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 FUJIMA SIDE



―――友情と恋愛の境界線は、何処で引けばいいのだろう?

「愛する方と、愛された方では、何方が罪が重いんだろうな」
脱ぎ散らかされた衣服を無造作に取って、藤真はそれに袖を通した。生憎ワイシャツが少し、しわくちゃになっていたけれど。
「さあ、俺には分かりませんよ。でも人間なんて、恋愛する為だけに生まれたような動物ですからね」
素早く着替えを終えた仙道が藤真の前に立つと、ゆっくりと覆い被さるように口付けた。
「―――でも、愛が無くてもこういう事は出来ますけれど」
「愛の無いセックス?」
「そう、俺と貴方みたいに。でも俺たちの関係は上手くいっている」
「まるで、共犯者みたいだ」
くすくすと藤真は微笑うと、仙道の首筋に腕を廻して自分から彼に口付けた。そんな藤真の口づけを全て仙道は返しながら、途中まではめていた藤真のワイシャツのボタンを全て留めてやる。
「脱がされるかと、思った」
唇が離れて藤真が真先に言った言葉に、仙道は苦笑混じりに微笑った。そしてこつんっと額を重ねて。
「なら、ご希望に添えましょうか?」
頬から顎に掛けての滑らかなラインを指で愛撫する。それだけで藤真の瞼は微かに、震えた。
「遠慮、しとくよ。明日学校に行けなくなる」
「真面目ですね、藤真さん。ちゃんと学校行ってるんだから」
「お前は行っていないのかよ?」
「行っていますけど。そこは、臨機応変にね」
「―――遊び人」
「貴方こそ。でも、もう止めた方がいいですよ」
「……どうして?………」
藤真の瞳の色彩が一瞬、変化する。それは本当に一瞬の事だったけれど。でも、仙道はそれを決して見逃さなかった。
「だって貴方、傷ついている」
「……………」
「そうやって自分を偽れば偽る程、傷ついてゆく…違いますか?……」
藤真は何も、言い返せなかった。言い返せる筈がない。だってそれは事実だから。傷つきたく無くて自分は必死で逃げているのに、結果的に自分は前よりもっと傷ついている。
――――もっと、傷ついている。
「貴方は賢いし、駆け引きも巧みだ。けれども、肝心な部分が未だ子供だから」
「……何だよ…それ………」
「貴方は一番基本的な感情を知らない。そしてそれは多分、貴方が最も恐れていて、そして最も望んでいるものですよ」

ホテルをチェックアウトして自宅のマンションへと戻る頃には、もう既に空は明け始めていた。
藤真はそのまま真っ直ぐ家に帰る気にはなれずに、近くの公園へと向かった。流石にこの時間帯に人は居なかったが、却ってその方が藤真には都合が良かった。
「……傷ついている、か………」
藤真はブランコに腰掛けると、小さく漕ぎ始めた。その度にきいっとブランコは軋んだ音を発てた。
仙道は全てを見透かしている。幾ら自分が必死で隠そうとしても。彼はその全てを見透かしてしまう。
「…やっぱ俺って、卑怯だよな………」
仙道の腕は、優しい。決して自分を傷つける事も、真実を見せる事も無いから。そして、何も彼も忘れさせてくれるから。
でも。
―――それに何時までも逃げてはいられない事もまた、知っている。
何時しか自分で全ての事を、精算しなければならない時が来ると。何時しか自分が、真実と向き合わなければならない時が来ると。知っているけれども。
「…未だ…逃げていたいなんて………」
知っているからこそ。もう少し、このままで。このままでいたかった。もう少し、子供のままで。
―――夢の中で生きていける、子供のままで。

―――都合のいい恋愛なんて、存在しない。
嘘で固められた真実なんて、誰も幸せになれやしない。

「俺って、相当なお節介ですね」
仙道は苦笑混じりにそう言うと、目の前の花形を見つめた。
彼は相当のポーカーフェースなのか、先程から全く表情を変えていなかった。
――――それとも。
「―――ああ、お節介だ」
それとも、今更だったのかもしれない。もう彼は全てを、知っていたのかもしれない。
「でも放って置けなかったんですよ。俺、藤真さん好きだから」
「お前は『好き』と言う言葉を、誰にでも言うのか?」
「そうですね。基本的に俺、嫌いな人っていないんですよ。だから貴方も好きですよ、花形さん」
「―――お前…らしいな………」
「性分ですから、こればっかりは。でもまあ、それがいけないのかも知れませんけれど」
「……え?…………」
花形の問いに、仙道は答えなかった。多分それは彼だけの問題で、そして彼だけしか解決出来ないものだろう。だから花形も敢えてもう一度尋ねようとはしなかった。他人には、入ってはいけない領域は誰にでも存在するのだから。
「藤真さんは、本当に貴方が好きですよ。多分貴方が思っているよりも、ずっとね」
「――――」
仙道の言葉に、花形は答えなかった。正確には、答えられなかった。その言葉を肯定する事も否定する事も、花形には出来なくて。
――――出来る筈が、無い。今でも瞼の奥にはあの時の藤真の表情が、焼きついているから。
初めて、藤真に想いを告げたときの。あの脅えたような瞳が。
「―――花形さん。藤真さんを傷つける事が出来るのも、救う事が出来るのも貴方だけなんですよ」
そして今にも泣きそうな瞳で、微笑っていたその顔が。

――――藤真、好きだ。花形は真っ直ぐな瞳で、そう藤真に告げた。
それは剥き出しの想いで、嘘も駆け引きも何も存在しなかった。真実だけを告げた想い。それは今まで藤真の知らない想いだった。いや、敢えて知ろうとはしなかった想いだった。
何時も自分はそれに向き合う前に、離れて行ったから。
――――でも花形は視線を逸らす事なく、本当にそれだけを藤真に伝えた。
多分それが他の人間だったなら、何時もの調子でかわす事が出来ただろう。また何時ものゲームのように、巧みな言葉遊びを展開していただろう。でもそれが他でも無い花形だったから。自分はどうしていいのか分からなくて、そこから逃げた。今までの男達のように、気儘な関係で居られないと分かっていたから。だって花形の求めたものは、自分の身体だけじゃなかったから。彼は自分の心を、求めたから。自分の、全てを。
――――でも本当は、死にたいくらいに、嬉しかった。

―――不器用な恋愛しか出来ない子供でも、ちゃんと物事を考えている。

―――結局その日、藤真は学校へは行かなかった。
一日中頭からすっぽりと布団を被って、ベッドの上で膝を抱えていた。けれどもそうしても、冷えた身体は全く暖まらなくて。心は、凍えたままで。
「……俺って…さいてー………」
ぎゅっと布団を引き寄せながら、藤真はぼそりと呟いた。誰も居ない室内に時計の音だけが、かちかちと響いていた。
子供の頃、時計の音がひどく嫌いだった。誰も居ない夜に響くこの音が、何時も胸の奥を針のように突き刺すから。
このまま眠ってしまおうと思って、藤真は意識を溶かしてゆく。けれどもそれは、突然鳴ったインターホンによって遮られてしまった。

――――瞳の奥の真実に、気付いてしまったから。

「……はな…がた?………」
驚愕に見開かれた瞳が、花形を見上げる。その瞳が微かに濡れているのは、自分の気のせいだろうか?
「…どうして?…お前………」
茫然と玄関に立ち尽くす藤真に、花形は柔らかく微笑って。
「―――藤真に、逢いたかったから」
それだけを言うと花形は、そのまま藤真を抱きしめた。その瞬間びくっと藤真の肩が震えたが、廻した腕の優しさに安心したのかゆっくりと身体の力を抜いてゆく。
「この間みたく、拒まないのか?」
腕の中で大人しくしている藤真の髪を撫でながら、花形は呟いた。けれどもその声は、決して藤真を非難するものではなくて。
「……お前が…悪いんだ………」
ひどく優しく、そうまるで自分を甘やかすような声で。だから、藤真は。
「………藤真?………」
何時しか藤真の手が、花形の広い背中へと廻る。そしてきつく、花形の上着を掴んだ。
「…お前があんな事言うから…俺は…どうしていいのか分かんねーだろっ……」
「―――藤真………」
「何で、今のままじゃいけないんだよ?どうして、俺を困らせるんだ?!」
何時も何時も花形は、自分を困らせる。その真っ直ぐな視線も、逸らされる事の無い瞳も。それは今まで藤真の知らなかったものだったから。
「ごめん、でも好きなんだ」
真っ直ぐな想い。嘘も偽りも何も無い。上辺と飾りだけで生きてきた自分とは、全く正反対の。でも、それは。
「藤真が、好きなんだ」
本当はずっと、憧れていたもの。ずっと欲しかった、純粋な想い。ずっと。
「…だったら…何でこんなに……」
見上げて来た藤真の瞳が、切なくて。苦しくて。本当はこんな瞳を彼にさせたくはなかった。
「……俺を…傷つけるんだよ………」
させたくは、無かった。彼には何時も微笑ってほしかったから。
「―――ごめんね………」
もっと自分が器用な人間だったら良かった。そうしたら藤真にこんな瞳をさせる事もなかったかもしれない。もっと自分が上手に言葉を伝えられたなら。藤真を、傷つける事も無かったかもしれない。けれども。
「……ごめんね…藤真………」
けれども、自分はこんな愛し方しか出来ないから。器用な恋愛なんて、出来ないから。
―――こんな風にしか、想いを伝えられないから。

―――ずっと君が、幸福でいられるように。それだけを祈っていた。

今でも未だ、分からない。どうしていいのか、なんて。
でも、一つだけ自分は分かった事がある。
自分はこの手を離す事が出来ない、と。
―――他の誰にも、この手を渡す事は、出来ないと。

「……責任…取れよ………」
この胸の痛みも、苦しみも。全部、花形へのものだった。全部、花形への。だから。
「……藤真………」
「お前だけが俺を困らせるんだ。お前だけが俺を苦しめるんだ。だから」
藤真は顔を上げると、花形を見つめた。その瞳は、真っ直ぐ花形を見つめていた。今まで花形が自分へと向けていた視線のように、決して逸らされる事の無い瞳。
「全部、責任取れよ」
それだけを言うと、藤真は花形に口付ける。それが契約の証とでも、言うように。
「―――分かった、藤真。俺が全部」
花形の手が藤真の頬を包み込む。暖かい手のひらから伝わる体温が、ひどく心地好くて。
「お前を、引き受けるよ」
藤真はゆっくりと瞼を閉じた。それを確認して花形は、ゆっくりと藤真の唇に口付けた。そのキスはひどく、甘いものだった。

未だ何一つ見えては、いないけれども。
それでも、何処かで知っていた。

自分は全てを失っても、彼を選んでしまうだろう、と。


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