ずっと闇にいた私。闇の中にいた、私。
真っ暗な場所で膝を抱え、そして。
そして蹲るだけの、小さな小さな、私。
――――そんな私に与えられた光は…何よりも暖かいもの…でした。
『ずるずる…じゃなかった…ソフィーヤ、おい待てよ』
同じ闇の使い手なのに、貴方はひどく暖かかった。貴方の心はとても綺麗で、そして暖かかった。
『ほら、やんよ。魔道書ってリザイアだけどな…お前の持ってる奴よりは劣るけどさ』
暖かくて優しくて、そして。そしてとても気持ちがしあわせになれる。気持ちがそっと満たされる。だから。だから、私は。
『いざと言う時に切り札は取っとけよ…だからこれ使えっ!』
私は貴方のそばに、いたかった。貴方のそばにいられれば、それだけでよかった。
何も望まないから。何も願わないから。
その優しい光が、そっと私に照らされれば。
些細な貴方の優しさだけで、光が。
貴方の光がただ優しく私に降り注いでくれるから。
――――それだけで…よかった……
貴方の、光。優しい、光。
闇を探求する貴方自身から輝く。
その暖かい光だけが、ずっと。
ずっと私の心の支えだった。
あの悪夢の日々から、こうして地上に再び這い上がってきた私に、不器用だけど差し出されたその手だけが。
あの夢から醒めると、何時も決まって身体がどくんどくんと熱く脈打っているのがソフィーヤには分かった。
「…また……」
額からはぽたりと汗が滴り、身体が小刻みに震えている。震えて寒いはずなのに、身体は火照っていて。そして。
「…また…私は……」
そして逃れられない恐怖と相反する本能に、ただひたすらに苛まれるしかなかった。
目を閉じれば嫌がおうでもその記憶は蘇る。まだロイ軍に加わる前の。あの地下牢から…助け出される前の、あの悪夢のような日々。
『…いやっ…いやぁっ…!』
まだ何も知らなかった少女の身体を無残に貪った男たち。深い地下牢に閉じ込め、毎日のように犯され続けた日々。
男たちの欲望を受け入れされる事だけが、自分の生かされている理由だった日々。その日々の中でソフィーヤの身体は何時しか男を受け入れる事を覚えていた。快楽を…仕込まれていた。
それは彼女の理性とは別の部分で、嫌と言う気持ちとは別の部分で。
―――本能というものが…自分に埋め込まれている限り……
嫌だった。嫌だった。知らない男たちに身体を弄られ、欲望を受け入れさせられる事が。嫌で嫌で、堪らなかった。でも。
「…あ……」
でもこの身体は、覚えている。覚えてしまっている。貫かれる快感を、中を掻き乱される快楽を。嫌でも、この身体が。
「…っ……」
身体の火照りと疼きが止まらない。どくどくと脈を打っているのが分かる。そして寝巻きの上からでも分かる…胸の突起が張り詰めている事が。
「…わた…し……」
この胸を大きな手で揉まれ、張り詰めた突起を指で転がされ、そしてざらついた舌で嬲られた。それは吐き気がするほど気持ち悪かったはずなのに。なのに、何時しか。
「…私…私…あっ……」
恐る恐るソフィーヤは自らの手をその乳房へと持っていった。そして布越しに触れてみる。自分の指先なのにひどく。ひどく、感じた。
「…あっ…あぁ…駄目…こんなっ……」
手のひらで胸を掴みながらもう一方の指で尖った乳首をぎゅっと摘む。その痛いほどの刺激にソフィーヤの長い睫毛が、震えた。
「…あぁ…んっ…はぁっ……」
駄目だと、分かっている。でも止められなかった。胸を掴む手の強さは次第に強くなり、布越しでは耐え切れずにそのまま直に胸に触れる。ボタンを外し白い胸を曝け出すとそのまま強く揉んだ。
「…ああんっ…あんっ……」
ぎゅっと乳首を指で摘みながら、もう一方の手を服の裾に持ってゆく。そしてそのまま手を忍ばせると、下着を外して茂みに触れた。
「ひゃあんっ!」
外側の柔らかい肉をなぞりそのままずぷりと指を埋めた瞬間、びくんっと身体が跳ねた。電流が走ったような刺激に、ソフィーヤは切なげな声を漏らす。
「…くふっ…はぁっ…あぁ……」
中を指で掻き回しながら、胸を強く揉んだ。同時に襲ってくる刺激に、ソフィーヤの口からはひっきりなしに甘い声が零れる。もう、止められない。
「…あぁんっ…あんっ…はぁんっ!……」
あの時は男たちの指だった。無数の男たちの指。代わる代わる色々な指が自分の身体を弄った。けれども。けれども、もしも。
…もしもこの指が…この指が…貴方だったら……
「…あぁ!……」
駄目だと、思った。駄目だって。
「…だ…めっ…あぁ……」
そんな事を考えたら駄目だって。
「…あぁ…レ…イ……」
でももしもこの手があの。
「…あぁぁっ…あぁ…もぅっ……」
あの不器用な、彼の手、だったなら。
「――――あああんっ!!」
瞼の裏に浮かんだ顔をどうしても消す事が出来ずに…出来ないままにソフィーヤは自らの指に大量の蜜を滴らせていた。
「…私は…私…は……」
光、闇の中にぽつんとある光。
貴方だけが、私にくれたもの。
貴方だけが…私に、与えてくれたもの。
――――大事なもの。とても、とても、大事なもの。
ソフィーヤは、泣いた。声を殺して泣いた。
男たちから陵辱を受けたあの日々ですら、涙を零さなかったのに。
どんな時でも涙を零す事だけは、しなかったのに。
「…ごめん…なさい…レイ……」
一番大事なこころの宝物を、自分が汚してしまった事に…耐えきれずに、泣いた。