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 SENDOU SIDE



くるくるとよく変わる表情。
そして、何時も真っ直ぐな瞳。
その真っ直ぐな瞳が、ひどく自分には眩し過ぎて。

その瞳の輝きを、護りたかったから。

「仙道、お前何やってたんだよっ!」
その顔は何故か泣きそうなのを必死で堪えている子供のような表情だった。
学校に来た途端、つかつかと大股で自分に歩み寄って。怒りに任せてそう怒鳴ったかと思ったら、次の瞬間には…そんな顔をしていた。
「何って?越野」
こんな時に不謹慎かもしれないが、どうしようもない程に可愛いとそう思ってしまう。本当にお前の見せくれる色々な表情が、愛しくて。
「昨日お前ん家に電話したら全然いねーんだもんっ!俺…心配……っ!」
心配と言った途端、はっとして口を手で抑える。そして次の瞬間にはひどく悔しそうな顔をした。そんな負けず嫌いな所も…大好き、だよ。
「ごめんね、越野」
お前の無邪気さと、その純粋さが好きだ。何時でも真っ直ぐで、どんな事にでもムキになって、そして。そしてどんなものに対しても一生懸命なお前が。
――――そんなお前が、大好きだよ……。

他人の事にはこんなにも器用になれるのに。
どうして自分のことだと、不器用になるのか?

「―――仙道…久しぶり」
「藤真さん」
綺麗になったと、思う。前から口説かずにはいられない程に綺麗な人だったけれども。愛されている事と愛する事の本当の意味を知ったこの人は、前よりもっと綺麗になっていた。
「どうです?花形さんと上手くやってますか?」
「お前が細工したんだろ?」
咎めるように言いながらも、顔は笑っていた。幸せなんだろう。今このひとはやっと本物の幸せを手に入れたのだから。
…じゃあ、俺は?俺は何時『本物』を手に入れるのか?
「でもいいじゃないですか、貴方が今幸せならば」
「まあね」
「言いますね」
「最近開き直っているから、ノロケるんだ」
「くす、羨ましい事ですね」
遊びだけのセックスでは、やっぱりこのひとの本当の美しさを引き出す事は出来ないのだろう。今の藤真を見ていると仙道はそう思わずにいられない。本物を手に入れたモノの、強さと輝きを感じずにはいられない。
「でも惜しい事をしたな。貴方がこんなに綺麗になるなら手放すんじゃなかったですよ」
「まるで昔は綺麗じゃなかったみたいだな」
「いえ、前も綺麗でしたけど…もっと魅力的になったって」
「愛されているからね」
「本当に前向きだなぁ」
「…お前は?…」
ふと、藤真の表情が変化する。それは仙道が初めて見る彼の表情だった。何時も男を惑わせ、そしてどこか淋しい彼の表情とは違う…そう、違う。今の彼は自分自身以外の人間を気にかけている。他人の事を、気にかけている。
「お前は、前向きじゃないの?」
「どう見えますか?藤真さんには」
ひとは、変われる。何度でも変わる事が出来る。何度でも生まれ変わる事が出来る。それを教えてくれたのは、目の前の貴方。
「…物足りなさそうに、見える」
「そう、見えますか?」
「見える、欲しいモノがあるのに手が出せないって顔している」
くすくすと子供のように笑うその顔は、自分の考えが当たったことに対する笑顔だろう。それを仙道は否定しない。確かに藤真の言う通りなのだから。
「手を出してみたら?案外簡単に落ちるかもよ」
「…簡単に落ちるような相手ならとっくに落としてますよ」
「そんなに手強いの?」
「ええ、手強いですよ。最高に、でも可愛くて仕方ないんだ」
―――もしかしたら言い訳なのかもしれない。汚したくないと言う想いは。その想いは、自分を拒まれたらと言う怯えから来ているのかも…しれない。
何時でも他人に拒まれた事はなかった。欲しいモノは手に入れて来た。自分が好きだと思えば、必ず相手も好きになってくれた。自分の好意を拒まれた事はなかった。けれども。
けれども初めて本気で欲しいと思った相手だから。初めて本気で好きだと…愛していると思った相手だから。
だから、何処か臆病になっていたのかも…しれない……。
「手強いほど燃えるんじゃないの?お前ってそう言う奴だろう?」
「流石、藤真さん。分かっているなぁ」
「だったらチャレンジのみなんじゃないの?」
とても綺麗な笑顔を向ける彼に、仙道は笑った。そして、告げる。

――――確かに、そうだね…と。

らしくないと、思った。自分らしくないと。何をこんなに躊躇していたのだろう。
今までずっと欲しいモノは手に入れて来た。どうしても欲しいモノは血の滲むような努力をして。なのに何故、お前だけは。お前だけはこんなにも戸惑ってしまったのか。
こんなにも、欲しくてたまらないのに。こんなにも。

やっぱりお前はびっくりまなこの瞳を俺に向けた。
ただでさえ大きな瞳なのに、限界まで開いて。本当にそんな所がどうしようもないくらい好きなんだ。
「な、何お前言って……っ」
「好きだよ、越野」
「ちょ、ちょっと待て仙道俺は男だし…その…」
「ごめんね、でも大好きなんだ」
そう言って身体を引寄せて、この腕に抱きしめる。まださっきの告白のショックが抜けないのか茫然としたまま、けれどもすっぽりとその身体が腕の中に収まった。
「―――っ!わーーっ仙道っ!!」
その事態に気付いた越野が腕の中でじたばたする。その仕草ですら、仙道には愛しくて。そして愛している。
「お前暖かいな。体温高いね、子供みたいだ」
「どーせ俺は子供だっ!」
子供と言われた方が、今の事態よりも深刻らしい。思いっきり拗ねた顔で自分を睨んでくる。
―――本当に…どうしてお前はこんなにも俺の心をくすぐるのか……
「子供でも、大好きだよ」
「だーかーらーっどーしてお前は」
「しょうがないじゃん、好きなんだから」
「うっ」
「どうしたの?越野」
「…ふ、不覚だ……」

「お前に好きって言われて…どきどきしてしまったじゃないかっ!」

どうして。どうしてお前はそんなにも。
そんなにも俺を揺さぶるの?
どうしてこんなにも。
愛していると、自覚させるの?

「そりゃーこんなにイイ男に言われたらどきどきするだろう?」
「な、何言ってんだこのたらしがっ!」
「たらしじゃないもん。今はお前だけだもん」
「…う、嘘言え…」
「本当だよ、お前に恋してるただのバカな男だよ」
「…し、信じない…」
「じゃあどうしたら信じてくれる?」
「…そ、それは……」
「じゃあこれで、信じて」

そう言って、そっと。そっとお前にキスをした。

「わっ!!」
「そんなに驚かなくても…」
「お、驚くわっこのバカっ!!」
「バカだよ。恋する男はバカだって言うだろう?」
「…バカだっお前本当にバカだっ!!」
「うん、バカだよ」

「お前に恋し過ぎてね」

信じられない。
信じられない、なんでお前が俺を好きだなんて言うのか。
だってお前はスーパースターだし、お前に憧れる女だっていっぱいいるし。
その気になれば幾らだって。幾らだって相手を選べるのに。
それなのにいきなり俺だなんて。
信じ、られないよ。でも。
…でも…本当は……

―――本当は凄く、嬉しかった……

「へへ、越野可愛い」
ぎゅううっと音が聞こえそうな程に抱きしめられて、不覚にも俺はちょっと…うん、ちょっとだぞ…嬉しかったりする。
「こらっ仙道このバカ力がっ!!」
「だってやっとお前が俺の腕の中にいるんだもん。離さない」
「…離さないってお前…俺の気持ちは無視なのかっ?!」
口ではそう言っているけど…言っているけど…多分俺の顔は今違う表情をしているんだろうな。だってさっきからこいつの口許が緩みっぱなしだから…。
「越野は俺が、嫌い?」
「…そ、その質問はずるいぞっ!俺が嫌いって言えないの知ってて……」
「じゃあ好き?」
「…そ、それはその……」
その質問も、ずるいぞ。俺は恥かしくて答えられないじゃないかっ!
「…その…」
「じゃあこっちに聞くから、いいよ」
そう言ってお前はもう一度俺に、キスした。それはどうしようもない程に、甘くて…。

大好きだから。
大切だから、護りたい。
何よりもお前のことを。
その瞳の輝きが失われないように。

俺の全てで、お前を護ってやるからな。

……好き…だよ……

越野の呟きは小さ過ぎて、仙道の耳にしか届かなかった。けれども、それだけで充分だから。それだけで。


真実は、手の届く所にあるのだから。

END

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