさを堪えきれなかった。髪を掻き上げその額に唇を落とすと、何度もその手で痣に触れる。大きな手の感触がリアルにクレインの皮膚から、伝わった。
「もう二度とこんな事をするな」
「…パーシバル様……」
「私の為に何でも出来ると言うなら…誓え。私の見えない場所で、私の手の届かない場所で…傷を作るな、と」
それは誓えません、貴方が好きだから…そう言おうとした言葉は、パーシバルの唇によって遮られてしまった。クレインがそう言うだろう事が分かったから。分かったから、口付けで言葉を塞いだ。
「どんなになろうとも…私のそばから…離れるな……」
「…あっ……」
真剣な瞳がクレインを射抜き、言葉を止めさせる。そして何かを言わせる前にパーシバルは胸の果実に指を触れ、言葉を吐息へと摩り替えた。
「…あぁ…ん……」
大きくしなやかな指が、クレインの胸の突起をきゅっと摘む。その感触にクレインの身体は小刻みに震えた。摘んだまま指で転がされ、軽く爪を立てられる。その刺激に敏感なソコは痛いほどに張り詰めた。
「…あ…ぁ…パーシバル…様……」
ならず者達の指とは違う。ただ乱暴に自分を追いたてる指とは違う。優しい指、だった。それでいて饒舌な指だった。クレインの感じる個所を探り当て、そして的確に快楽の火種を作ってゆく。その刺激にクレインの長い睫毛が、揺れた。
「…はぁっ…あぁ…あ……」
傷に触れ、痣に触れ。そして癒され浄化されてゆく身体。パーシバルの指が舌が、ならず者達が付けた痕に触れてゆくたびに。触れてゆくたびにクレインは。自分が少しずつ綺麗になれるような気がして。少しずつ…綺麗になれる気がしたから。
「…クレイン…お前は、私のものだ……」
「…はい…パーシバル様…貴方だけのものに…してください……」
溶けてゆく。甘く、溶けてゆく。あれほどの恐怖も痛みも全部。全部溶かされてゆく。その手が、舌が、溶かしてくれる。
「…貴方だけのものに……」
唇がもう一度吸われ、それと同時にパーシバルの手がクレイン自身に触れた。微妙に形を変化させたソレを手のひらで包み込むと、先端部分に指を這わす。それだけで手の中でどくどくと熱く脈を打っているのが伝わった。
「…あぁん…はぁっ…あぁ……ああんっ!!」
側面を撫で上げ、くびれの部分を何度か指でなぞった。何時しかとろりと先端から先走りの雫が零れて来る。それを指の腹に擦り付けパーシバルは強く先端を扱いてやった。その瞬間、大量の精液がパーシバルの手のひらに吐き出された。


「…くっ……」
自らの吐き出した液体で濡れた指がクレインの秘所へと入ってくる。それは痛みと…快楽だった。何度も抉られ傷を負っているソコは確かに異物に対して痛みを伴ったが、それ以外のものも含まれているのを否定できなかった。ならず者達によって受け入れる痛みと、そして受け入れる事の快感を知ってしまった媚肉は、その刺激を求める事を止められなくなっていた。
「…く…んっ…あ……」
指が中で、蠢いている。ゆっくりと媚肉を押し広げ、中を掻き乱す指。内壁は何時しかそれに淫らに絡みついていた。くちゅくちゅと濡れた音を立てながら。
「…あ…ふぅ…ん……」
「…クレイン……」
名前を呼ばれて、じわりと快感が押し寄せてくるのが分かった。あの男たちの太く乱暴な指とは違い、優しく淫らな指。そして何よりも。何よりも、愛する人のものだから。
「…パーシバル…様……」
「痛くはないか?」
耳元に息を吹きかけられるように囁かれ、クレインは首を横に振った。不思議なほどに痛みを感じなかった。初めて男たちがここ指で抉じ開けた時、あれだけ苦痛を感じたのに。今は苦痛所か、むしろ。むしろもっと違うものが…。
「…平気…です…あっ……」
耳たぶを、噛まれる。それと同時に中を指で抉られる。その刺激にクレインの口からは止められない甘い息が零れた。零れて、広がり、シーツに濡れた染みを作る。
「…あぁん…あ……」
一度吐き出したはずのクレイン自身も再び震えながらも立ち上がっていた。後ろだけで、立ち上がった。その指がパーシバルのものだと言う事実が、クレインに何よりもの快楽をもたらして。
「…あ…ぁ…パーシバル…様っ……」
おずおずとクレインの手が伸ばされ、パーシバル自身に触れた。それは既に大きさを変化させ、硬く熱くなっていた。自分を求めて変化してくれているのだと思うと、それだけでクレインは感じた。指から伝わるどくどくとした脈の音にすら、身体は感じた。
「分かるか?クレイン…お前が欲しくてこんなになっている……」
「…パーシバル様…僕も……」
耐えきれずにクレインはパーシバルに腰を押し付けた。互いの欲望が重なり合い、熱く滾っているのが分かる。それだけで。それだけで、もう…。
「…あっ……」
ちゅぷりと音とともにパーシバルの指がクレインの中から引き抜かれた。その刺激にすら…唇から震えると息が零れた。そして。
「いいか?クレイン…怖いのなら、言え」
そして腰を抱かえられて、硬いものが入り口に当たった。あの時は恐怖でしかなかった。あの瞬間はそれだけだった。でも。でも、今は。今は違うから。違う、から。
「…僕にとって怖い事は…貴方が何処にもいない事だけです……」
「…クレイン……」
「…こうして貴方が生きて…そして僕を抱いてくれているのに何が怖いというのでしょう?」
クレインの白い腕が、パーシバルの背中に廻される。細い腕が、思いの丈を込めてその背中にしがみ付いて。そして。
「…こうして…貴方に…触れられるのに……」
そっと微笑う、その瞳から零れた一筋の涙は…決して快楽のせいだけじゃ…なかった。


息を詰めた瞬間に、パーシバルの楔がクレインの中へと侵入してきた。媚肉を掻き分け、硬い楔が奥へと進む。ずぷりと音ともに埋め込まれてゆく。
「…あああ…あああっ……」
何度も抉られ引き裂かれた傷が、また血を流した。それに気付いたパーシバルは腰を引こうとしたが、クレインの脚が腰に絡まりそれを引き止めた。
「…クレイン…無理は……」
「…駄目…抜かない…でっ…お願いだから……」
自ら必死に背中にしがみ付き、腰を押し付け凶器を奥へと捻じ込んだ。どろりと太腿に血が流れるのも構わずに。構わずにクレインは腰を進め、パーシバルを自分の中で感じた。感じたかった、から。誰よりも何よりも、こうして自分自身の身体で、感じたかったから。
「―――クレイン……」
「…あああっ……」
動きを止めようとはしないクレインを、パーシバルは彼の性感帯を刺激する事で痛みを和らげた。胸へ指を這わし、零れる涙を舌で掬う。そして自分からも中へと入っていった。
「…あぁ…あぁっ…パーシバル…様っ…あぁぁ……」
根元まで埋めると、パーシバルは一端動きを止めた。本当はこのまま。このまま自分の欲望のまま彼を貫きたかったが…それを寸での所で堪えると、そのままその顔を見下ろした。
苦痛で綺麗な眉が歪んでいる。濡れた唇からは悲鳴のような声が零れ、それでも絡み付く脚は解かれる事はなかった。背中にしがみ付く腕も離されることはなかった。
「私はどうして気付かなかったのだろう…こんなになるまで…お前への想いを……」
「…パーシバル…様……」
「…こんなにもお前が愛しく…こんなにもお前が欲しく…そしてこんなにも……」
睫毛が揺れるたびに紫色の瞳から雫が零れ落ちた。それは痛みの為でも快楽の為でも、なかった。それはただひたすらに、喜びと切なさの涙だった。
「…こんなにもお前を…愛している……」
「…僕も…パーシバル様…僕も…貴方だけが……」
繋がったまま口付けをした。背中に廻していた指を離させて、そのまま指を絡めあった。繋げる個所は全て。全て繋がりたかった。全て絡み合いたかった。鼓動を重ねあって、粘膜から熱を感じて、指先から…ぬくもりを感じて。何よりも、何よりもそれが。それがきっと。きっと今一番、欲しかったものだから。
「―――動いてもいいか?クレイン」
その言葉にクレインはこくりと頷く。指を絡めあったまま、パーシバルは自らの腰を使い始めた。抵抗する媚肉を掻き分け、何度も中へと打ちつける。そのたびにぎゅっと締まる中の熱さに眩暈すら覚えながら。蕩けるほどに熱い、クレインの中に。
「…あああ…あぁ…ああんっ……」
シーツがしわくちゃになり、波を作った。肉が擦れ合う濡れた音が室内に響く。接合部分が熱く擦れ、焼けるほどだった。けれども互いに夢中の二人にはそれすらも、全て。全てが互いの命の音にかき消されてゆく。そして。
「――――ああああっ!!!」
一瞬クレインの視界が真っ白になった瞬間。その瞬間、彼の身体の中に熱い液体が注ぎ込まれた。



「…お前の…髪……」
指先が、触れる。汗で濡れた髪に。
「…顔の形…肌のぬくもり、唇の形……」
輪郭を辿り、頬に触れ、唇を指がなぞる。
「…全部…私のものだ…クレイン……」
その感触にひたすらに。ひたすらに睫毛が震える。


「…誰にも…渡しはしない……」



降り積もる声に、そっと瞼を閉じた。
降り積もる声に、唇に心を預けた。



「…はい…僕は…ずっと貴方だけのものです……」




好きだった。ずっと、好きだった。
貴方だけが好きで。貴方だけを求めて。
何時も何時も欲しいものは一つだけ。


――――貴方だけが…欲しかった………



「…クレイン……」
重なり合う唇。何度も重ねあって。
「…パーシバル様……」
重ねあって、ずっと。ずっと、ずっと。
「もう何処にも行くな。私のそばにいろ」
このまま永遠に。永遠、に。
「…はい…行きません…何処にも…だから…」


「…だから…僕を離さないで…ください……」



その言葉にパーシバルはきつく。きつくクレインを抱きしめた。
言葉の代わりに、誓いの代わりに抱きしめ、そして口付けを交わす。
そこから伝わる熱い想いが、全てだと言うように。



ずっと貴方だけを見つめていた。ずっと貴方だけを追いかけていた。






「―――離さない…二度とお前を…決して…離しはしない……」